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純で旬なミルクティ
 純で旬なミルクティ(歌詞)     '05.12作
                      作詞・曲 : POPSTAR


 昼下がり海辺に立つわたし 慣れないカメラで景色を切り取る
 二時間前ラッシュに逆らい あなたの面影追いかけるの
 
 砂が舞う 青い海 美しい波の調べ
 
 いつからでしょこんなに自分演じられる気持ち
 あなたが居たから大人になれた気がします 
  愛をくれたミルクティのような甘いささやき
 …思い出してます

 人並みにオシャレもしてます 右手であなた無邪気に笑ってる
 二年前お弁当を持って 出掛けた浜辺は相変わらずね
 
 穏やかで 優しい 頼れた彼の背中
 
*いつからでしょう他人をかばう優しい気持ち
 あなたがくれたから素敵になれた気がします
 純で旬なミルクティのような甘いあなたを
 忘れないよ ずっと

 幸せになろうってわたしにくれたプロポーズ
 この世界から消えたあなたを今でも愛してるから

 いつからでしょうこんなにあなたを思う気持ち
 忘れても消えない大切な宝物です
 たとえ傷つき泣いても強くなってゆきたい
 この海のように

* (繰り返し)
 ありがとう forever



 純で旬なミルクティ(モチーフ)

 いつもの東海道線ホーム、知穂は上り方面の列に並ぶ。まだ週の半ばのウィークデー。何気に見かける顔ばかりだ。初夏の匂いもターミナルじゃめまい同然っ!今日のウォークマンの音楽は、あの人が好きだった[sleep yellow]。ラフなビートが心地良い。そんな彼はもうこの世界には生きていない。しばらく忘れていたのに… 今の彼とは結婚を決めている。何故かよみがえる熱い気持ち。どうしてだろう、背中に滑り込むオレンジの電車に乗り込んだ。海沿いの小さな駅、電車が去りゆくと音も無い世界。

ここは眩しい灼熱のビーチ。もうすぐ遊泳も解禁となるでしょう。知穂はあの日、彼に連れられこの海辺に降りた。記憶を辿り、二人休んだ防波堤に腰掛ける。ここで昼にしたような。彼のために作ったサンドウィッチも懐かしい思い出です。右に座る彼の横顔を伺いながら食べてたんだ。緩やかな湾の浜辺には、優しい波が打ち寄せています。まるで彼の愛に包まれた私の様に。素敵な時間て、ひとかけらの貝殻の様でちっぽけで短いよね? 知穂は空のあなたに語りかけてみる。

-いつからでしょう。他人をかばう優しい気持ち。あなたが教えてくれたから素敵になれた気がします。純で旬なミルクティのような甘い人。あなたの面影は永遠に消えないの。けど、私には今があり明日があるから。この海の様に大きな気持ちで。強くなるね-
                          

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

| 恋愛小説 | 01:06 | トラックバック:0コメント:2
LADY
*約30分作

 片想いの彼女は俺には振り向いてくれないと思う。みんなそれぞれ好みや考え方が違うから、自分なんかに興味持たないであろう。そう自分で決め付けていた。清楚な彼女が今日、キャンパスを横切っていた。そして自分よりも遥かにいい男と一緒に歩いていた。そんな光景を見掛けてからようやく諦めが付いた。不器用で、お世辞でもいい男でない俺を好む女なんて知れている。その晩、やけくそでバイト先で知り合った尻軽女を誘いカラオケに行った。双方に恋愛感情なんてない。たぶん相手もそうだろうと思っていた。だからその女、玲子(れいこ)を気軽に誘ってみた。
「ねぇー、知ってる~?」
マイクを通した甲高い声が、頭に突き刺すような勢いで俺を圧迫する。
「何?・・・」
俺が答えても、玲子はもったいぶって言おうとしない。
「朝まで遊んでくれたら話してあげる」
女は言うとぼくの肩に手を回しキスをせがんだ。
「ごめん、そんな気になれない・・・」
「ばーか」
そう言って玲子はシュンとしてしまった。そして終いには泣き出してしまった。「泣くことはないだろ?! それに、何が言いたいんだか?」
彼女は背を向けたままボソッと言った。
「佐藤くんのこと好きって言いたかった」
「俺のこと?」
「うん」
これでも俺は一流大学に通う学生なんだ。こんな落ちこぼれの玲子になんてもてたくもない。この時はそう思い、俺は先にカラオケルームを出た。

 バイトの倉庫仕事は、一日勤務とパート勤務とがあった。学生の身分である自分は、週に四回夕方からのパート勤務に入っていた。三日振りにバイトに出た。丁度その時、朝から働く人たちが20畳ほどある休憩室に入ってきた。その中に玲子の姿を見つけることが出来なかった。また煙草でも吸いにいっているのだろう。しばらくしてから、品のある女性が入ってきた。
「嘘だろ・・・玲子?」
心の中で俺は戸惑っていた。それは見違えるような変身振りであった。シュンと伸びたアイラインが大人びていて、ボサボサだった髪型もきちっと決まっている。ブカブカのジーンズも、シャープなパンツに変わり、胸のポケットには煙草ではなくシャープペンシルが差されている。そのセンスはまさに自分好みであった。俺の目線に気付いた玲子は、微笑んでも見えたがキリッとして休憩室の外へ出て行ってしまった。
「あいつ変わったよなぁ?」
年上で社員の奥村がそう俺に言った。
「驚きましたよ」
「玲子、今週から事務に転向にさせたんだ」
「そうなんすか」
そう言われると何となく納得もするのだが、どちらが本来の姿であり、仮の姿なのだろうかと考えてしまった。そしてひと月経つが、俺と玲子は一言も言葉を交わすことなく不思議な関係となった。いつしか玲子は、休憩室にも顔を出さなくなった。前みたくあか抜けた彼女はいなかった。講義のある日には、中程に陣取る片想いの彼女の背中を眺めてはタメ息を付いた。一般教養ではほとんど一緒になることを時には辛いと思った。

 ふた月経つ頃、俺は長い春休みに入り朝からバイトに通う日々が続いた。駅から10分の道のりを急ぎ足で歩いていくと玲子の姿を見つけた。何故だか反射的に気まずいと思うようになっていた。ペースを落として歩くことにした。それは、自分の気持ちの中に彼女への好意が芽生えていたこと以外ほかなかったからだ。その数日後、食堂で彼女とばったり会った。二人は避けることなく窓際の席に並んで座った。煙草もやめ、すっかりレディーとなった玲子は俯く俺の横顔を見ていた。思わず箸を落としてしまった俺を見て彼女は笑ってみせた。
「いけねぇ」
「ダメじゃん!」
彼女の高い声を久々に聞いた。何故かホッとした。たったその一言で、彼女が前と変わっていない本質を俺は感じ取った。そして勇気を出して言った。
「ねぇ、知ってた?」
「何が?」
彼女は目を丸くして訊いた。
「俺が君のこと好きってこと・・・」
すると玲子は‘フ~ン’といった顔をしてからにやけてみせた。
「振るなら振っていいぞ」
「わかった。そうするね」
彼女はそう答えると、何事もなかったかのようにご飯を食べ始めた。
正直、玲子に言われた言葉に打撃を受けた。俺の心の中にある重力が抜け言葉も出ない。そして不安定になった。無言のまま二人は昼食を食べ終えた。
「佐藤君、好きよ!・・・でも今彼氏いるの」
玲子は、俺にウインクしたあとその場を去って行った。女は強いなぁと思う。これ以上ないダメージを受けた俺は、クラスの片想いの子にアタックする決心を付けたのだった。

テーマ:短編・読みきり小説 - ジャンル:小説・文学

| 恋愛小説 | 02:01 | トラックバック:0コメント:0
春のS.L.S.② 部屋とTシャツと私~ナインティーンガールの片想い
(序 章)
 とある漁港の町で、民宿を営む家庭に私は生まれ育ったの。食卓に並ぶ料理と言えば必ずと言っていいほど魚があってね。そして裏庭で育った野菜と、母が知人より仕入れてくるお茶。県の名産品がお茶だから、近くの台地まで走ると一面お茶畑が広がっているんです。一年前に高校を卒業した私は就職するも挫折して、町の食堂でアルバイトをしながら家業の民宿を手伝うことに決めました。そんな私の性格は、男まさりでさっぱりしていると皆は言います。それはもう、男女問わず友達からは子と呼び捨てだし、服装だってジーンズオンリー。夏ならTシャツ一枚、寒くなればその上にオーバーを羽織るくらいだもの。

(本 編)
この話は、私が19歳の頃のお話です。ちょっぴり片想いしました。その人は私よりも沢山の人生を生きてきた人です。

 新年を迎えてから我が民宿にその人は現れました。私がバイトに出ている時間帯です。二階にある部屋を見てから、「ここに三ヶ月程滞在したい」と言ったらしいの。はじめ、単身赴任とか出稼ぎだろうと両親と話していたんですが、一向に部屋から出てこなかったりで。それでも、最初に三ヶ月分の料金を一括払いしてくれたことで怪しい感じもしてなくて、私ともすれ違う度に笑顔で挨拶してくれる感じのいい人だったのです。名前は浅香さん!その浅香さんは食事中、「これでも人見知りの性格なんですよ」と自分で話し出してから、年齢の近い父の晩酌相手にもなっていました。そこでわかった事は、25年連れ添った奥さんと別れ、息子さん、娘さんとも別れ、行き場を失ったという話。理由は奥さんに新しい男ができたみたいで。たぶん人の良さそうな彼が出て行く立場を選んだのでしょう。仕事は?というとTVの放送作家。今やワイヤレスでデーターを飛ばす事で仕事が成り立つみたいです。年頃の私にちょっと興味があるのが芸能界だったので、例え小さな番組でも担当していると聞けばミーハーになってしまいます。

 私には二つ下の弟がいまして、高校では野球やってました。私がバイトから戻った昼下がり、浅香さんと弟が、民宿から見える海辺でキャッチボールをしている姿を目にしました。私はスクーターを置いてから、テトラポットのある防波堤に腰掛け、二人の楽しそうな光景を見ていました。浅香さんの少し伸びた髪が、さらりと風になびいていて爽やかでした。彼がうちに来てからもうひと月が過ぎていたのね。暑くなった浅香さん。脱いだ上着の下はTシャツでした。ネックレスがきらりと光ってた。私と似た様な若い格好!? そして浅香さんは、少年のような目で私を見たんです。弟は気を利かせてグローブを私に投げると、「あとはよろしく!」と、その場から去って行きました。誰も、私が彼の事を好きだなんて言っていないのにね。。。
「お姉さん、行くよ!」
そう言って、浅香さんは持っていたボールを軽く私に投げるフリをしたんだ。慌ててグローブを着けた私は彼のボールを受けました。何度か交わしているうちに楽しくなって思い切り投げていました。
「ナイスボール!!」
浅香さんは言うけど、それってストライクじゃなく‘ボール’って意味!? 彼の投げるボールは全てストライクなのに、私の投げるボールは時折とんでもない方向に逸れちゃうし。私は息が上がり、彼と同じくTシャツになっていました。
「野球やってたんですか?」
「ああ。ずっと昔にね」
それから防波堤に座って、聞きたかった仕事の話や他愛ないことなどなど、しばし語り合ったんだ。近くで見る彼の黒い髪の合間には白髪が混じっていて。そして早の南風は、二人の為に吹いているかの様に思えた。
「汗かいたから風呂でも入らせて貰おうかな」
そう言って浅香さんは歩き出したの。もっともっと彼と話していたかったのに。その時、裏庭から父が見ているのに私は気付きました。もしかして浅香さんは、それを気にして戻るのでしょうか?

 予想は的中?!父は私の部屋に来て、「浅香さんには近付くな」と忠告したけど、温厚な父がそんな事を言うなんてね、信じられないよ。私は反発しても仕方ないと思って、ひと言「わかった」って返事を返しました。そして絶対彼の部屋に近付くなとも言われたし。それって仕事にならないじゃん。もっぱら滞在という形でしたので、一般客の様に布団を敷きに行ったり、部屋の掃除など出入りは無かったのですが。

 その晩、父が避けたのか浅香さんとの晩酌はありませんでした。私は悲しかったよ。そもそも私はこんな性格だから警戒などせず自分から行動を起こすタイプでもあるし、いざとなってもアクシデントを切り抜ける自信があるよ。それにその時は分からなかったけど、浅香さんに恋心が芽生えていたの。返って、彼に対して色気ない子供相手じゃ迷惑なのではないか?とか思ったり・・・。
この日は他の客も無く私は非番でした。そのとき二階に上がる浅香さんの後ろ姿を見つけました。私は一足遅れ、キシキシと音のする階段を忍び足で上がって行くと部屋に入る彼に声を掛けてみました。
「こんばんは」
「夜は冷え込むね」
「ごめんなさいボロイとこで。それから、私のせいで・・・」
「私のせい?」
自分が思っている事を手短に話したの。浅香さんは言いました。
「それはないよ。お父さんから、週末あたり釣りに行こうって約束してるし」
「それならよかった。でも、こうして話していることは内緒にしておいて下さい」
彼は肯いてから、「部屋に入ってみる?」と私を誘ったの。その部屋は角部屋で、私が家族と離れに住む前に弟と過ごした子供部屋だったんだけど。ちゃぶ台には、ウインドウの開かれたノートパソコンが仲良く二台並んでいて、パソコンに詳しくない私でもそれらが同じ機種だと分かったし。ひとつはスペア兼ワープロ用で、もうひとつはネット専用で、メールを受けたり調べ物ができるそうです。そして浅香さんは今日宅急便で届いたという包みを破いていました。そこからは印刷された台本が出てきました。
「僕の書いてる番組なんだ。残念ながら西日本のローカル番組だからここでは流れないけどね。こっちのパソコンで録ってあるから見てみるかな!?」
再生されたのは真面目な教育番組でした。それもフランス語講座。がっかりなんてしなかった。部屋の隅に無造作に積まれた本はフランスの書房で、彼は大学でフランス語を教えていた元助教授だと聞いたから。
「バカな私にはさっぱり解らないけど」
と、ページを捲りながら私は言っちゃった。それでも彼は笑って言いました。
「僕はフランスで育ったから話せるのは当然だよ」
「へぇ~」
「君にはつまらない話だろ?」
「そんなことないです」
確かにつまらないかも知れないけどそんな事は言えないよ。けど、自分にはないインテリな部分に大人を感じましたわ。
子さんて言ったね?いい名前付けて貰ったね」
「いいのかなぁ~?私は今時の名前の方が良かったよ」
浅香さんが私の名前を呼んでくれたのはこれが最初で最後でした。何故なら、彼と話したのがこの時が最後だったから。

 翌日、私が食堂へバイトに出ている間に二階の部屋から出ていった彼の事など知る由もありません。帰宅してそれを知った時、今までに無いくらいの猛烈な勢いで、心の中に‘寂しいという風’が吹いたのです。彼が去ったその部屋で私は泣いていました。この気持ちが彼に届くなんて思わないけど涙が溢れて来たのです。それから自分の部屋に塞ぎこんでいると母が来てお茶を置いていったのですが。その時思った事は、娘の気持ちが解るのは母親なんだと・・・。

 あれから何年か経ち、私に恋人ができました。彼は海の男(漁師)です。先日、母と女同士の話をしました。父が、母とあの時滞在していた浅香さんとのことを疑い、「出て行ってくれ」と告げたんだと言う話にはたまげたけど。そもそも母は楽しく会話をしていただけだと言っていたしね。それ自体が父には耐えられなかったのでしょうね。初老の母は照れながら言ったの。
「お父さん、私一筋だからね」
と。それを聞いた私は、いつもの明るい口調で言いました。
「私もそんな風に愛されたい!」
「あんたの彼氏、無口で昔のお父さんに似てるかも知れないね」
「それ、ほんと??」
私は続けて言いました。
「じゃあ彼の傍で他の男の子と話してみようかな」

(終 章)
 密かに弟から奪ったあの日のボールを引き出しから取り出し、暫く私はそれを眺めていました。もうふらりと私の前に現れないでね。思い出のボールをポケットに入れると、桜の散る海辺に出ました。
「お姉さん、行くよ!」
あの日の浅香さんのセリフを真似ながら、ボールを海に向かって遠く、それは地平線の彼方まで届く様に思いっきり投げました。もし三月まで浅香さんと居たのなら、私は彼に本気になって告白していたのかも知れないね。だけどこれで良かったんだよね。だって、今は大好きな彼がいるんだもん。

浅香さんとの想い出は、思い出となって、この先忘れ去られていくのかしら?それでも浅香さんと交わしたキャッチボールだけは忘れたくないよ。

 -完-

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

| 恋愛小説 | 14:34 | コメント:0
春のS.L.S.① ENDLESS LOVE ~Because, I have loved you.
 小日和の二月である。俺は近所のスタンドで灯油を買って、一人暮らしの部屋に戻る。キーを差込み無意識に左に廻す。感触がないから右に廻してみる。あれっ?開かない・・・今度は左に廻す。開いた。ドアを開けると赤いシューズがあった。
「ヨリ、おかえり!」
彼女のミカだった。ヨリとは、ミカが呼ぶ俺のあだ名だった。最近、ミカにスペアキーを渡したのだ。
「あっ、お前だったのか。鍵はちゃんと閉めとけって言ったろ?」
「ごめんなさい」
ミカはシュンとしてしまった。俺が口うるさいのは戸締りのことくらいだろう。田舎とは違い都会では鍵ひとつ命取りとなる。いつしか、ずぼらな俺が完璧主義のミカに合ってしまったのだ。そんなミカにも抜けた所はあるものだ。
「今日は記念日だからケーキ買って来たの」
「25日だね、給料日と同じだ」
「ミカの給料日は5日だよ!?」
そう言ってミカは笑った。重みのない会話だけど、いつまでも変わらぬ仲の良い二人である。
「ピアノの発表会には来てくれる?本当は緊張しちゃうから呼びたくないんだよ!?」
「行くよ」
「本当に??じゃあ、お友達にもあって貰えるね!」
女の子は男を好きになると有頂天になるものだ。俺の場合どうなんだろう?恋人になってから重たいものが芽生えてきた。理由(わけ)はあとで話すことにしたい。とは言え、正直嬉しい。俺は、そんな感情を押さえている。おそらく仕事や私情で辛いことがあっても、決してその場では言わないたちだし、プライベートでもそんなことを話してミカを悲しませたくないし。彼女もまた、こうして同じ心境で逢っているであろう。
実はミカに隠していることがあった。それは、女性も好きだけど、男性の方が好きということ。男らしい俺なのにどうしてだろう?自分でも解らない。だからいずれ、そんなヨリじゃ私は嫌だ!と言って涙を見せて俺の目の前から去ってしまうかも知れない。こんなにも好きになってくれているのに、相手に辛い思いをさせてしまうかも知れない。ミカの愛情が過ぎる程、俺の中では何かを庇うようになっていった。

 ケーキは美味しかった。最近買ってくるケーキ屋さんが彼女のお気に入りらしい。俺は言った。
「話していた映画でも観るか?」
「うん!その前に片付けちゃうから待ってて!」
そう言うと、完璧なミカは食べ終わった皿と、飲み終えたグラスを洗い始めた。窓からの斜光が眩しい二月の日差しは、まるでの様に暖かく、長閑な休日の時のしじまを映し出す。俺は録画したブルーのディスクを取り出し、DVDプレイヤーにセットした。クリーム色のソファーは、二人でホームセンターへ行った時に二人で選んだものだった。ミカが俺の横に座る。彼女はきちんと座って、じっと画面を見つめていた。付き合って三ヶ月が過ぎた。友達の関係から数えると半年である。

 映画を観たあとミカは言った。
「ヨリがこんな私と付き合ってくれて信じられないよ」
アクション映画を観たあとの言葉ではなかった。俺の頭の中では、身のこなしの凄い主人公の余韻でいっぱいであった。
「どうした?急に」
「うん、私自信ないから・・・それに」
「それに?」
「私って魅了ないよね?」
俺はミカと友達になって、食事や映画を観たりと、ちょっとしたデートをするようになった。恋人になってからも手を繋いで歩くなどしていない。好きなのに、触れたいとか思わないのだ。
「ミカはどうして俺と付き合いたいと思ったんだい?」
「ヨリは逞しくて優しくて、いい男だもん。私なんて見た通り太ってるし可愛くなんかない・・・だから」
「十分可愛いよ。俺がいいって言うんだからいいじゃん!」
「ありがとう。可愛くないこと言ってごめん」
この時初めて俺の中で、ミカに触れたいと思った。いやっ、好きだということを態度で示したいと思った。ミカの心の中にあるであろうハーレクイーンのような恋心を受け止めてあげたい。
「ミカ?キスしたことある?」
俺はマジになって話した。横に居た彼女は、驚いたかの様に俺を見た。
「ない」
「そうか」
「・・・」
「実は俺もないんだ」
「冗談でしょ!?」
「だって俺、男の方が好きなんだもん。それでも今まで片想いしかないんだけどな」
言葉を失ったかのようにミカは俯いた。

 しばし沈黙の後、ミカは言った。怒るのかと思ったら、違かった。
「その気持ち私には解らないけど、きっと辛いよね?・・・私なんかといちゃ」
「俺はミカの方が辛いと思う」
それを聞いたミカは、強気な瞳で俺を見た。そして言った。
「抱き締めてくれるだけでもいい。そしたら私はヨリと居たいよ!?・・・もう私はあなたのこと愛してしまったから」
「俺もお前とは離れたくないよ。理由は同じ」
「ね、触れてもいい?」
俺が肯くとミカは自分の手を差し出し、俺もその手に触れてみた。そして手のひらを合わせてみた。ミカの手は柔らかくて温かかった。
「男の人の手って大きいんだね」
ミカは嬉しそうに言うと、俺は言い返した。
「きっとミカが小さすぎるだけだよ」
ミカの手は本当に小さかった。
「こんな俺だけど、これからもヨロシク!」
喧嘩をしたり、わだかまりを解消したあとって、何故だか相手を守りたくなったり広い心になったりするものだ。それは恋愛している証拠だと俺は思う。その時がミカとの恋愛の始まりであり、本物の恋人関係になれたんだと実感した。

-完-

********************************************
実質一時間で書けちゃうショートラブストーリー(S.L.S.)。秋に続いての登場です。今回はという季語を含んだ内容でお届けします。
次回もお楽しみに・・・

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

| 恋愛小説 | 23:39 | コメント:2
悠なる希望 ~雪が溶けるように~
悠なる希望

*この物語のBGM(右下)「愛の夢」推奨です。また、好きな音楽で演出してみてくださいね。

(回想と説明)
 福島は浜通り。山からの冷たい風が吹き降りている。浜通りというのは、気象上の特性から分類されてのこと、太平洋に面する県の東部を指す。福島市や白河といった内陸部が中通り。そして磐越から新潟までの範囲が会津地方となる。その太平洋側、原ノ町の駅から小さな商店街を歩いて行くと古いアパートがある。そこに姉妹二人が暮らしていた。美菜(みな)は美人で性格もよく、ОL時代は東京に出て一人暮らしをしていた。男性からだけでなく女性からも好かれる姉さん肌だった。しかし、いい男と思い付き合ってきた男たちがダメンズで、失望するばかりであった。一方、三つ違いの妹 里美(さとみ)は十年前に彼氏に振られ自殺未遂をする。姉は妹の惨事を知って東京から急遽田舎へと戻る。そしてその十年の間に相次いで老いていた両親が亡くなり、残されたのが二人の姉妹であった。10代から心の病を患い働けない里美に、美菜はスーパーとスナックの掛け持ちで家計を守った。その絆は太く微笑ましいものだ。しかし、この町で一生を終えるのは美菜には耐えられなかった。そして新年を迎えたばかりの清々しい空の元、姉妹が東京への生活へと出発する場面からのスタートとなる。美菜、39歳独身だ。美菜は実家の家財を殆ど処分した。残した荷物も二t車一杯分、料金も安い業者を選んだ。その荷物も里美が捨てられないものばかりだった。母が最期に残した財産は100万足らず、親戚も少なくひっそりと行われた葬儀も遠くはない過去だ。

(本 編)
 悪酔いするかの様に揺れる引越しトラックの中で、地元を離れたことのない里美は言葉少なくしんみりとしていた。膝元に大事そうに持っているのは、死んだ両親との思い出のアルバムである。一方、シャネルのバッグを抱える姉。さすがの美菜も、無職からスタートする生活には不安を持っていたが、決して顔には出さなかった。二人の乗ったトラックが両親の眠る寺の横を過ぎ去る。妹の目から涙が流れ出した。美菜はそんな妹に言った。
「里美?また来月お母さんの三周忌にくるからさっ」
「わかってる。・・・お姉ちゃん、いつもありがとう」
美菜の身長が170センチに対し、里美は150センチ。里美は地味な顔立ちの田舎娘。とても同じ親から生まれたとは思えない。性格だって涙脆く傷つきやすいのが里美であった。凛とした美菜が抱く理念は、そんな妹に素敵な結婚相手を見つけ幸せになって貰いたいということだった。東京に出れば何とかなる。そんな希望を抱いていた。それに美菜自身、妹のため十年間自分の幸せをも犠牲にしてきたのだ。もうすぐ40歳を迎えてしまう・・・それでも人生に後悔などしていないし焦ってもいない。ケータイの着信ランプが光った。
『彼からだわ』新しい彼氏が出来たことは妹には話せなかった。妹 里美は、22歳で初めて出来た彼を四年間愛した末に振られた傷、そして綺麗な思い出まで、十年経つ今でも背負っているのだ。美菜はケータイをバッグにしまうと、ちらりと妹の顔を見た。ほのかな化粧ではあるが、不器用にもアイシャドーだけが濃すぎる。
『まっ、仕方ない。前よりはマシか…』
トラックの前シートには、引越し業者の男が運転手含め二人いた。助手席のおじさんが二人に振り向き言った。美菜にしてみれば‘おじさん’と言える立場でもないのだが・・・
「お姉さんたち彼氏いないの?」
その言い方に、美菜はいやらしさを覚えた。咄嗟に里美の手を握るのは母性的な反応だろうか。
「います。二人とも旦那が」
出た言葉は、経験多く頭のいい美菜だったからかも知れない。もし里美一人だったら、男に何されるかだってわからないのだ。そんな世の中である。
「残念だな~」
それ以上続けなかったのは美菜の冷たい視線を感じたからだろう。

 新居はキッチンとベッドルームの敷金礼金の要らない賃貸アパートだった。それも運よく新築である。引越し業者が去ると、少し西向きの窓から夕陽が差し込んできた。
「ここから私たちスタートしようね!」
美菜は妹に元気を振り撒いた。
「お腹空いた」
里美は子供の様に姉に言う。
「体調どう?よかったらこの辺の美味しいお店探してみようか?片付ける前に腹ごしらえしなきゃね!」
美菜は里美に言った。
「うん、行きたい!」
里美はニコリとして元気な言葉を返した。

 美菜が里美と東京へ出ようと決めた理由の一つに、彼氏の存在もあった。その彼とはまだ数回しかデートしていなかったのだが、彼を信じてみようと思った。彼 敦彦(あつひこ)とは同じ歳だった。ОL時代、取引先の商社マンだった敦彦に美菜は告白されていた。商社とは言え小さな会社で、当時彼は平(ひら)だった。その時美菜には付き合っていた彼の手前、敦彦の告白を断る過去があった。敦彦は美菜が出会う男同様、ルックスの良さがある。

 越した翌日、二人は早速デートした。スーツの似合う彼は、やはりスーツで決めて来た。そもそも会社帰りなのだ。背の高い美菜は180センチある彼とお似合いだ。美菜は、自分に必死な彼の視線を感じていた。最寄駅近くの阿佐ヶ谷のレストラン。二人はテラス越しのカップル席に着いた。美菜はバニラ色のコートを脱ぐ。表れたのはダークな身なりで、雰囲気も一見して様変わりだ。
「美菜って呼ばせて貰うよ。いいかな?」
そう敦彦が言うと、美菜は微笑み返し言った。
「課長になるなんてね!オメデトウ、敦彦」
自分も呼び捨てされ、関係が深まったことを確信したかの様に敦彦は言う。
「ま、小さな会社だからね。それはそうと、いきなりなんだけど。俺のとこで暮らさないか?」
「ありがとう。でも・・・」
「でも?」
「ごめんなさい。妹がいるし、」
「妹さんだって一人の方がいいんじゃないの?彼氏だって呼べるだろうし。そうだ、今度三人で食事でもしよう!いいね?」
敦彦は楽しそうに言う。美菜は黙って微笑み返すだけだった。
「この間、新車買ったんだ。駅前に止めてある」
「あっ、今日は帰らないといけないから、」
「そりゃぁ残念だな~」
「その代わり、今度ドライブ連れていってくださいね!」
美菜は愛想を振る舞う様に言った。
「あ、あぁ・・絶対にだぞ!」

 美菜は新宿の駅ビルにあるブティックで働くことに決まった。稼げるクラブやスナックなどの水商売も考えていたが、敦彦の反対で取りやめた。好きな敦彦に対しても実はまだ、半信半疑であった。ただ美貌だけで惚れているのではないのか?本当に私の内面を見てくれているのだろうか?ということ。美菜の男性不信は、中身の無い男たちに呆れた結果なのだ。

 里美は今度こそ前進したいと希望を持ち直した。いつもそう思っては、身体の不調同様、気持ちさえ沈んでしまうのだ。晴れた近所を散策してみた。目に付くのが人、人、人・・・。洒落た服に身を包み、足早に歩く人ばかりだ。都心に出ればもっと凄い光景である。塞ぎこんだ時にはとてもではないが外になんて出られないだろう。そんな中、公園で老人が長閑に日向ぼっこしているのが目に付いた。私はこの老人と同じなんだ。そう思う。
「あっ!」
悲観していると目の前を凄いスピードで車が通り過ぎた。驚いた里美はその場に座り込んでしまった。その時、里美と同じ年くらいの男性が声を掛けてきた。
「平気?あんたもボーッとしてたらいけないよ!気を付けないと!」
何てぶっきらぼうな言い方なのだろう。その男性は里美に手を差し出した。里美は首を振った。それでも男はその手を引っ込めることなかった。仕方なく里美は手を伸ばし、彼に手を引かれ立ち上がった。男の顔が笑顔になった時、自分の中にある素直でない気持ちが溶けていった。
「ありがとうございました」
「うん、気を付けないとな」
「最近田舎から出てきたもんで・・・」
「ま、東京はこんなとこだ。君、お腹空いてない?」
男性は持っていた包みを差し出し、笑顔で言った。
「たい焼き、あげるよ!」
「いいんですか?」
「いいよ。ね、家は近いの?」
「近くないです」
天邪鬼な言葉が出てしまった。それには、いきなり家に来られても困るからだ。男性は、そんな里美の心境を察したのか、何も言わず歩いて行ってしまった。クールな人だなぁ。里美はそう思いながらも貰った包みを開け、中身を確認した。やはりたい焼きだった。

 夜になれば寂しい気持ちが込み上げる。新しいクリニックの先生と話をした昨日は、とても気持ちが落ち着いたのだが・・・。
夜の10時を廻り姉が帰って来た。美菜は買ってきた弁当を二つ並べ、冷蔵庫から冷えたウーロン茶を出した。
「やかん買って来ないとね!里美も温かいお茶の方がいいでしょ?」
「私はどっちでも」
姉に何もしてあげられない里美でも、今日は褒めて貰える事がある。鋭い美菜は、直ぐにそれに気付いた。
「食器棚が片付いてる~ありがと~!」
「あと、寝室のお布団も干したよ」
「良かったね、里美」
「うん」

消灯して里美が言った。
「寝室は畳の方が良かったね!」
「フローディングなんて私たちには似合わないってこと?」
「だね。でも、同じ布団で寝てるなんて凄くない?」
「こんなんじゃ私たち男が出来ないね」
「ねぇお姉ちゃん?」
「何?」
「私今日、道で出会った人からたい焼き貰ったの」
「どういうこと?」
里美は美菜に昼間の出来事を話して聞かせた。
「いい人だと思うなっ、その男の人。でも事故には気を付けてね!」
美菜は、その妹の顔からみて幸せな一日だったんだなぁと感じた。
「でも結婚してると思う。私は・・・裕樹(ゆうき)だけで充分なの」
里美をギュッと抱き締めた。
「何お姉ちゃん!やめてよ~」
「まだ忘れられないんだね、彼のこと」
「出来ることなら忘れたいよ・・・」

 翌日の昼下がり、里美は昨日の公園に行ってみた。そこは細長く、案外奥の方まで続いていた。テクテク歩いていくと噴水がある。冬なのかさすがに水は出ていない。陽だまりのベンチは暖かく、風もない。その真向かいにある新聞屋さんが夕刊配達の準備で忙しそうだ。
「あっ、昨日の!」
思わず言葉を発してしまった。そこにいたのは紛れも無く昨日たい焼きをくれた彼だった。こう見れば体育会系っぽいのが肯づける。里美はお礼を言わなきゃと思い不意に近付いたが、声を掛けるタイミングが取れない。すると、隣にいた眼鏡を掛けた男が里美に気付いてきた。
「あの、何か?」
真面目そうな彼が言った。
「はい、昨日のお礼を言おうかと思って・・・」
里美は背の高い男を見ながら言った。
「あっ、兄貴に!?」
どうやら若い男は弟で、昨日の男が兄貴らしい。
「啓介(けいすけ)~、何してん・・!」
兄貴は里美に気付いたらしく近付いてきた。
「昨日はありがとうございました」
「礼を言いに?」
「たまたま見掛けたもんで」
「そうか。おい啓介、良かったら友達になって貰えよ。な?」
兄貴はそう言い白い歯を見せると、新聞を山積みに載せたバイクに跨り去ってしまった。どうしていいのか分からない啓介を見て里美は思い付いた。そしてジェスチャーをして言った。
「何か書くものある?」
「広告のウラ面とかでいいですか?」
兄貴と違い丁寧な口調で啓介は言うと、いらなくなった紙面とペンを持ってきた。里美は自宅の電話番号を書いた。
「良かったら連絡してっ」
「はい」
「お仕事頑張ってね!」
啓介は里美に一礼すると、自転車に積んだ新聞を配りに出ていった。里美は胸の高まりを覚えていた。自分がしたことがまるで嘘の様に思えてならない。たぶんここまで出来たのは、好青年に見えた啓介をちょっぴり好きになったせいかも知れない。
その夜、啓介から電話が掛かって来た。姉の美菜はまだ帰って来ない時間だった。しんみりとした会話が妙にぎこちない。何か話さないと・・・そう思って年齢を聞いた。この電話で分かったことは、彼が30歳で兄である駿(しゅん)が36歳であることだった。兄弟で長野は南アルプスから上京し、新聞販売所の寮に住んでいるという。趣味は特にないが、歴史とか旅が好きと言う。そんな啓介と翌日逢うことになった。

 啓介は、仕事がひと段落すると里美に電話を掛けてみた。里美は、直ぐに受話器を取ると、明るい声で「待ってたよ」と言った。駅前のコーヒーショップで二人は待ち合わせた。
「姉がケータイ買ってくれるって」
「珍しいね持ってないなんて」
啓介は笑って言ったあと、里美の顔色を見て謝った。
「いいの、私いま働いてないし」
「ぼくも最近手術して、少しだけ働ける様になったんです」
「どこか悪いの?」
「今度再発したら目が見えなくなるかも知れないんです」
「里美さんは健康ですか?」
「私は・・・心が病んでるの」
「よく分からないけど・・」
「ごめん、私はたぶん元気よ」
「よかった」
「啓介くんて優しいのね」
「里美さん、彼氏いないんですか?」
「いないよ」
「ぼくみたいのじゃ駄目ですか?」
「えっ?・・・うん」
「乗り気じゃないね。あっ、今日片付けの当番なんで帰らないと」
啓介はそう言うと、ショルダーバッグの中から写真集らしきものを取り出し、里美に渡した。
「プレゼントしますよ。ぼくが撮った故郷の写真集です」
「嬉しい!ありがとう」

 美菜はテーブルの上に置いてある写真集を手に取った。ページを捲ってみると、どこかの田舎の風景が魅力的に撮られていた。布団で寝ていた里美が目を覚ました。
「お姉ちゃん、お帰りなさい」
「いい写真だね!買ったの?」
「啓介くんから貰ったの。彼が撮ったんだよ!」
「あっ、昨日話してた彼?・・・フ~ン」
「あっ、私彼氏できたから。あなたも付き合ってみたら?」
「お姉ちゃん、幸せになってね」
「それ言うのまだ早いって!」
「私、彼に何が出来るかしら?」
「そうねー。それ、彼に聞くといいわよ」
里美の中で、啓介というボーイフレンドの存在は大きくなっていった。

 日曜日の朝、シフトが非番である美菜は、敦彦とのデートの準備で忙しくしていた。その時インターホンが鳴った。傍にいた里美は、姉の顔色を伺いながらそっとドア越しのミラーを覗いてみた。
「あっ!」
思わず声が出てしまう。そこに居るのは啓介の兄貴である駿であった。
「お姉ちゃん!啓介くんのお兄さん!」
「もしや勧誘!?いいわ、話してみたいし・・・里美は来ちゃ駄目よ!」
そう言うと姉は玄関のドアを開けた。里美の姉だと知らない駿は、不器用な口調で新聞の勧誘を促した。それでも彼に対し、美菜はひたむきな印象を受けた。そして美菜は言った。
「ごめんなさい。新聞、必要ないの」
美菜はそう言ったあとも、じっと彼を見つめていた。駿は頭を下げ続けた。
「わかった。ね、新聞取るから洗剤たくさん頂戴?」
図々しい客と思うだろう。けど駿は美菜を制すると急いでそれを取りに行った。それから、印鑑を押し契約を済ませると、駿は深々と頭を下げお礼を言った。
「ありがとうございました!」
美菜は、部屋に戻ると里美に言った。
「生活きついけど新聞取ったよ。駿さんて人、何か必死だったし」
美菜の本音は、里美と啓介が仲良くいて欲しいという願望で一杯だった。
「ありがとう」
「そうだ。ちゃんと啓介くんにお兄さんから新聞取ったって話しておいてね!」
「話しとく!」
「私、今日遅くなるかも。何かあったらちゃんと連絡してね。その為にケータイ買ったんだし」
「はい。お姉ちゃん、デート楽しんで来てね!」

 部屋に残った里美は啓介の写真集を開いてみた。アルプスって聞くと『ハイジ』を連想させるが、日本にもそんな場所が存在するのか?ページを捲っていると中程のページが抜けた。そんな安っぽい本だけど、福島の故郷とはまた違った風景の宝庫であった。

 美菜は敦彦の車でお台場に来ていた。地平レベルのレストランの窓からは、冬晴れの空の下、運河をゆく遊覧船やレインボーブリッジなどが見える。この人と居れば何不自由もなく人生を楽しめそうだ。美菜は東京に出てきて良かったと思う。自分が描いた理想に近付いているからだ。
「美菜?」
「何、敦彦?」
「結婚したら子供欲しいよな?」
「結婚?」
「ヤダぁ。まだプロポーズされてないし・・・」
美菜の言葉に敦彦は笑って言った。
「直接言うのはまだ早いとか思ってたけど。俺との結婚、考えといて欲しい」
「妹が独立できた時には・・・」
「早くそうなるといいなぁ」
敦彦には妹の病気について先日話していた。その時彼は三人で暮らしてもいいと言ってくれた。しかし姉としての願望は、里美を貰ってくれる人が現れることであった。男女の縁なんてあるようでないものだ。次に出遭う人が自分と同じ方向を向いた時、巡り合う確率が生まれると美菜は思う。だから焦る必要はない。それなのに焦るのは何故?それは、自分が早く彼と結ばれたいと思う他ないのだ。そんなとき里美にもボーイフレンドが出来たのは、神様が美菜に与えたチャンスだとも思った。
日が暮れる頃、美菜は敦彦のマンションに居た。落ち着いたシックな部屋には昔やっていたというエレキギターが立てかけてある。シャカシャカとそれを鳴らしながら彼は言った。
「今晩、ここに泊ってけよ」
「ごめんなさい」
許されるなら・・・あなたに甘えたいよ。心の中で美菜はそう呟いていた。断られた敦彦は、悲しそうな眼差しで美菜を見つめていた。彼は背中から美菜に抱き付くと「どうしようもなく好きだ」と言った。そして唇を奪われる。美菜は嬉しかった。それから言った。
「シャワー浴びてきます」
美菜の言葉はその続きを意味していた。

「今日から緑ハイムの小高(こだか)さんにも配達して欲しいんだ。今月分はサービスになってる」
駿は啓介に新規客用の地図を渡した。
「兄貴、ここ里美さんのとこだよ!」
「え?じゃあ昨日契約したのはお姉さんだったのか?」
「たぶん」
「啓介、上手くやれよ!」
駿はそう言うと白い歯を見せ、啓介の小さな背中を叩いた。

 啓介は夕刊を配達しながら、里美の住む部屋を見つけるとインターホンを鳴らしてみた。何度か押すが出てくる様子がない。仕方なく新聞受けに夕刊を差していった。伝えたいこともあり、夜になってからメールを入れてみた。暫くして返事が帰ってきた。
里美《メール打つの遅くてごめんなさい。具合悪くて出られなかったの》
啓介《大丈夫??何かあったら力になるから言ってくださいね》
里美《ありがとう。啓介くんのメール見たら少しゲンキになったよ》
啓介《話変わるけど。お母さんの三周忌行くんでしょ?もし良ければ兄貴が車借りて四人で行こうって話なんだけど。僕、野馬追い(のまおい)会場見てみたいんだ》
里美《野間追い知ってるの?》
啓介《知ってるよ。戦国時代からの祭事なんだよね!》
里美《じゃあ姉に聞いておくね》
啓介《ではお大事に》

 美菜は帰宅後、里美から啓介からの提案を聞くことになる。美菜は遊びじゃないんだからと渋ったが、この機会に二人の様子を見てみたいと思い直した。そして言った。
「わかった。ただ、早朝にここを出ないと十時の法事には間に合わないってこと伝えといて貰える?」
「伝えるね」
そう言うと里美は、啓介にメールを打った。

 夜も明けぬ二月の下旬、美菜と里美は喪服を着て、駿の運転するレンタカーで福島へと向かう。この日の駿は、美菜が先日会った新聞屋の彼とはイメージが違って見えた。クールで、逞しくて。それに照れ屋さんなんだと美菜は見抜いた。そして言った。
「福島の路面は雪かも知れないですね」
「そうかと思ってラジアルタイヤ着けて貰いましたよ」
駿はそう言うと、右にウインカーを出して車を走らせた。
「へ~そんなに寒いのかぁ」
助手席の啓介が呟いた。駿が言う。
「おい、俺たちの故郷と変わんねぇよ」
「ねえ、雪かどうか賭けてみない?」
里美が楽しそうに言うと、美菜は即答した。
「私は積もってると思うな」
「私はまだ雪が降っていない気がする」
「じゃあ僕は里美さんと一緒で!」
「駿さんは?」
「えっ?俺は・・・なら美菜さんと同じで」
八時を廻った頃、建設途中の常磐道は行き止まりになり、美菜のナビで山線を走ることになった。路面は雪でなく雨が降った様子で濡れていた。朝霧の中、このまま山の中へと消えてしまいそうな恐怖さえ感じた。啓介は興味深く外を眺めているが、姉妹は眠ってしまったようだ。
「お前眠くないのか?」
「だって車から見る景色楽しいから眠れないよ」
「啓介・・・俺はお前の目が見えなくなるなんて思っていないさ。絶対に優秀な医者を見つけてやる!」
「兄ちゃん・・・」
美菜はうっすら目を開け、再び目を閉じた。その目から涙が流れていた。里美から聞いていた話は本当だったんだ。兄貴の優しさをしみじみ実感した。

 お寺さんに着いた頃にはすっかり晴れ間が覗いていた。美菜は町中にある市立博物館を駿に勧めた。里美は啓介に目で挨拶を交わすと、美菜と寺の門を潜り、親戚の集まる控え室へと向かった。

 一方、兄弟は博物館までの道に迷ってしまった。狭い町なのにぐるぐると同じ道に出てしまう。
「兄ちゃん、無理しないでいいよ!あとで野間追い開場見れればいいんだ」
「そうだな。そういや食事しとけって言ってたなぁ。磯料理なんていいねー。さては海辺に出てみようじゃないか」
「いい案だね!」
二人の乗った車は、先月まで姉妹が暮らしていた古いアパートの横を走っていった。

 昼下がり、里美は啓介にコールした。法事もその後の食事も無事済んだからだ。そして父やご先祖の入る墓にも手を合わせた。親戚と別れた姉妹は、境内を歩きながら話した。
「ねぇ里美?駿くんには彼女さんいないの?」
「いないみたい。あっ、お姉ちゃんもしかして!?」
「私には彼氏いるから・・・」
「そうだったね。・・・もし私が啓介くんと恋人になったらお姉ちゃん、お嫁さんに行って!」
「ありがとう」
まだ踏み切れないんだよね。美菜は心の中でそう言った。
「来たよ!」
里美の言葉で美菜は振り向くと、車から手を振る啓介が見えた。
「お疲れ様でした」
二人にそう言ったのは駿だった。車で5分とせず、毎年七月に野間追いの行われる雲雀ヶ原祭場地に着いた。晴れていた空が、グレーの空に変わっていた。一面芝に包まれた緑に、土の滑走路が楕円を作っていた。いわば、競馬場の縮小版のような感じにも見受けられる。
啓介は里美に案内され、ずっと先を歩いていった。美菜は駿の後をゆっくりと歩いていた。そして今は緑薄き祭場を見下ろす丘に上り、ベンチに腰掛ける。そこからは山と海に広がる町全体が見渡せた。
「あの二人、上手くいけばいいな。あいつ、いい奴だから・・・」
「私の妹だって負けていないわよ!」
美菜がそう言うと、駿が無邪気に笑った。
「弟が幸せになるのが俺のちっぽけな夢。お姉さん、啓介のこと反対しないでくれますか?」
「反対だなんて。里美だって病気持ってるんだよ!? ねぇ、駿くんには好きな人いないの?」
「俺は。・・・俺はどうでもいいよ」
「私じゃ駄目ですか?」
「美菜さんが俺の?」
「ねぇ、今日しかチャンス与えないわよ!」
「凄い自信なんだね」
「勇気だよ!」
「勇気?」
「あなたなら私の弱さ見せられる気がするの。私たち似てるもん」
「このチャンス、逃せないな!!」
駿は力強くそう言った。見下ろせば、誰も居ない戦場でキスを交わす二人がいた。驚いた美菜も次の瞬間、駿に唇を奪われた。緑の地に粉雪が舞い散る。

古い恋は、新しい恋によって塗り替えられる。里美の心も長い冬から春へと向かうであろう。それは雪が溶けるように・・・

 -完-

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

| 恋愛小説 | 19:35 | コメント:8
超短編!? 「リコちゃんとユッくん」
 12月17日の日曜日、渋谷の街路樹はクリスマスツリーに変わり、色とりどりのイルミネーションが燈っている。写真に撮ってみてもパッとしないのは何故だろう?リコは買ったばかりのデジタルカメラのモニターを見ながらそう思っていた。そこへ若い男の人がやって来て同じアングルで写真を撮り始めた。しばらくして彼は、思い付いた様に三脚を組み立てると何回もシャッターを切っていた。そのモニターをちらっと見たリコは、彼に話し掛けていた。
「キレェ~、どうしてこんな風に撮れちゃうんですかぁ??」
「多重露出って言ってピント外しながら重ねてるんだよ」
「へ~」
関心するも、よく分からないまま肯いてみせた。
「このカメラじゃ無理ですよね?」
リコが言うと男はそのコンパクトカメラを手にし、いじり出した。少ししてから彼は言った。
「出来るよ」
彼はそれ以上構うことなくその場を去ろうとした。どうしても彼の様な一枚が撮りたくて、リコは男の後を追っていった。
スペイン坂の上で立ち止まった男は、再び三脚を立てファインダーを覗いている。そのあと原宿の方へと移動するのか?街頭だけの道に入り、リコはストーカーの様に男の後を付いていく。代々木公園を抜けた信号で彼の隣に立った。驚いた様な彼はこう言った。
「あぁさっきの・・そうだ、お腹空いたから何か食べない?」
「いいですよ!うち、リコと言います」
「それってあだ名?なら俺はユッくん」
リコはビックリカメラの袋から白紙を見つけると、そこにURLを書き込んだ。
「グルメつなビィーって言うのやってるんで、良かったら見て下さい!」
「保証書はとっておいた方がいいよ」
ユッくんに言われ裏返してみると、リコはそれに気付き赤面してしまった。
「君、ええわ!」
「もしかして関西系なの!?」
「俺は高松だよ」
「うち松山!坊ちゃん温泉から歩いて3分なの」
「ハハハッ。面白い!もしかしてB型?」
「だから何なの!」
ちょっぴり腹の立ったリコも、オムライスを口にすると機嫌が戻る。ユッくんは食事中もひたすらカメラをいじっていた。働きながら写真学校へ通い、今日は課題を撮り歩いているという。そのあと表参道のイルミネーションで、リコはユッくんに教わりステキなイメージ写真を撮ることができた。
「じゃぁ俺、これで大阪帰るから・・」
「大阪??」
「課題がTOKYO NIGHT やから東京来てみただけなんだ」
「へ~、じゃあここでお別れだね」
せっかくいい男捕まえたのになぁ~。でもさりげない人。それがリコの心境だった。

 寝る前に、PCを開いてみる。
「ユッくん!!」
時計を見てみる。深夜の0時を廻っていた。それにしても早いもんだ。

  来週も東京行くよ! リコはグルメツーなんだね。
  今度は美味しい店紹介してもらおう。by ユッくん


 そして24日は丁度クリスマスイブでした。彼は写真じゃなく私に逢いにきてくれたんです。
で、何なの?って話なんですけど・・・

※ この話にはオチがありません。ネタにされた方ごめんなさい。一応、架空です。
| 恋愛小説 | 00:26 | トラックバック:0コメント:12
永遠よりも長いKISS
永遠よりも長いキス(イラスト編)


   
 季節は十一月。海を望む地に建つマンションの一室から夜になってお洒落な男女が出てくる。
「君はここで待っていてくれないか?」
「わかった」
理沙子を地階である5階エントランスに残し、朝倉昭夫は車を出す為1階ガレージへと下りていった。
部屋を出る前、理沙子が言った。
「一人じゃもったいないね、この部屋」
「なら俺と一緒に暮らしてくれる?」
昭夫の冗談混じりの言葉に、理沙子は笑って答えた。
「考えときます」
昭夫はガレージで真っ赤なMR-Sのエンジンを掛けた。そして公道へと急坂を登っていった。エントランスより助手席に理沙子が乗り込んだ。
この日昭夫は理沙子のプロフィール写真を撮る為、(神奈川と静岡の県境に位置する)真鶴の自宅アトリエに彼女を呼んだ。大型2LDKの一室には何もない白壁の洋室がある。そこには二基の照明と白いチェアーが置いてあった。白尽くめで写真を知る者には露出が難しいと思われがちだが、アイリスは適度に絞られ、背景の海や空の青さが程よく出せる訳だ。自然光だけでも淡い空間が得られた。他にはカメラやレンズの入った防湿庫が扉の横にあり、その上には仕事に持ち出すノート型パソコンが置いてある。玄関にはジュラルミンとテンバのカメラバッグが一つずつあっていかにもカメラマンをしているという住まいだ。すべての部屋の窓からはストレートに海が望める。5階に位置しロケーションは最高だ。窓を開ければ潮風が流れてくる。防風林の緑と青い海が心地よい。そして海の青と空の青が溶け合う地平線の先はいったいどこへ続くのだろうか?撮影中、理沙子もそんな海を楽しんでいるのが分かる。その横顔は心なしか寂しげで、昭夫は夢中でファインダーを追い続けた。リビングから流れてくるオーディオシステムのBGと重なり、ピピッと電子音が鳴ってはシャッターが切れる特有のカメラ音もする。理沙子には恋人が居るという。自分とは仕事の手前あってこうして逢ってくれているのだろうか。昭夫は32歳。某メジャーバンドの専属カメラマンの傍ら、所属事務所を通しグラビア撮影の仕事を貰っていた。収入は支出を上回ることすらないが、贅沢な生活をしている方であろう。理沙子は昭夫が手掛けたファッション誌でモデルリストから自ら選んだ女性だった。
二人の乗った車は駅前の信号を左折しロータリーに止まった。木構えの小さな真鶴の駅はとても寂しげだ。
「今日は楽しかった。朝倉さんて都内まで通ってるんでしょ?」
「ほぼ毎日都内に居るよ」
「じゃあ、私がメールしたら逢ってくれます?」
「時間さえ合えば。それに、普段はここには戻ってないから」
「わかった!彼女のとこね?」
「いないって言ったはずだよ!?」
「ごめんなさい。実は私も彼とは上手くいってないから・・・じゃあ帰ります!」
「理沙ちゃん、よかったら今晩泊まっていってもいいよ」
「ありがとう。彼ときちんと清算しなきゃね」
そう言い残し理沙子は車を降りていく。昭夫も後を付いていった。
「ちょっと待ってくれ」
昭夫はそう言うと財布から千円札を二枚取り出し、一枚を理沙子に渡し、もう一枚を券売機に差し込んだ。
「今日の交通費」
「ありがとう」
理沙子はペコリと頭を下げた。改札で彼女を見送った昭夫は車に戻り、行きつけのスーパーで今晩飲む酒と摘みを調達した。その帰り道、理沙子の事を考えてみた。「彼とは上手くいってないか・・・」その言葉に隠された相手の心理、昭夫には十分伝わっていた。偽りのない笑顔に大人びた仕草、オシャレに服を着こなすセンス・・・昭夫は惹かれていった。上手くいっていなのなら一層のこと彼から奪ってしまいたい。それが本音だ。
部屋に戻る。またしばらくここへは戻れないであろう。昭夫は白い壁の部屋に入ると灯りを点けた。白いチェアーの下にイヤリングがひとつ落ちているのを見つけた。あれっ、彼女のかな!? 半年前ここに越して以来、このマンションには誰も招いていないから間違いはない。


 朝になり昭夫は晴れているのを確認すると、スウェット姿のまま岬の方へと走っていった。十一月も後半、寒さに身が引き締まる。杉林の中を暫く走ると三ッ石という場所に出る。ジョギングの後はその入り口に構える行きつけの喫茶店でモーニングを摂るのが習慣になっていた。主人が描く油絵が飾られたアトリエ的な店だ。すっかり歳を召した老夫婦が経営している。何度か通ううち顔馴染みとなった。
「主人が最近来ないから寂しいってさ」
奥さんがそう言うとその本人が顔を出し「いらっしゃい」と言った。
「今日からまた会社の方になるかなっ」
昭夫はそう言うと持っていた四つ切サイズの化粧箱から額縁を取り出し、旦那に渡した。
「良かったらここに飾ってください」
「お~そこから撮った朝焼けだね。いい腕してるもんだ!」
「一応プロですから」
そして海を見下ろせるカウンターに着く。マスタードが入りこんがりと焼けたハムトーストと、卵の入ったフレンチ風ミルクセーキは格別だ。
 
 昭夫は車で都内へと出発した。新道と呼ばれる真鶴道路を北上し早川のインターから西湘バイパスに入る。海の上を走るが直ぐに箱根・厚木方面に通ずる道を行く。山合いに入る。再度厚木方面を確認。朝とは言え既に渋滞の解けた時間で快適だ。厚木からは東名高速に入る。首都高、高樹町まで全て有料道路を走る。元麻布のオフィスに着くとPCの電源を入れ仕事の続きを始めた。パテで仕切られたスペースはちょっとした自分の空間だった。窓もなくついつい時間を忘れてしまう仕事場とも言えよう。夕方、セットしたアラームが鳴る。編集者との打ち合わせの時間だ。上着とスーツケースを手に取ると事務の加奈に一声掛けた。
「みんな出払ってる様だね。俺が出たら鍵掛けといた方がいいな」
「そうね。行ってらっしゃい!」
彼女に今週のスケジュールを渡すと外へと出た。連絡が命取りにもなる仕事とだけあって、ある意味加奈は、昭夫にとってのマネージャー的存在だった。敢えて仕事先には彼女を通すことが多かった。品よく丁寧な話し方が相手には受けがいいのだ。今度おごるから飲みに行こうという話になっていたが、理沙子と行動し始め昭夫自身ためらっていた。因みに加奈は昭夫と同じ歳で独身である。


 週末、理沙子からメールが入った。今晩逢えませんか?というメールだ。事務所にいた昭夫はメトロに乗って有楽町に出た。日比谷にある映画館で上映中の洋画のチケットがあるというので付き合うことにした。嬉しくも積極的な理沙子の罠に掛かっている。それに便乗し、昭夫は理沙子の手を取って歩いた。十二月も未だだというのに街は華やかなクリスマス・イルミネーションが放たれていた。
「俺なんか誘っちゃっていいの?」
「私、やっぱ年上の男性が好みみたい」
「・・そうか」
理沙子の雰囲気が普段と違うのは、下ろした前髪のせいであろう。
「ここだよ!」
理沙子が言った。久々のヒット作ともあってチケットを買い求める人達で列が出来ていた。それを横目に理沙子はチケットを二枚かざしながら老舗映画館へと入っていった。そこはいつか入ったことのあった映画館だった。そう思いながら昭夫も中へ入る。
「あったか~い。ねぇ、飲み物何がいい?今日はおごらせて貰います!」
理沙子は得意げに言った。
「じゃ、定番のコーラーで!」
昭夫がそう言うと理沙子は席を離れていった。昭夫は上演前の薄暗いシアターを見渡した。何故か懐かしい感じがする。それはあの日見た光景と同じだった。
コーラーを差し出され我に返る。その瞬間照明が消え、スクリーンに映像が映しだされた。
「今回のも凄い出来みたいね」
耳元で彼女が言った。
「今回の?」
思わず振り返る。そこにいるのは理沙子ではない。明らかに違う女性がいるのだ。
「お久しぶりね。私の名前覚えてますか?」
「えっと・・・」
「悲しいな」
「動転してるんだよ!・・・その声もしかして絢子(あやこ)?顔が別人の様だけど」
「思い出してくれてありがとう。きっと化粧してるからそう見えるのかもよ・・・もうすぐ本編が始まるわ。静かに観ましょっ」
昭夫は把握できない現状のなか理沙子を探しに行こうとしたが、絢子と名乗る女に凄い力で腕を引っ張られた。夢なのか?・・・しかしスクリーンに出てきた映像は、以前絢子と観た‘バック・オブ・ザ・フューチャーⅡ’ではないことは確かだ。

 当時昭夫は、東京の大学を出て地元、千葉県銚子市に戻り就職をした。就いたのは醤油工場での一般事務であった。その年事務で入社したのは昭夫と高卒の絢子の二人だけで、最初は絢子と一緒に帰ったりしていた。何気にモテた昭夫は、先輩いずみの告白を受け付き合いだした。憧れのスポーツカーに乗るいずみは色っぽいお姉さんタイプで、昭夫が入社して直ぐに意識した女性だった。いずみとの交際は社内の連中には内緒であった。十二月半ばにあった忘年会の帰り道、この二人の関係を知らない絢子は昭夫に告白をした。この時、未成年で酒が飲めない絢子はシラフであったが、昭夫はかなり酔っていた。うぶな絢子はぶっきら棒に言った。
「朝倉さんの事が好きかも。いやっ、スキです!私とお付き合いして下さい」
「そうなんだ!? でもな、俺にはいま大好きな彼女がいるんだ」
「えっ?・・・」
「今日は酔っ払っちゃったなぁ~」
絢子は泣き出し港の方へと走っていった。ほろ酔い気分の昭夫は絢子を追いかけていた。地面が揺ら揺らと傾いている。飲食店の並ぶ漁港まで来ると彼女が立ち止まっているのが見えた。冷たい夜風に触れたせいで酔いの醒めた昭夫は、絢子の後ろ姿をみて今度は同情してしまった。正直な気持ち、好感持てても彼女を恋愛の対象としては見れなかったのだ。
「ごめん、さっきは・・・」
「私の入る余地はないんでしょ?」
「ごめん!」
「私、ブザイクだしね」
「絢子、一度だけデートしようか?」
「一度だけ?デート?・・・」
「行きたいとこ連れて行ってあげるから。これは誰にも言うなよ!」
「一度きりの彼女?」
「イヤか?」
絢子は少し考えてから首を横に振った。
「東京の町歩きたいな」


 約二時間の映画は結末を迎えた。記憶が正しければあの一度きりのデートで、この映画館に入りこの席で絢子と映画を観た気がする。右手薬指にしているラメの指輪、確か東京駅からこの日比谷に向かう途中昭夫が買ってあげたものだ。やはり絢子なのだろう。彼女は早々と席を立つとシアターの外へと出て行った。
「絢子、知ってたら教えてくれ!理沙子って女性知らないか?」
「昭夫、やっぱ彼女の方が好みだった?」
「それは・・・」
「やっぱ綺麗な子がタイプみたいね。私もそんな風に愛されたかった」
「俺を混乱させる気か?」
「あなたの事、愛しているから困らせるつもりはないです」
昭夫はケータイを取り出した。そして理沙子の番号に掛けようとするのだが、何度もメモリーを探しても理沙子の名前は出てこなかった。焦っていると絢子が昭夫のケータイを覗き込んで言った。
「もしかしてこれ携帯電話?今は折りたためるんだね!」
「あぁ。って知らない訳ないだろ~!?」
「冗談、冗談!」
「しかし絢子大人になったなぁ」
「28になりました」
「そうか」
「これからどうします?」
絢子が尋ねた。
「食事でもして帰るとするか?」
「はい」

 翌朝、昭夫は酷い頭痛に襲われながらも事務所のソファーで目を覚ました。風邪だろうか?デスクの上にある眼鏡をかけてから時計を見てみるとまだ七時前であった。ブラインドからは冬の青白い光が差し込んでいた。普段コンタクトレンズをしている昭夫だが、起きたては眼鏡だ。マスコミ業界の朝は遅い。十時前になりやっと事務の加奈が出勤してきた。相対してロケの時には何時何処でも構わず始まるのだが・・・
 
 昼になり、昭夫は愛車に乗ると理沙子との仕事の為、白金まで出向いた。古川橋から目黒通りの方へと折れていく。ケータイを見ると見知らぬ番号から着信が入っていた。仕事先からだろうか?その番号にコールしてみると、相手は絢子の声でこう言うのだ。
「理沙子です。約束の場所にいます」
「おい、絢子じゃないのか?」
電話は切れてしまった。待ち合わせのオープンカフェに行けば真相が判るはずだ。スタジオの駐車場に車を入れてからカフェを訪れた。外にはいないようなので店内へと入る。奥のテーブルで待っていたのは紛れもなく理沙子であった。
「おはようございます」
声も理沙子の様だ。
「お、おはよう」
「朝倉さん、この前撮ったプロフィール写真出来ました?」
昭夫は持っていた書類ケースを開け写真を取り出した。
「朝倉さん、今日も綺麗に撮ってくださいね!」
「ところで理沙ちゃん、ケータイ番号変えてないよね?」
「分かり易い番号見つけたから変えちゃったぁ」
昭夫は履歴を見ながら言った。
「0X0-0461-1456」
「そう、白い石ころって覚えてね!」
「あ、あぁ・・・」
昭夫のコーヒーを飲む手が震えていた。理沙子はそれを嘲(あざ)笑うかの様に見ていた。

 昼一番でスタートした撮影は制作者のもと行われた。パラソルからストロボが発光する。
昭夫のNekonがシーンを切り取る。「アッツ!」思わず声を出した。ファインダーの中に見えるのは理沙子ではなく絢子の姿だった。その絢子の目は、まるで昭夫を挑発するかの様に潤んでいる。シャッターを切る指が止まった。
「朝倉さん、どうかされたんですか?」
撮影助手をしていた島村が言った。
「何でもない。次行こう!」
もう一度覗いてみる。ファインダーの中の女性は理沙子だった。昭夫は胸を撫で下ろした。


 約束の休日、昭夫は待ち合わせの銚子駅へと急いだ。十二月になり一層冷え込んだのだが、赤のトレンチコートを羽織り、目一杯のお洒落をした絢子を見て心が温まった。そして絢子を初めて可愛いと思った。特急「しおさい号」に乗りこんだ二人は仲良く駅弁を広げた。
「今日一日、私の我儘きいてくれる?」
「約束だもんな」
「昭夫って呼んでもいい?」
「ああ、いいよ」
電車は海沿いの景色から山を越え、やがて千葉の町をも過ぎて行った。東京駅地下ホームに着いた二人は長いエスカレーターに乗る。人の多い街に戸惑う絢子に、昭夫は手を差し出した。彼女の手はふっくらと温かかった。二人は有楽町の方へと歩いていった。そして映画館に入ることにした。映画を観たあと絢子は言った。
「昭夫?やっぱ呼び捨ては照れるね。・・・ありがと」
「次は何処行く?」
「東京タワー!」
「了解!じゃあ都バスに乗るぞ!」
「はい!」

 そして一日は暮れていった。帰りの電車では二人して寝ていた。銚子駅に戻ると昭夫は言った。
「家まで送るよ」
「優しいのね・・・」
昭夫は絢子の実家のある終点外川までの切符を買うと、絢子の手を握り電鉄に乗り換えた。
「彼女にバレたら困るでしょ?」
昭夫はそれでもしっかり絢子の手を握っていた。
「今日はお前が俺の彼女だよ」
彼女は唇を噛んで昭夫を見つめていた。走り出した一両編成の銚子電鉄は、コトコトと振動を増しながら加速していった。外川に着くまで無言になった二人は、最後の区間、貸し切りになった車内で見つめ合った。けどそれ以上はなく終着駅を降りていった。絢子の家の前まで来た時、彼女は笑顔を振りまいて言った。
「最後のお願いです!キスしよっ!?」
「えっ・・それは、それは無理だ」
「彼女大切だもんね。撤回します!」
「そうして欲しい」
絢子は大きく手を振って「今日の事は思い出にする」と言い残し、引き戸を開けると家に入っていった。昭夫も手を振った。昭夫は思った。一日絢子とデートして楽しかった。彼女のいい部分好きになれそうだし。でも、今は愛している恋人が居るんだ。そう思うと冷たくも絢子の事は忘れることにした。


 オフィスの専用駐車場はテナントビルの地下にある。コンクリート打ちっぱなしのエリアで、昭夫は声を張って言った。人の気配がしたからだ。
「絢子か?俺の傍に居るなら出てきてくれ!これからうちに帰るぞ!」
すると柱の影から赤いトレンチコートを着た絢子が出てきた。それはあの日のままの姿に等しい。まさに18、19の彼女だった。顔もメイクもあの日のうぶなまま・・・
昭夫の正面に立った絢子は、昭夫に言った。
「昭夫、カメラマンおめでとう。頑張ったんだね!」
「ありがとう」
「私を昭夫のおうちに連れて行ってくれるの?」
「ああ」
「綾子のこと好きになったとか・・・」
昭夫は言った。
「今度はお前を選ぶよ」
「同情?」
「いや、愛情だなっ」
絢子が昭夫に抱きついてきた。昭夫は両手で絢子を強く抱き締め言った。
「お前よく仕事でミスったよな?」
「それカバーしてくれたの昭夫だった」
「だってさ、帰れねえよ。不器用な女残してさっ」
そう言うと昭夫は絢子の頭を撫で、車へと乗せた。絢子が訊いた。
「朝まで一緒に居てくれる?」
昭夫は大きく肯づきながらエンジンを掛けた。
「嬉しい!」
「この車、絢の好きな赤だぞ!」
今度は絢子が大きく肯づく。車はビルの狭間を抜け首都高へと入る。夕刻五時前だというのに既に陽は落ちていた。
「絢に東京の夜景見せてあげるよ」
そう言うと昭夫は、首都高内回りをここぞとばかりアクセル全快で疾走させた。汐留のテレポート、アップダウンとカーブの続く銀座ルート、九段下からは皇居を囲むように走る。最後は赤坂に戻り246(号線)の上をゆくストレートだ。周りの車と共に、そのまま東名高速へとなだれ込む。車線は三車線へと拡がった。
「最高~っ!」
「うん、最高ね!」
海老名サービスエリアでレストランに入る。和食好きな絢子は迷わず和食セットを食べる。
昭夫も絢子に見習い、和風ハンバーグに。かなり違う気も・・・
小田原からはひたすら海沿いのカーブを幾つも越える。真鶴のマンションに着くまで眠る気配のない絢子に昭夫は言った。
「退屈しない?」
「見ておきたいの・・・あなたの運転」
「変なこと言うなぁ~。ま、いい。今度は優しい走りだ!」
そう言うと昭夫は、追い越し車線から走行車線へと渡り、なだらかにハンドルを切ってみせた。音楽もディスコからR&Bへと切り替えた。絢子が言った。
「眠くなりそう・・・」
昭夫は左手で絢子の手を握った。その温もりはあの日のままだった。

 マンションに着くとエントランス前に車を止めた。そして地階である5階を左手に歩き、突き当たりのドアにキーを差す。そこは角部屋でもあり昭夫自慢の城だった。何故か廊下の向こうにはX’masツリーの灯りが点滅している。リビングの間接灯を点け、暖房を入れる。そして絢子のコートをハンガーに吊るした。絢子は言った。
「ステキ~!昭夫がロマンティストだったなんて思わなかったな」
「照れちゃうなぁー。いけねっ!俺、車しまってくる!」
そう言うと昭夫は走って部屋を出て行った。
残された絢子は窓を開け、暗闇に広がる夜の海を眺めていた。

 二人はローポジションのソファーに寄り添っていた。
「理沙子とは恋人になれないって、車をしまうとき電話で伝えてきたよ」
「理沙子って人から告白でもされたのね?」
「絢子知っているはずだぞ!」
「私にも分からない記憶があって・・・名前だけは覚えてるんだけど」
「ん~、それに分からないなぁー。絢が目の前に現れるなんて」
「私にも分からないよ・・・あなたに逢いたいと思い続けてたんだ。逢って話して、それから・・」
「それから?」
「何でもない!あっ、そこにあるのケーキ?」
「あぁ。素早いだろ~。絢が一瞬車で眠っちゃったとき買いに出た」
「昭夫器用だもんねっ」
昭夫は立ち上がりテ―ブルに置いた白箱の蓋を取る。目の前には大きなイチゴの乗ったバースデーケーキが現れた。昭夫はワイングラスを二つ並べると、冷蔵庫から冷えたロゼを取り出しグラスに注いだ。
「俺、お前の誕生日覚えてるぞ」
ケーキを切りながら昭夫は言った。
「へ~、何時(いつ)か言ってみてよ!」
「12月23日。だからお祝いはいつもX’masと一緒なんだよね~、残念!!」
「それデートした日に話したんだっけ?」
「あの日は銀座のルノワールで簡単に祝ったよな。19歳になるねって。おっ、ケーキ食べるとすっか!」
「もうすぐ二十歳だよ」
「じゃ、まだ19のままって事か??」
「大人になったらしたいこと沢山あったけど・・・」
「駄目だよ、消極的なこと言ってたら」
「うん・・・。ケーキ、頂くね」

 絢子が浴室から髪をタオルで拭きながらリビングに戻って来る。そこに昭夫がいないのに気付きその先の扉を開く。そこは寝室で、昭夫はニュースを観ていた。
「ぶっそうだなぁー放火だなんて」
昭夫は独り言を言うと観ていたTVを消した。昭夫は後ろでじっと立っている絢子に気付き言った。
「おお、こっち来いよ!」
絢子は寝室に入ってきた。
「私、男の人の部屋に入るの初めてだし・・・」
ベッドを前に、絢子は躊躇(ためら)っている様子だ。そんなセリフ言われると昭夫も気まずくなってしまう。昭夫はそう思いながら、自慢のオーディオシステムの電源を入れにリビングまでいった。流れてくるピアノのメロディーはX’masソング‘きよしこの夜’であった。それは二人のいる寝室のスピーカーでも流れていた。昭夫は絢子に抱きつかれた。寝室の窓にもツリーのライトが乱反射している。彼女は昭夫の胸の中でこう言った。
「私を探したら駄目だからね。それだけは覚えといて下さい」
「急に何を言うんだ」
その返事はなく、絢子は恥ずかしそうにしてみせた。
「ねぇ?」
「何だよ!?」
「あの日出来なかったキスがしたい」
「キス?」
「KISS(キッス)・・・」
「しようか・・・」
昭夫は、目を閉じた絢子の唇に自分の唇を合わせてみた。そのKISSは甘く切なくそして絢子の想いまでも伝わってきた。ベッドへと倒れていく。それでもキスは続く。いつしか昭夫は眠りに就いていた。

 目を覚ますと朝が来ていた。隣にいたはずの絢子がいない。昭夫はテーブルの上に一枚の置手紙を見つけた。そこには二人の似顔絵が描かれ、その下にはこう書かれてあった。
<昭夫、本当に私のこと愛してくれてありがとう☆あなたに理沙子さん返してあげます。私はもうこの世に思い残すことはない様です。これで成仏できそう。・・・さようなら>
「絢子・・・。バカ、理沙とは別れて俺は絢を選んだんだよ!勝手に死ぬなっちゅーの!」
しかし何処へ行ったのだろう。勿論着てきたコートも消えている。仕事を休んで近所を探す事にした。そして部屋で待ってもみた。暗くなっても戻ってくる兆しはない。このままじゃ眠れないな、これから捜索願いを出しに行こう。そう決めた。ガレージに向かう途中、昨夜絢子の言ってた言葉をふと思い出すと全身から力が抜けてしまった。
- 私を探したら駄目だからね!それだけは覚えといて-
部屋に戻りベッドに横たわる。次第に強い睡魔に襲われていく。絢子が「うちへ来て!」という不思議な夢をみた。朝になり、昭夫は半信半疑で故郷・銚子を訪ねてみようと思った。


 真っ赤なMR-Sは海沿いの道を飛ばしてゆく。十時になってから昭夫はオフィスに連絡を入れた。電話口には事務の加奈が出た。
「Sプロダクションです」
「朝倉です。今日も急用が出来てしまって申し訳ない!さっき祐介に今日の代理を頼んだ。先方にはその旨伝えといて欲しいんだが」
「了解しました」
「それから・・・」
「それから?」
「おごる約束果たさなきゃな」
「はい。期待しないで待ってますよ!」
加奈は笑って答えていた。

 都内に入った昭夫は、首都高をそのまま湾岸線へと流れていった。銚子に着いたのは昼時だった。犬吠埼に近い外川(とがわ)にある青嶋家を訪ねてみる。見覚えのある細い道路に入ると車を止めた。しかしそこにあるはずの家屋は今はなく、小さな空き地になっていた。そのすぐ裏手を銚子電鉄のレトロ電車がコトコトと音をたてながら過ぎ去ってゆく。昭夫は空き地の隣の家を訪ねた。家から出てきたのは優しそうな老婆だった。
「はい何でしょう?」
「あの、青嶋さんは越されたのでしょうか?」
「青嶋さんね~。八年ほど前に放火に遭ってね、全員お亡くなりになられたんですよ」
「放火!? 亡くなった?」
「娘さんの絢子ちゃんが成人したばかりでね、可哀想にね~」
昭夫は唖然とすると同時に、その現実を受け入れなくてはならないと思った。八年前というと、昭夫はカメラマンを目指そうと、反対する両親を振り切り再度東京へと出てしまった時分である。地元の仲間、恋人までも捨てたあと、この町の一大事すら知る余地もなかったのだ。次第に熱い想いと哀しみが込み上げてきた。昭夫は小さな空き地の前に跪(ひざまず)き、静かに手を合わせた。目から溢れ出したのは大粒の涙だった。そして心の中で叫んだ。[ 絢、ごめんな。俺が傍に居てあげられたら安心して天国行けたはずなのにな。もしお前の気持ちが満たされたのなら安らかに眠って欲しい。昭夫は淋しいなんて言わねえから ]
再び踏み切りの警報が鳴りレトロ電車が通過していった。駅前の花屋まで行き仏花を手に取ると青嶋家跡にたむけた。横には彼女の好きな赤色の薔薇を添えた。
「俺のとこに来てくれてありがとう」
二度三度となく昭夫はそう呟いていた。そして海が好きな少年は、十年ぶりに両親の顔が見たくなり、小さな漁港の町をランニングで抜けていった。       -完-

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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東京都出身、横浜市在住
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