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麦わら帽子 ~第三話 母子家庭~
麦わら帽子 第三話
 
        作/POPSTAR イラスト/黒咲さん

 三輪良子は息子の伸幸(のぶゆき)を自分の力で育てていた。元旦那は何でも出来て優しい性格で安心できる存在だったのに、ある日好きな女性が出来たと言われ別れを告げられた。結婚したと同時に子供が誕生して5年目のことだった。別れの原因は自分にあったことを否定できなかった。人の運命って望まない苦悩を強いられたり、思ったようにはいかないのだと良子は身に染みて体験した。
 別れは自分が恋愛依存症である事に融通していた。生まれてまもなく親に捨てられ、受けるべき愛情を得ていないことが一番の理由だと思う。施設でも他の子供同様、公正な愛情を受けたはずなのに人一倍嫉妬心が強く孤立していた。依存症とは、相手に委ね、支えてもらわないと安心できないという感情が起きる状態を言う。それは相手とっては常に愛情を要求され、犠牲を受けることになる。けど、その相手はその人の為に時間を使ってあげられないのが通常である。夫婦になって相手が他人だと悟るほど良子は辛くなった。当然相手の理解がないと亀裂が入る。それを目の当たりにした。
「私と仕事、どっちが大切なの!」
 と、良子は蒼然と言った。愛が優先し、のめり込む生活に、仕事を持つ彼には耐え切れなかったのだろう。良子は頼れる彼を永遠に期待していたのにと思う。
 彼をものにするまでは必死だった。しかし付き合いが進行すると、相手に頼ることから回避できなくなっていった。好きな人が出来たと聞いたが彼は浮気していた訳ではないと語った。彼の心意に理解したからこそ良子も別れを承認した。そして良子はひたすら息子、伸幸に愛情を与えた。すると不思議と良子は自立していった。伸幸もいい子に育っていった。

 良子は幼い頃、施設でピアノを習っていた。園長の弾くピアノに興味を示したことで、直々教わったのだ。離婚をしてからはその才能を糧に、パートと掛け持ちでピアノ教室を開いた。防音工事を施して中古のアップライトピアノを購入した。生徒はなかなか集まらなかった。そこで同じ施設で育った健司(けんじ)に相談をした。彼とは兄妹な様なもので、男女の関係にはならず親交があった。「健ちゃん」「良ちゃん」と呼び合う仲だ。その健司の計らいで生徒が集まった。それでも現実は厳しく、生活には余裕がなかった。

 伸幸はおとなしく女々しいとこもある。しかし母が伝授するピアノを素直に受け入れとても優しい子だった。伸幸自身、母親が好きだった。母の前向きに「頑張らなくちゃ!」と言い続ける言葉に重みを感じていた。そしてひと際愛情を注いでくれた。どうして父はこの母を捨てたのか?子供の時分には当然解からず理解しがたい。ただ母が、「私に原因があったのよ。自分は生まれ変わったの」という抽象的なセリフを漠然と聞かされていた。

「伸くん、海外旅行いこうか?」
 良子は激安ツアーの広告を息子に見せながら言った。それは伸幸が中学に上がる時だった。旅と言う旅さえしていなかった良子は、息子の為に思い出を作りたかった。いや、「思い出」じゃなく永遠に続く「歴史」だろうか。何故なら、良子にとって未知の恋愛よりも息子と居ることが生きがいになっていたからだ。それを守ることが自立を促し、トラウマをも改善していく特効薬であった。
 その旅先はオーストラリアであった。激安とは言え5桁の額である。幸い伸幸の方は、中学生になる月を跨いだが子供料金で行く事が出来た。シドニーから首都キャンベラを経て、西の都市パースまでの行程であった。南半球のオーストラリア南部は地中海性気候で、夏から秋にあるとこであった。最もこの気候の特性上、夏は乾燥し冬の寒さも厳しくはない。住み心地の良い土地かも知れない。訪れた時期は日本では春であるが、オセアニアでは夏から秋になる頃だ。
 何故オーストラリアを旅行先に選んだかは、幼馴染と言えよう健司が現地を旅して推奨していたからだったった。良子が健司と二人きりで旅したのは、施設を出てから連れてって貰った湘南の海だった。そのありきたりな場所で色んなことを語り合った。浜辺にはサーファーの姿が見受けられたが、二人の視線には入っていなく話に夢中になっていた。良子から見て、互いの関係が発展しキスがあるのかと期待をもしたが、この時も二人には兄妹としての感覚を消すことが出来なかった。そして互いに恋人が出来てからもこの浜辺で再会した。このとき健司が別れ際に言った言葉が淋しく思えた。
「幸せになれよ」
 良子はそのあたり前の言葉を胸に刻み付け、元旦那との結婚を決めた。それを見届けたかの様に彼の方も結婚していった。

「母さん、ピアニストになればいいじゃん」
 帰りの飛行機で健司がぽつりと言った。
 シドニーから始まったツアーも最終日、パースのレストランで聞かされたカルテット演奏。親子はひと際ピアノに注目していた。その演奏力は桁違いではあったが、良子にとって華やかな世界に憧れがないこともない。その時の心境を思い出した。そして言った。
「お母さん人前苦手だし・・・伸くんが叶えてくれたらいいな」
と、冗談っぽく笑って誤魔化した。
「うん、ぼくピアニストになる!音楽家になりたい!」
 女々しくておとなしい健司が、初めてはっきりとした口調で言った。そう言ったものの母の腕に縋り付いて眠る健司はまだ子供の様だ。

 良子は健司の頭を撫でながら機上の空を眺めていた。親離れしなくてもいいのよ。心の底ではいつか自立していくのだろうと思う心境は複雑だった。

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

| 恋愛小説 | 14:03 | トラックバック:0コメント:7
コメント
切なく哀愁味帯びてて感動しました
ぼくも雨宿りの幸せでピアニストの真理子を書いたので、一生懸命読みました。ご主人と離婚したけど、ピアノをやっていたので息子健司がお母さんをじっと見ていて、最後に
お母さんピアニストになるよと答え、母親として優しくオーストラリアから帰る機内で母の胸にすがりつき眠るわが子を見て自分の跡を継いでくれるという安心感と、いつかこの子も離れていく母、良子の気持ちが読んでいて切なく哀愁味を感じ、目に焼き付けられるようないい話です。
短編でこれだけの読者を揺り動かすPOPSTARさんの手腕にただ驚くだけです。
感動のお話ありがとうございました。
2007.10.09 Tue 23:28 | URL | HIRO
新ブログにもどうぞ
Cafeのある散歩道、ブログ更新しました。
現代若者字鑑など、書きかけ小説もあります。ご意見いただければうれしいです。
作家のたまごをどうぞ、
2007.10.10 Wed 00:49 | URL | HIRO
更新した鉄道の扉にもどうぞ
POPSTARさま
いろいろな面で活躍されていることを時々写真から見ることができています。
さて、私も遅ればせながら素顔と思いまして、鉄道の扉で東京私鉄の小さな旅のブログを更新、去年までお世話になった出版社を尋ねて一階書店で本を持っている姿を店員の女の子が撮影してくれました。
しばらく自分の写真を撮らないうちになんてしわくちゃの顔だろうと思い、ますます自分の顔の撮影はすまいと変なところで決心しました。(笑)
ところで小田急・地下鉄・京王・東急など、けだるい夏の日の写真入りなど、盛り沢山更新しましたのでこの場をお借りし、鉄道の扉にもおいでください。
2007.11.09 Fri 23:56 | URL | HIRO
HIROさんへ
鉄道の扉拝見いたしました。HIROさんまるで鉄道少年のようで・・・
写真やイラストが入るとイメージが変わりますね。イメージ写真て今日ではあたり前ですが、、「今風」って言うことでしょうね。
いつもコメントありがとうございます。
2007.11.10 Sat 18:23 | URL | POPSTAR
見ていただきありがとうございました
お忙しいのに早速みていただいてありがとうございました
特に、鉄道の扉で「けだるい夏の日」の小説を掲載、、思えば処女小説で、たんたんと書いたものをPOPSTARさんが最初に見てくださって、いつまでも忘れられず、思い入れが格別に強いです。

POPSTARさんも最初に書いた小説は格別でしょう。
でも、表現は愛LOVEYOUを見せていただいて勉強して
最近書いた雨宿りの幸せのヒロイン像、真理子がいちばん好きです。
けだるいはこの間江ノ電、江ノ島周辺を撮ったので、はじめて写真を入れてみました。

面白いもので、江ノ島の海に出て足まできそうな波を眺めているうちに、ここで涼子と幸一の二人が石を投げたんだなあと思って写真撮ったら、なぜかじ~んと来たりして、
学生の時、そんなことしたっけなあと、

二人がさらにエスカーで植物園に行き、展望塔に、最後に
江ノ島アクエリアムで大きな海の水槽をと思うと、またたずねて写真撮って入れて完成せねばと思います。

下手な私の小説も内容によっては、写真とかこれでイラスト描ければ、セーラー服の涼子、学生服の幸一とか、現実味を帯びるのですが、絵のほうはまったく、イラスト入れて文字と同時に視覚で訴えるのも一つの手ですね。

意表、ずいぶん訂正して広井の会社での仕事も入れて完成しましたが、書き終わって、ふと、ある日、美人のOL風の女の子と出会い、その後もデートを重ねたりしているうちに、実は企業の新たなリストラハンターだった、こんな時代が来たらと思ったら、美しい恋愛小説のつもりが、結末は怖くなりました。(笑)
2007.11.12 Mon 14:40 | URL | HIRO
こちらのブログが字も大きく読みやすいです
意表を読んでいただき、コメントいただきましたのを、さらに第二編を書き、記事を移動してPOPSTARさんのコメントを誤って消したことをまずおわびします。

僕はPOPSTARさんの小説を読ませていただき、最後に泣いていましたが、僕も意表第二編を書いてはじめて自分の小説で涙がこぼれ泣きました。

やっとここまで来たのだなあという思いです。
第二編は、響子のあっという変化を僕の企業の経験を参考に、企業の現実と冷淡さ、その中にあって二人のほっとする恋愛、僕としてはこれを最低の水準として今後も頑張ろうと思っています。
でも、まだドラマっぽいです。

お暇な時に読んでいただければ嬉しいです。
FC2の作家のたまごのほうが字が大きく読みやすいです。
URL、名前をクリックいただければと思います。
ここまで来たのもPOPSTARさまの作品読ませていただいたおかげです。ありがとうございます
2007.11.18 Sun 00:03 | URL | HIRO
HIROさんへ
ただいま読ませて頂きました。感想などコメントしましたので宜しくどうぞ☆

追伸:現実を目の当たりにした悲願な思いが突き刺さりました。
2007.11.18 Sun 13:40 | URL | POPSTAR
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東京都出身、横浜市在住
趣味:写真撮影、音楽制作、作家活動、野球、ドライブ、飲み会(笑)ほか多数・・・
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