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しばらく休止してま~す! | main | 春のS.L.S.① ENDLESS LOVE ~Because, I have loved you.
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春のS.L.S.② 部屋とTシャツと私~ナインティーンガールの片想い
(序 章)
 とある漁港の町で、民宿を営む家庭に私は生まれ育ったの。食卓に並ぶ料理と言えば必ずと言っていいほど魚があってね。そして裏庭で育った野菜と、母が知人より仕入れてくるお茶。県の名産品がお茶だから、近くの台地まで走ると一面お茶畑が広がっているんです。一年前に高校を卒業した私は就職するも挫折して、町の食堂でアルバイトをしながら家業の民宿を手伝うことに決めました。そんな私の性格は、男まさりでさっぱりしていると皆は言います。それはもう、男女問わず友達からは子と呼び捨てだし、服装だってジーンズオンリー。夏ならTシャツ一枚、寒くなればその上にオーバーを羽織るくらいだもの。

(本 編)
この話は、私が19歳の頃のお話です。ちょっぴり片想いしました。その人は私よりも沢山の人生を生きてきた人です。

 新年を迎えてから我が民宿にその人は現れました。私がバイトに出ている時間帯です。二階にある部屋を見てから、「ここに三ヶ月程滞在したい」と言ったらしいの。はじめ、単身赴任とか出稼ぎだろうと両親と話していたんですが、一向に部屋から出てこなかったりで。それでも、最初に三ヶ月分の料金を一括払いしてくれたことで怪しい感じもしてなくて、私ともすれ違う度に笑顔で挨拶してくれる感じのいい人だったのです。名前は浅香さん!その浅香さんは食事中、「これでも人見知りの性格なんですよ」と自分で話し出してから、年齢の近い父の晩酌相手にもなっていました。そこでわかった事は、25年連れ添った奥さんと別れ、息子さん、娘さんとも別れ、行き場を失ったという話。理由は奥さんに新しい男ができたみたいで。たぶん人の良さそうな彼が出て行く立場を選んだのでしょう。仕事は?というとTVの放送作家。今やワイヤレスでデーターを飛ばす事で仕事が成り立つみたいです。年頃の私にちょっと興味があるのが芸能界だったので、例え小さな番組でも担当していると聞けばミーハーになってしまいます。

 私には二つ下の弟がいまして、高校では野球やってました。私がバイトから戻った昼下がり、浅香さんと弟が、民宿から見える海辺でキャッチボールをしている姿を目にしました。私はスクーターを置いてから、テトラポットのある防波堤に腰掛け、二人の楽しそうな光景を見ていました。浅香さんの少し伸びた髪が、さらりと風になびいていて爽やかでした。彼がうちに来てからもうひと月が過ぎていたのね。暑くなった浅香さん。脱いだ上着の下はTシャツでした。ネックレスがきらりと光ってた。私と似た様な若い格好!? そして浅香さんは、少年のような目で私を見たんです。弟は気を利かせてグローブを私に投げると、「あとはよろしく!」と、その場から去って行きました。誰も、私が彼の事を好きだなんて言っていないのにね。。。
「お姉さん、行くよ!」
そう言って、浅香さんは持っていたボールを軽く私に投げるフリをしたんだ。慌ててグローブを着けた私は彼のボールを受けました。何度か交わしているうちに楽しくなって思い切り投げていました。
「ナイスボール!!」
浅香さんは言うけど、それってストライクじゃなく‘ボール’って意味!? 彼の投げるボールは全てストライクなのに、私の投げるボールは時折とんでもない方向に逸れちゃうし。私は息が上がり、彼と同じくTシャツになっていました。
「野球やってたんですか?」
「ああ。ずっと昔にね」
それから防波堤に座って、聞きたかった仕事の話や他愛ないことなどなど、しばし語り合ったんだ。近くで見る彼の黒い髪の合間には白髪が混じっていて。そして早の南風は、二人の為に吹いているかの様に思えた。
「汗かいたから風呂でも入らせて貰おうかな」
そう言って浅香さんは歩き出したの。もっともっと彼と話していたかったのに。その時、裏庭から父が見ているのに私は気付きました。もしかして浅香さんは、それを気にして戻るのでしょうか?

 予想は的中?!父は私の部屋に来て、「浅香さんには近付くな」と忠告したけど、温厚な父がそんな事を言うなんてね、信じられないよ。私は反発しても仕方ないと思って、ひと言「わかった」って返事を返しました。そして絶対彼の部屋に近付くなとも言われたし。それって仕事にならないじゃん。もっぱら滞在という形でしたので、一般客の様に布団を敷きに行ったり、部屋の掃除など出入りは無かったのですが。

 その晩、父が避けたのか浅香さんとの晩酌はありませんでした。私は悲しかったよ。そもそも私はこんな性格だから警戒などせず自分から行動を起こすタイプでもあるし、いざとなってもアクシデントを切り抜ける自信があるよ。それにその時は分からなかったけど、浅香さんに恋心が芽生えていたの。返って、彼に対して色気ない子供相手じゃ迷惑なのではないか?とか思ったり・・・。
この日は他の客も無く私は非番でした。そのとき二階に上がる浅香さんの後ろ姿を見つけました。私は一足遅れ、キシキシと音のする階段を忍び足で上がって行くと部屋に入る彼に声を掛けてみました。
「こんばんは」
「夜は冷え込むね」
「ごめんなさいボロイとこで。それから、私のせいで・・・」
「私のせい?」
自分が思っている事を手短に話したの。浅香さんは言いました。
「それはないよ。お父さんから、週末あたり釣りに行こうって約束してるし」
「それならよかった。でも、こうして話していることは内緒にしておいて下さい」
彼は肯いてから、「部屋に入ってみる?」と私を誘ったの。その部屋は角部屋で、私が家族と離れに住む前に弟と過ごした子供部屋だったんだけど。ちゃぶ台には、ウインドウの開かれたノートパソコンが仲良く二台並んでいて、パソコンに詳しくない私でもそれらが同じ機種だと分かったし。ひとつはスペア兼ワープロ用で、もうひとつはネット専用で、メールを受けたり調べ物ができるそうです。そして浅香さんは今日宅急便で届いたという包みを破いていました。そこからは印刷された台本が出てきました。
「僕の書いてる番組なんだ。残念ながら西日本のローカル番組だからここでは流れないけどね。こっちのパソコンで録ってあるから見てみるかな!?」
再生されたのは真面目な教育番組でした。それもフランス語講座。がっかりなんてしなかった。部屋の隅に無造作に積まれた本はフランスの書房で、彼は大学でフランス語を教えていた元助教授だと聞いたから。
「バカな私にはさっぱり解らないけど」
と、ページを捲りながら私は言っちゃった。それでも彼は笑って言いました。
「僕はフランスで育ったから話せるのは当然だよ」
「へぇ~」
「君にはつまらない話だろ?」
「そんなことないです」
確かにつまらないかも知れないけどそんな事は言えないよ。けど、自分にはないインテリな部分に大人を感じましたわ。
子さんて言ったね?いい名前付けて貰ったね」
「いいのかなぁ~?私は今時の名前の方が良かったよ」
浅香さんが私の名前を呼んでくれたのはこれが最初で最後でした。何故なら、彼と話したのがこの時が最後だったから。

 翌日、私が食堂へバイトに出ている間に二階の部屋から出ていった彼の事など知る由もありません。帰宅してそれを知った時、今までに無いくらいの猛烈な勢いで、心の中に‘寂しいという風’が吹いたのです。彼が去ったその部屋で私は泣いていました。この気持ちが彼に届くなんて思わないけど涙が溢れて来たのです。それから自分の部屋に塞ぎこんでいると母が来てお茶を置いていったのですが。その時思った事は、娘の気持ちが解るのは母親なんだと・・・。

 あれから何年か経ち、私に恋人ができました。彼は海の男(漁師)です。先日、母と女同士の話をしました。父が、母とあの時滞在していた浅香さんとのことを疑い、「出て行ってくれ」と告げたんだと言う話にはたまげたけど。そもそも母は楽しく会話をしていただけだと言っていたしね。それ自体が父には耐えられなかったのでしょうね。初老の母は照れながら言ったの。
「お父さん、私一筋だからね」
と。それを聞いた私は、いつもの明るい口調で言いました。
「私もそんな風に愛されたい!」
「あんたの彼氏、無口で昔のお父さんに似てるかも知れないね」
「それ、ほんと??」
私は続けて言いました。
「じゃあ彼の傍で他の男の子と話してみようかな」

(終 章)
 密かに弟から奪ったあの日のボールを引き出しから取り出し、暫く私はそれを眺めていました。もうふらりと私の前に現れないでね。思い出のボールをポケットに入れると、桜の散る海辺に出ました。
「お姉さん、行くよ!」
あの日の浅香さんのセリフを真似ながら、ボールを海に向かって遠く、それは地平線の彼方まで届く様に思いっきり投げました。もし三月まで浅香さんと居たのなら、私は彼に本気になって告白していたのかも知れないね。だけどこれで良かったんだよね。だって、今は大好きな彼がいるんだもん。

浅香さんとの想い出は、思い出となって、この先忘れ去られていくのかしら?それでも浅香さんと交わしたキャッチボールだけは忘れたくないよ。

 -完-
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

| 恋愛小説 | 14:34 | コメント:0
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