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春風の旋律 | main | Every-day’s valentine ~想い焦がれて~
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君への想い~奇跡を信じて~
  1節 (雪菜サイドから)

♪叶わないものを叶えてく力が 世界にはきっと満ち溢れてるoh-oh-oh-
 君への想いが勇気に変わる頃 光がそっと差し込むだろう
(バックに倖田くみの奇跡が流れている)
「いい詞だよね?」
と、私は塞ぎがちなシンに言った。そして続けて言った。
「あっ、この曲歌い手は女性なんだけど、僕が君に語りかけてるって歌なの。前向きにね!」
「雪菜はどうしてこんなに俺に優しいの?」
ようやくシンは口を開いた。
「優しいだなんて意識してないよ?」
「しばらく学校もないのにバイトも行かず寝てばっかいてユキのひもになっている年上の男にだよ!?」シンは息も付かず一気に言った。直ぐに私は言い返す。
「だって、シンのこと大好きなんだもん。それに…あの時あなたが私に勇気くれたの」
「あの時?あっ、あの時か!わかった。おやすみ」
シンは自分なりに納得すると再び布団に潜った。そんなシンを、私は布団の上から叩きながら甘えた声で言った。
「シンちゃん、キャッチボールしようよ~!!」今の雪菜は元気だ。そして私はその布団に潜り込むと彼の耳元で言った。
「思い出すな。私が壊れたときあなた慰めるの上手だったわ。..そばに居てくれるだけで俺は幸せだよ。なーんてネッ!いま私が居て幸せでしょっ?」
「はいはい、行けばいいんでしょ」そう言いながらシンは布団から飛び起きた。そして猛スピードで着替えると、グローブを持って玄関を出て行った。私は目を丸くして急いで彼を追いかける。ドアノブに手を掛けようとした瞬間だった。ドアが開きシンが顔を出した。
「ユキはボール持ってきて!」
「はい!」私はびっくりしながら答えた。

 グランドは少年野球に占領され、側道で私達はこじんまりボールを投げ合っていた。
「きゃーっ!」
私の投げたボールが大きく反れ、試合中のグランドに球は転がっていった。
「すいませーん」
シンはそう言うと、気まずそうにボールを捕りに行った。
「ごめんなさい」
と、私はボールを受け取り戻ってきたシンに言った。
「ハハハッ。最高!さすがユキさん!」
彼はそう言った後もしばらく笑っていた。
「いつまで笑ってるのよぉ!」
私は膨れた。そして思わず地面にグローブを投げると彼に背を向け、足早に歩き出した。
「ごめん、許してくれよ。なぁ、ユキっ」
足早に歩く私は止まる気はなかった。付いてきたシンがユーターンをし、自宅へと歩き出した様子だった。私は無性に淋しさを覚え、振り返ると同時に駆け足で彼の元へ。そしてシンの背中に飛びついた。
「すきっ!!」
私は甘えた声で言った。
「俺も!」
シンも答える。私はその綺麗な瞳に微笑みかけた。
「シンちゃん、グローブ置いてドライブ行こうよ?」
「よし、行くか!」
二人は仲良く手をつなぎ歩いた。それは、爽やかな秋の昼下がりであった。

 2節 (解説)

 23になる雪菜はOLを辞め、近くの惣菜店で働いていた。もっと綺麗だったらキャバ嬢にでもなって二人のためにも稼ぐのに。その大胆な発想もO型からか?決して派手ではない堅実派な雪菜である。一人暮らしの生活のキツさには慣れていたが、シンを同居させてからはさらに負担が増していた。シンは横浜から週に2日ほど名古屋の大学院に通う学生だ。在籍5年で卒業は出来ていない。雪菜には未知の世界である。工学の分野を研究しているらしい。ユキの前ではほとんど見せないが、非番の昼間にコツコツとパソコンでレポートを書いているようだ。シンの宝物の一つがそれで、もう一つは車だ。とにかくマテリアル主義でブランドが好みの様だ。感性で生きる自分とは合わないのも承知で付き合うことにした。シンは大の車好きで、バイトで貯めたお金と親からの補助で、ベンツのオープンカーSLKに乗っている。週明けはその車で名古屋へ行ってしまう。シンも週3でバイトをしているが、車の維持費と通学費で消えてしまう。シンを同居させたのは雪菜であり、彼も肩身は狭いみたいだ。倹約にも協力はある。愛し合うことにかけては他のカップルには負けないだろう。シンの言う事は正統なのだが頑固なのだ。雪菜は彼に染まっているのか?と思う事もあったりするのだが…。それでも頭のいいシンを信じていた。
 二年前、両親が他界し兄貴と二人きりになった雪菜に希望を与えてくれたのがシンだった。事故で亡くした父に続き病気がちな母も居なくなってしまった。それまでは残業の無い日には、大好きな母の看病に隣町の実家まで通っていた。都内には祖母がいるが伯父(おじ)の家に居る。結婚している兄が母の部屋が空いた事もあり同居してもいいと言ってくれたのだが、アパートを借りていた雪菜は自分の幸せを掴みたかった。年頃の女らしく、そんな孤独から逃れたくてすぐに彼氏が欲しいと思った。兄や友達からの紹介も受けた事もあるが、波長が合わず恋愛とまではいかなかった。職場には恋愛できる男は居ないしと、五年間働いた単調な会社を辞め、次に入ったところも環境が合わず直ぐに辞め、途方に暮れていた。

 3節 (雪菜サイドから)

 たまたま入ったファーストフードの店での事だった。私の隣には、ノートパソコンを開いている若い兄さんがいた。その兄さんは一見、DCを着こなしサラリーマンかと思わせるのであるが、パソコンのウインドウを覗いてみるとゲームの様で滑稽(こっけい)だった。ポテトを口にしながらトランプゲームに夢中なお兄さま!? ふと思った。相手は私に気付いたのかちらっとこちらを見た。慌てて(あわ)伺うのをやめると相手はまたそれを続けた。退屈な私は、まばらな店内を見回していたのだが、再び横目で兄さんの手元を見ていた。
「気になるよね?こんな所でゲームする奴なんて」
モニターを見たまま兄さんは言うとニヤっとした。
「意外とこれ面白い!やってみる?」
と、兄さんは促す様に私に問いかけた。
「結構です」
私はとっさに手を横に振り答えたあと苦笑いした。そんな私に彼は言った。
「そう。そうだよね~」
変な雰囲気になったので私は席を立とうとした。
「そうだ!今からドライブ行きません?」
思い付いたかの様に彼は言った。この人、自信家?でも~何か格好イイし。どうしよ~。私の中で葛藤が巡ったのも束の間、その言葉に委(ゆだ)ねた。気付けば彼の車の中、夜の湾岸線を走っていた。
「まだ時間ありますか?」
彼は言った。
「今日は特に用事はないんで..」
冷静を装いながらも私は内心思った。この人ならこのまま連れ去られてもいいと。気さくで頼もしい反面ちょっと大人っぽい雰囲気。自分を満たしてくれそうだからだ。単調な音楽がモダンな車内に流れる。彼のベンツはぐんぐんと加速していく。さすがに揺れのない静寂(せいじゃく)な車だ。後方に路面を照らす水銀灯が流れていく。しばらくの無言のあと、うっとりしてしまった自分は我に帰った。
「あのぉ、どこへ行くんですか?」ふだん社交的で明るい私でも所詮はレディー、初めは慎重なのだ。
「海ほたる」相対して(あいたい)気さくに兄さんは答える。
「今からですか?」ユキの中では未知の場所で検討も付かずといったとこなのだが…
「もうすぐですよ! 案外近いんだ。来た事はあるのかな?」
「ないです。男の人とドライブなんて始めてだし。あっ、前のカレ免許無かったし..」
「ハハッ、正直なんだね。気に入った!俺っていけないなぁ?失恋したからって見知らぬ人簡単に誘うなんて」
「失恋?..私もそんなところだからいいですよ」
そう言うと私は楽しくなってきた。同じ胸中への同調か?この人と付き合えるかも知れない。そう思ったからだ。そして彼に聞いた。
「今日は仕事帰りなんですか?」
「違う違う、学生だよ(笑)!帰りと言えば名古屋からね。あっ、そういう話はあとにしよう」
質問をかわされたようで、私はまた黙りこんでしまった。
 車を降りると晩秋の冷たい海風が吹きぬけ、私の瞳(め)は涙ぐんだ。兄さんの何か言った言葉も風に消されていく。「向こうへ行こう」とでも言ったのか?ただその後を付いて行った。立ち止まった。二人並んで闇の中の東京湾と対面した。夜の帳(とばり)とまではいかないが、海を隔てた向こう側には小さくフロンティアの灯りが続いている。その時、彼の視線を私は感じていた。そして夜景に見とれる私に、彼は耳を疑う様な事を言った。
「かわいいよね。好きになりそうだよ。あっ、いきなりごめん」
「ありがとう」私は答えた。正直に出た言葉ではあるが、「私も」とは言えなかったのは唐突だったからだ。応え(こた)なおそうとした時にはもう歩き出していた。
「ユキナさんだったかな?やっぱ年下なのかなぁ?!」
「たぶん(笑)そういう話はあとでね!」
私は言うと、その台詞(せりふ)に思わず二人で笑ってしまった。

 帰りのドライブは楽しい雰囲気になった。自己の事、すなわち生活の事、趣味や好きな食べ物、そしてユキは親を亡くした悲しみまで告白した。敢えて私は、シンを兄さんと呼ぶ事にした。少し残念なのが、兄さんは世田谷で親と同居しているらしい。兄さんから見れば行動範囲が広いから庭先らしいが。その言葉通り、彼は私の家のそばまで送ってくれた。深夜になってしまったが、布団に入る前に兄さんにメールを送ってみた。
[今日はありがとう。楽しかったです。初めて会ったのにそうは思えない程です。兄さんが私の話を聞いてくれたのでだいぶ元気になったよ(^^ゞ恥ずかしいけどまたデートしてたいです。連絡待ってますね☆おやすみなさい。]
浮かれて打ったのがバレテしまう様な脱字もある内容だった。こんなにドキドキしたのは始めてかも知れない。私の心理を見据えての事か?シンからもお返しのラブメールをしてくれた。

 ~私たちが付き合い始めた経緯(いきさつ)はドラマティックでした。それはずっと変わらないと思うし。あっ、私が彼の名を呼ぶのは変わったけど。兄さんからシンさんに変わり、シンちゃんと呼ぶに至っては年の差がなくなった間柄なのでしょうね。この先の物語は、シンが描いてくれてます。というのも、私は次第にある病に侵されてしまい明確に覚えていません。ただ彼の価値観が私により変わって行き、その優しさにこの上ない幸せを感じていました。(雪菜)


  4節 (シンサイドから)

 付き合って半年経った頃だろうか?先に結婚を意識しはじめた雪菜が、同棲をしようという話をシンに持ちかけた。そのとき女性って先の事まで考えているんだなぁとシンは思った。学生のシンにとっては微妙な感覚であった。そして実家にいたシンは、雪菜のアパートに転がり込むように引っ越してきた。女性ってしっかりしているもので、シンは雪菜が身の回りの事をしてくれるのをあたり前のように思うようになった。シンは思う。雪菜がこんなにも自分のことが好きなんだという事を。相手が年下なのにどうしても甘えてしまう。雪菜が働いたお金は二人の生活費で消えてしまうし、彼女自身の服や化粧品も買う余裕もなくてである。自分は車にかかるガソリン代や、昼飯代くらいの稼ぎしかなくフェアーじゃないと心には思っていた。いつかその事を話した時、「それでもいいよ」と笑ってくれたのは雪菜だった。
雪菜のために別れようと思った事もあったのだが。作ってくれたお弁当にシンの好きなものが並んでいるのを見て遅からず、自分を一番解かってくれているのが彼女であることに気付くのだ。シンにはエンジニアになりたいという野心があっても、博士の称号を取って大学院を出られるかという関門を目の当たりにしていた。

  5節

 そんな二人でも楽しい毎日が続いたのであったが、ある日予期せぬ出来事が起こったのだ。シンが名古屋から帰宅した深夜、自宅に雪菜の姿が見えなかった。メールの返事が半日来ない事自体、シンにとってはあり得ない素行である。次第に心配になり、彼女のお兄さんの携帯に電話を掛けてみて事の真相を知った。落ち着いた声で相手は言った。
「シン君に連絡しろって言ったんだけどね、雪菜ひどく頭痛に襲われて救急車で病院に運ばれたんだよ。俺に連絡が来てさっきまで傍に居たんですけどねぇ」
「頭痛ですか?原因はなんでしょう?」
シンは不思議そうに尋ねた。「頭痛で救急」とはピンと来なかったからだ。
「CTにも異常ないというし、医者も判らないと言ってるけど痛みは引いたみたいで明日帰れると思うよ」
電話を切った後、シンは彼女を心配するのを止める様に音楽を流した。自分が心配性だったとは!? 所詮、誰でもそうであろう。ベッドに横になる。すると雪菜の携帯が転がっているのに気付き、そっと充電器に差しておいた。メール受信の青いダイオードが気になる。俺からのメールであろう。そう思った。塞(ふさ)ぎがちだった雪菜にも最近友達が出来たから、その子達からも来ているのかも知れない。シンは頑(かたく)なに相手を疑う事なく雪菜には接してきたのだが、彼女の方がシンの携帯を隠れ見たことがあった。それに気付き雪菜に問いかけると、彼女はキョトンとしてシンに謝ったのだった。もちろん自分にはやましいことがないから怒りもせずにいた。今、お返しに見てやろうなんてシンに無かったのは、自分に自信があるからであろう。とにかく明日の朝、メモ書きに控えた病院へ雪菜を迎えに行こう。そう決めて寝ることにした。

 その病院は、二人の住むアパートから車では直ぐの場所にあった。
「心配掛けてごめんなさい」
総合病院のロビーで会計を待つ雪菜が第一声で言った言葉であった。
「心配したよ!」
それから病院を後にし、車は満開の桜みちを抜けて行った。その途中にある軽食店で、遅い朝食を摂る事にした。パリパリのトーストにはマスタードが入り、ファーストフードとは違う喫茶店の味がした。
食後のデザートが来ると冴えなかった雪菜の顔がニコリとした。
「そうだ、今日は雪菜に報告があるのだよ!」
「報告?」
「うちの両親が雪菜に逢いたいと言ってる。というかそんなに好きなら結婚しろとね」
「反対してたのにね。私頑張るからね!」
「俺たち二人で頑張ればいいさ。これからは雪菜に負担掛けないようにしなきゃね!」

  6節

 その十日後、夕食を食べたあと二人でTVのナイター中継を観ていた。狭い部屋の中である。雪菜は違う事をする訳でなく、シンが傍に居るときにはいつも寄り添っていた。今日も一緒にTVを観ている。珍しくシンは、普段飲まない酒を飲み、酔ったせいか眠ってしまった。そんな中、微かにキッチンから野菜を切るような音がする。その音で目が覚め見てみると、そこにはエプロンの雪菜が料理をしているではないか。珍しそうにシンは思うとその傍に行き話し掛けた。
「明日のお弁当かな?」
すると雪菜は不思議なことを言った。
「何言ってるの?夜ごはんだよっ!」
「えっ?夜はさっき食べたじゃん?」
「すぐ出来るから、もう少し待っててね」
そう答えると雪菜は黙ってそれを続けた。結局シンは訳がわからなくなって「こんなの食えねえ!」と怒り布団に入ったのだが、それでも彼女は泣きながらご飯を口にしていた。シンは、最近物忘れの多い雪菜を思い出すとおかしいなと思い始めた。翌日、彼女を病院に連れて行くことにした。雪菜もその後も頭痛があったと告白した。

 診察室に入ると雪菜を横目に、もう一度調べて欲しいと主治医に頼んだ。検査が終わり廊下で待つ二人。やがてシンだけが呼び出された。
「見落としてましたなぁ」
40くらいの主治医は深刻そうに言うと、CTのフィルムをライトボックスにかざした。
「悪いとこあるんですか?」
「我々にとってもまだ例の少ない病気とされてますが、脳のこの部分が萎縮してるようですねぇ。前の写真と比べると発病してる可能性があるなぁ。40代からが多いんですが、彼女の歳でも..あっ、若年性の痴呆症と言われるものです」
医者は前頭葉のある部分を指して言った。そして医者は病についての注意など淡々と語ったあと、シンは口を開いた。
「この病気って治るんでしょ?」
「残念ながら..」
「え?..じゃあ、進行を止める治療は?」
「奇跡を望むしかないでしょう。出来る範囲で本人には好きな事をさせてあげる事です。とりあえず投薬で押さえましょう。それから保護者か身内に来てもらって話をしたいのですが?」
「両親は事故と肺の病気で亡くなってます。兄貴が一人います」
シンは力尽きた様に震えた声でそう言った。
「それなら貴方に言いましょう。…雪菜さんの命は短いと思っていてください」
医者は、最後は目を逸らして言った。
雪菜は科の受付で看護婦から薬の説明を受けていた。シンはトイレに行くと言ってその横を過ぎて行った。と同時に涙が溢れ出した。そしてトイレの洗面所で顔を洗った。しばらく涙は止まる事がなかった。戻らなくては…。
「シンちゃん、どうしたの?何か変…」
「おお、どうでもないよ!そうそう、薬で良くなるってさ」
「私、別に具合悪くないし、明日から仕事行くね!」
「でも先生が、しばらく休養しろって」
「私も言われたけど。も~、ただの片頭痛なのにねっ」
「言われた通りにしようよ。今年は授業少ないし俺もバイト沢山できるからさっ」
「うん。シンちゃんに迷惑かけちゃうね…」
「生活費は俺が稼ぐって言ってるだろっ!」
優しい言葉のつもりが、悔しさで何故かキツくあたってしまう。
「もしかして私、重い病気なの?言って?」
思わず立ち止まると雪菜の肩をぎゅっと抱き、頭を撫(な)でるシンであった。
「片頭痛だから入院する必要はないよ」
やはりシンには嘘しか言えなかった。医者の言う、「自分の言動が判る間」はこのままの生活をしていこうとシンは思っていた。けれど今の雪菜を見ていると、今日の出来事はまるで夢のようで半信半疑でもある。
夕刻に兄貴夫婦が来ると、シンは雪菜を奥さんと買い物へ行かせ雪菜の兄さんと話をした。兄さんが雪菜の面倒をみるという言葉に、シンは直ぐに反応した。
「僕はエンジニアなんかなりたくないんです。夢は、彼女、雪菜といる事なんです。とにかく自分が働いて彼女を幸せにします!」
「じゃあ、何かあったら遠慮せず言ってください。お願いします」
兄さんはシンに頭を下げた。

 7節

 シンは五月(さつき)晴れの一本道を隣町まで歩いていた。予備校へ面接を受けに行ったのだ。自分が講師として教えるのは無理だと思ったが、二人の生活の為でもあったし、我が学力を試してみたくもなったのだ。採用が決まり、週5日夕方より夜の十時まで働き始めた。少しすると雪菜が薬の副作用で昼にも睡眠をとるようになった。物忘れは多いもの、発作的に家を飛び出すといった大きな変化もなかったので、シンは日中にもコンビニのバイトを入れた。期限が切れた弁当など、店長がいる時には内緒でくれるようになった。真面目に働くのを見てだろうか?シンは以前と違っていた。昼に一度、雪菜が訪ねてきて店長に愛想つかせていた。もともと明るい彼女は「ホウキとチリトリ貸して!」と言って、店の前を掃除したりしていた。
そんなある日、雪菜がしょんぼりして店に現れた。シンは、具合悪そうな雪菜を見て店長に早退を申し出た。店長も心配そうに見送ってくれた。手を繋いで歩く。
「シンちゃん、ごめんね…」
「ちゃんと寝てないといけないぞ!」
シンは雪菜の手を強く握ってそう言った。
「だって淋しかったんだもん。シンのとこ来たら治っちゃったみたい」
雪菜がシンをちらっと見て言った。そして思い出したように言った。
「ミライモータースってとこから電話来たよ?」
「うちに掛けるなって言ったのに」
そうシンは小声で言った。
「車売っちゃうんだね。…ごめんね私の為に」
と、雪菜が言うとシンは複雑な気持ちになった。ローンで買った車でないため現金が入ってくる。維持費も掛からなくなれば雪菜を何とか見てあげられると思った。と同時に、好きな愛車だけに複雑なのだった。立ち止まると、それを振り切るようにシンは言った。
「ユキの身体が良くなったらまた買うさっ」
心なしか雪菜の目が潤んできた。雪菜は一言云った。
「ありがとう」
シンは笑い飛ばすように言った。
「車売りとばす前に海ほたるまでドライブ行こうぜ!」
「賛成!」

 三度目の夏がやって来た。昼下がりの公園では、夏休みに入った少年たちが走り回っている。そしてあまりにも朗らかな雪菜がいる。彼女の命が短いだなんてシンには思えなかった。清い彼女のことだ、絶対「奇跡」が来るはずだ。僕たちは秋で三度目の恋人記念日となる。グランドでは少年野球の練習をしている。長閑(のどか)な光景を見ながらシンは思いだした。いつだかこんな風に歩いているとき雪菜と話した会話をである。彼女の初恋の人がピッチャーやっていたこと。シンがサードで人気者だったと自慢し、笑ったことなど。言葉には出さないが彼女もリフレインしているに違いない。思えば僕らの感覚は似ていた。

-八月十日、ユキの容態が悪いようだった為、休暇を取ったのだが..- (←シンの日記より)
「今日は仕事休んだから一緒に居よう!」
シンは楽しそうに言った。わざと明るくしてるのがバレバレだ。それもそのはず、雪菜がおとなしい時のシンは無口だったからだ。シンは返答のない雪菜の顔色を伺った。それが聞こえなかった様に雪菜は着替えると、さっさと布団に潜り込んでしまった。症状が出てるな。シンはそう思い、そっと雪菜の横に入ると後向きの背中を抱きしめた。かわいそうに。
「シンちゃん、別れよっ?」
「えっ?」
思いも寄らぬ言葉にシンは絶句した。雪菜は正気かつ冷静だったようだ。
まるで崖から突き落とされた様に、一人芝居の舞台に雪が舞うように..故に開いた口も塞がらなかったというとこだろう。
「どうしたのユキっ?」
シンは尋ねた。が、返事はない。もう一度問う。
「どうしてそんなこと言うんだ?」
「..シンには自分の道を歩いて欲しいんだっ」
「自分の道だって!? 俺は自分の決めた道を歩いてるよ。その道が幸せだと信じてる!」
雪菜は泣いてるようだった。
「ユキ、こっち向けよ」
彼女はゆっくりと寝返りをうった。流す涙は、シンも同じだった。
「いつまでも一緒に居るからさぁ、そんな心配すんなよ」
「うん。大好きだよ!?シン。泣いたらまた頭痛くなっちゃった」
「なら泣くのやめよう」
「わかった。こんなちっぽけな事で凹でたらバチ当たるよね?でも最近、ちょっとした事が幸せに思うのね。病気になるとそうなのかなぁ?」
「たぶん」
シンは短く言った。そして『残念ながらユキの病気はちっぽけな病気ではないんだよ』と心の中で呟いていた。

 その夜、シンは晩酌してほどよく酔っていた。そして雪菜に本当の事を話すことにした。前から話そうか悩んでいたが、雪菜が悩む様な性格でなかった事も念頭にあった。輪をかけ雪菜の気分もいい様子だったからそんな気にさせたのであろう。それは床に就く前であった。
「ユキに話があるんだ」
「何?急に?」
しかし上手く切り出せない。
「うん、大したことでもないんだけど…。いや、重要なことかも知れない。大したことだ。まぁ」
雪菜の真剣な眼差しがシンの言い方に反応したのかにこやかになった。シンは逆にドキッとして目が覚めたのだった。今俺が思っていることは彼女の希望を打ちのめすだけではないか!俺が自分の嘘を許せないだけであって、むしろそれが正論かも知れない。凹んでいた雪菜だって散々見てきたはずだ。シンは思い留まり頭を掻(か)いた。そしてもう一度、相手の目を見て言葉を発した。
「結婚しよう!」
それは、真っ向から言える言葉だった。
「な~んだ、そんなことかっ。どーしよっかなぁ~」
マジなシンに対して雪菜は焦らした。その顔は明らかに嬉しそうであった。

 8節

 そこにはひと束のお花が飾られていた。時折晩秋の風が吹き抜ける。先日雪菜の一周忌が来て、ようやくシンの気持ちも慰められてきた。「こんなに若いのにねぇ」それは誰もが彼女に告げる言葉だった。雪菜が若年性の痴呆症を発病してから一年と五ヶ月、結婚して一年、記念日の翌月に最期となった。終いには雪菜に自分の存在すら忘れられ、付きっ切りで過ごした静かな夏となった。『ユキ、奇跡が来るから待ってろよ!』胸の内で毎日祈っていた。序々に感情も無くなっていった。それでも彼女を毎晩抱きしめて寝てあげた。
雪菜が逝ってしまうと、シンには奇跡という言葉が信じられなくなってしまった。

「奇跡は来るよ!信じてるんだ」

その言葉は、パソコンの世界にのめり込んでしまったシンの心を目覚めさせた。ブログで見つけた‘ひとつの命’。その言葉はある少年のものであった。その難病の少年には励ましの言葉しか出せないけど、シンの中で「奇跡」という言葉が蘇(よみが)えった。

                              完


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Author:POPSTAR
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東京都出身、横浜市在住
趣味:写真撮影、音楽制作、作家活動、野球、ドライブ、飲み会(笑)ほか多数・・・
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