自作恋愛小説サイト

愛ラブYOU

新作 / 黄昏のロマンスカー(予告編) | main | お知らせ♪
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
| スポンサー広告 | --:-- |
禁断の青写真
♪音楽の演出としまして、右バー下より「トロイメライ」を選択願います。数分で終わります。あとは音楽なしで読んで貰えればと思います。by POPSTAR

禁断の青写真


 (序 章)
 僕はその春、母と手をつなぎ小学校の門を潜った。母は優しい目で、「こうちゃんは頭がいいんだから、将来はお医者さんになるのかな?」と、いつも僕に何かを訴えかけていた。その春、母が突然病死した。爽やかな陽気の中、僕の心の中には強い孤独感が走った。無口な子供は、無口なまま成長していった。母は自分の病気を僕に隠していたのだ。大きくなって僕が思ったことは、若くして母は死にたくなかったということだ。最期に愛しい息子に愛情のすべてを注いだと言っても過言ではないであろう。父は今の僕から言わせると駄目な男だった。僕は高校の時、母の言葉を思い出し医者になろうと決意した。ただ、入学するには多大な額を納めなくてはならなく断念した。それに僕の野望なんか理解していない父の傍から離れ、小さな会社に就職するとひとり暮らしを始めた。後妻は死んだ母と比べると冷たく、僕は嫌ってさえもいた。

 1

 僕は実家を離れ違う町で暮らしていた。
「K子、もうすぐ高校卒業だね。すっかり大人になったな」
「やっとお兄ちゃんと結婚できる」色気付いたK子は上目遣いでそう言った。
「結婚は無理だよ」僕は実の妹K子にそう言いながらも、その手は肩を抱いていた。
「こうちゃん誰にも渡さないからね!」
「そのうちいい男見つけて幸せになるかもよ?」言葉と裏腹な僕は、K子のシャツを捲り柔らかな乳房に触れていた。K子のセミロングの髪からはいつもシャンプーの香りが漂っていた。K子は目を閉じキスをせがんだ。そして兄貴の僕に抱かれ声を漏らす。物語はこの時点から半年ほど遡る。

 実の妹とは言え幸いにも血はつながっていなかった。母の死から何年か経ち、父が連れてきた僕の嫌いな未亡人は子連れだった。その子供は僕より2つ下の女の子だった。小3の時、小学生になったばかりのK子を始めて見た。ぼくは幼心ではあるが、その子に共通項を感じていた。毎日同じ部屋で寝泊りしているのが不思議なくらい恥じり合い、それは僕たちの初恋だったかも知れない。K子とはA型同士らしく、いつも境界線を引いていた。それは中学になってからも同じで、親たちから見れば僕らが普通の兄妹に見え、先々疑う余地もなかったのかも知れない。ところが成長するにつれ、二人には特別な気持ちが芽生えていたのだった。K子は母親とは似ていなかった。たぶん離婚したという父親似なのだろう。性格は傷つき易く乙女だ。美人できつい彼女の母親とは逆だった。K子は兄の僕を、優しくて格好いいと言う。それはK子に対してだけであり、外では偏屈で冷たい人間だった。モテるとかモテない以前に愛嬌をも殺していた。そんな僕がクラスメイトから初めてもらったバレンタインは高2の冬だった。僕がこの相手と付き合い出してから、K子は僕に対し口を利かなくなった。毎年、K子は僕にチョコをくれていた理由がこのとき解った。大きくなるにつれ、K子は妹と思うようになっていたが、妹にとっては違かったのだろう。実家を出てひとり暮らしを始めた頃、僕は交際していた彼女にフラレた。胸が張り裂けそうな思いを不意に妹に打ち明けたのだった。久しぶりに見る高校生のK子はほのかな化粧をして可愛くなっていた。そのとき僕は妹を自分のアパートに呼び、一緒にゲームをして遊んだ。それまではしゃいでいたK子は帰り際シリアスになって、
「お兄ちゃんに話しておきたいことあるの」と、言った。
「何だい?」僕はK子と向かい合った形で返事をした。
「わたしも付き合ってた人と別れたよ。だからたまにこうして逢いに来てもいい?」
「そっか、K子にも彼氏いたんだね・・別に構わないよ」僕は笑って答えると、K子は僕の胸に頬を寄せた。僕は思わずK子の肩をギュッと抱きしめていた。この期を境に、妹K子への気持ちが深まっていく。それは、忘却の彼方、K子を始めて見たとき抱いた初恋のように・・・季節はまさしく初夏だった。

 彼女は学校帰り僕の部屋に寄るようになった。
「最近、綺麗になったじゃん」
「ほんと?ありがとう・・・お兄ちゃんに恋してるから」
「馬鹿なこと言うなよ!」そう言う僕は正直ドキドキしていた。
クーラーのない部屋は暑くて、その日はゲームをする雰囲気でもなく二人してボーッとTVを観ていた。脚を抱えたK子が右側に寄り添うようにいた。制服のスカートから白い太股がちらりと見えていた。兄貴としてその気まずい情況に耐え切れず立ち上がった。
「スイカ食べない?」
「スイーカ(suika)?わたし持ってるよ!なーんてそれはJRだよ~ぉ」と冗談返すような子だったらこんな雰囲気にはならないのだろう。K子の返事は、「食べる」の一言だ。そんなK子と食べるスイカは美味しかった。
「昔よく食べたよな!?」僕は言う。
「うん」と、K子は肯づいた。
「ねぇお兄ちゃん、私のお母さん嫌いでしょ?」突然K子は訊いた。
「えっ?・・・ごめん」僕は不意に謝った。
「母はお兄ちゃんのこと「嫌いにさせてたらごめんね」って謝ってたよ」
「そうか。僕も最近悪かったと思ってるよ。死んだ母のことがいつも頭にあったから。好きだった・・・」
「うん、そのこと言ってもいい?」
「K子に任せるよ。それと、」
「それと?」
「ここに来てること誰にも言うなよ!」
「うん、言ってないから安心して!・・・シャワーしてきていい?」
K子のブラウスは暑さから汗ばんでいた。
「いいよ!あっ、Tシャツ出して置いとくから着ろよ」
「うん」
スイカを食べてから、再び僕はK子を妹として見ていた。すると狭い部屋、浴室から水の弾ける音が聞こえてきた。ボックスからTシャツを出すと更衣スペースにそれを置きにいく。籠の中には、制服の上に折りたたんだ下着もあった。そして細い裸体がぼんやりと見えた。普通は?と聞かれても分からないのだが、僕らは小さな頃から一緒にお風呂に入ったことのない兄妹だった。だから他の異性に対するものと同じ感覚で興味を持つのも不思議ではない。いけね~!我に返り、僕はやりかけていた部屋の片付けを続けた。そのあと僕もシャワーを浴びて汗を流した。戻ってくるとK子はベッドで眠っていた。ちょっと前まで可愛くないと思っていた妹の顔は昔の面影を残しつつ、今見ると女の子らしくキュートな顔をしていた。僕は添い寝をしその寝顔を見つめていた。むしょうに僕は、その唇にキスをしたくなった。K子はまるで気付いていたかの様に目を開けた。
「横にいるだけだよ」僕の弁解は既に責任を持たない言葉としか言いようがないだろう。唇と唇が重なりあった。そして僕はK子の身体を強く抱きしめていた。唇が離れたときK子は照れながら言った。
「わたしのキス、おにいちゃんが初めて」
彼氏がいたことも嘘だったのか?そんなことはどうでも良かった。理性を失った二人の気持ちはぐんぐんと加速していった。

 2

 K子を抱いたあと僕は言った。
「お兄ちゃんの恋人になってくれるか?」
「いいの?それって禁断の恋人?」
「それでもいいのなら・・・」
「仕方ないもんね。こうちゃんて呼んでもいっ?」
「何だよ、こうちゃんて!・・・呼んでもいいけど」
「うん」
‘こうちゃん’とは実の母からしか呼ばれたことのなかった呼び名だった。祖父からも祖母からも言われたことがない。と言うよりそういう人たちに会ったことすらない。それには深い理由がある。

 父の生まれた村では、ダム建設に対する派閥があったそうだ。賛成派の父の家は開拓議員と所縁(ゆかり)があり、反対派の母の父親は保守団体のリーダーをしていた。父は母に恋をし、人目を避け村の外れで逢っていた。争いの嫌いな母は父の駈け落ちに便乗した。田舎を捨てた父と母はあてもなく都会へと出てきた。坊ちゃん育ちの父は仕事するどころか遊び回る始末。母に苦労を掛けた上、病気になる母。その治療をもままならなかった。田舎の親に頭を下げていたのなら、母だって死ぬこともなかったのだろう。この事は最近会いにきた父の妹から聞いた。もしかしたらK子は母の生まれ変わりだろうか?そんな訳はない。そうでなくても母のくれたプレゼントなのかも知れない。兄妹であって血のつながらない他人でもあるのだ。しかし、親に反対されたら同じような人生になるであろう。いまの父親にとって、自分の取った行動が正しい道であったのか?あるいは後悔しているのか?賛否はそれに尽きるかも知れないが。いずれにせよ、二人のことは生涯言えないと思う。それに僕は知っていた。父が中学になるK子にセクハラをした事実を・・・妹が母親に助けを求めたことでそれ以来ないと言う。そのとき僕は泣いている妹を問い詰め、話を聞き出した。僕は返す言葉も見つからずしばらく考えてしまった。そして妹に言葉を掛けた。
「仕方ないよ。もし自分の子ならそんなことしないだろうけど。K子はかわいいし」
「・・・かわいい?」妹は泣くことをやめた。
「だからもう泣くなって」僕はそう言いながら妹の髪を撫でた。
「抱っこして欲しい。お兄ちゃんだって本当のお兄ちゃんじゃないから出来るでしょ?」
「出来ないよ、そんなこと・・・」
「バカな妹でごめんなさい」
妹の言うことはおかしくはないのだ。ただ僕は臆病で、妹の人生を壊す様なことは出来なかった。その代わりに、僕はブタの貯金箱を割ってK子を遊園地へと連れて行った。

 高校生の僕は高校受験の妹に勉強を教えていた記憶がある。晩の6時、TVもニュースに変わると、僕は教師気取りでK子の部屋に行った。
「お兄ちゃん凄い。全問正解!」
「これくらい出来ないと医者になれないさ」
甘党の僕は、ポッキーを加え自慢げに言った。
「K子は何になりたい?」
「えーと。お兄ちゃんの彼女!」
「反抗期によくそんなこと言えるな~」
「お兄ちゃんには特別だもん」妹はそう言うと僕の手に触れた。
「クラスにいい奴いないのか?」焦って僕はそう訊いた。
「うん・・・高校受かったらデートして?」
「じゃあ頑張らないとな!」
「うん」
「そしたら旅行でも行くか!」
「賛成!!」
 晴れてK子は県立高校に合格。しかし僕には彼女ができ、それは実現できなかった。

 そして今、愛を交わしたK子といる。
「あの時はごめんな」
「あの時って?」
「旅行いけなくて・・・」
「こうちゃん、彼女できて楽しそうだったよ」
「なぁ、もうすぐ夏休みだろ?車で旅に出ないか?」
「うん、行こっ!」
「うちの会社、夏休み申告制なんだ。だから八月の頭にしようと思う」
「うん」

 3

 八月一日から四日間、僕らはレンタカーを借り旅に出ることにした。首都圏しか走ったことのない僕は、地図を広げ行きたい場所にマーカーを入れると、そこまで至る国道を蛍光ペンでなぞってみた。
「住んでいる関東から西へ向かい名古屋へ行こう。そっから北陸、富山に向かわない?」僕は言う。
「うん。北陸の温泉とか泊まりたいね!」
「泊まるとこは予算がないから・・・初日は車で我慢できないか?」
「うん、仕方ないねっ」
「この日は日帰り温泉寄ればいいし」
「黒部ダムいいらしいよ!?」
「ダム?・・・わかった。寄ろう」ダムという言葉は、僕の胸に引っ掛かったのだが・・・
「~新潟から最後は南に下って戻ってくる」その時、地図で聞き覚えのある市町村を見つけた。それは両親の故郷だった。『この村を見てみたい』僕は決めた。この事はK子にはまだ言わなかった。

 旅立つ前日に台風が通過して行った。そんな雨上がりの夕暮れ、僕は母の小さなお墓に手を合わせた。K子は安売り店で‘おやつ’や飲み物などを仕入れていた。親達には友達と旅行へ行くと嘘を付かせていた。旅立ちの朝は快晴で、既に猛暑の予感がする。
「時間掛かるけど我慢してくれ」僕は言った。
「うん。こうちゃんも疲れたら休んでね」‘うん’から始まるK子の返事はいつもと変わらない。昼時に浜松を通過した僕等は、浜名湖のレストハウスでK子の作ったおにぎりを口にした。それから走り出し、名古屋に着いたのが夕方であった。
「名古屋に着いても寄るとこないね」K子は言った。
「記念に名古屋城行こうか?」
「うん」
金のシャチホコで有名な名古屋城に寄り、‘きしめん’を食べたあと、再び走り出した。日帰り温泉も見つからず、結局レイクサイドのラブホテルに入ることにした。琵琶湖の東岸だった。疲れからか会話もなくしんみりとした夜になった。それでもK子の裸体を目の前にすると、僕は愛しくもその身体を抱いた。
 朝になって日本海に出た。敦賀から東尋坊に寄り、福井の街でランチを食べた。この夜も行き当たりばったり。富山新港の民宿で一夜を過ごした。
「こうちゃん眠れないよ」隣で寝ているK子が言った。僕はエアコンを切って窓を開けた。湊の上には大きな空が広がっていた。
「一緒に旅行できて楽しいね」K子は小声で言った。
「幸せだな」僕もそう言った。
「ずっとこうしていようね」K子は言う。
暫く会話もなく二人は寝床から空を見ていた。僕は思い付いたように言った。
「ごめん、黒部ダム寄る時間ないかも」
「うん。いいよ」
「その代わり水族館に連れて行ってあげよう」
「・・・イルカいるかしら?」
「イルカもね」
「おやすみ」K子は僕におやすみのキスをして目を閉じた。
 翌朝、日本海を左手に見ながら一気に新潟まで向かった。K子が持ってきたMDを何度聴いただろうか?運転に飽きた頃、僕は国道の端に車を止めリアに積んであったギターを取り出した。K子は驚いた。
「こうちゃん、ギター始めたんだぁ」
「うん。父さんみたいだろ!?」僕はK子の様な返事をし、少し照れながらギターを掻き鳴らした。その音色は夏なのに乾いていて、青い海に流されていく。僕はK子も知ってる‘I for you’を歌った。
閉館間近で新潟水族館に滑り込んだ。二人でお目当てのイルカを探した。イルカ発見!K子は悠々と泳ぐ大きなイルカに釘付けだ。まるで小さな子供の様なK子がそこにはいた。僕は持ってきたバカチョンで写真を撮ってあげた。陽の沈む頃、越後平野からある山間の道へと入って行った。助手席のK子に「今晩は車で寝るよ」と告げるが、車での旅ももう3日目、疲れきったK子は既に眠っていた。看板で目的地に来た事を確認したあと、僕は車を止め眠りに就いた。
 目を覚ますとそこには棚田が連なっていた。時計を見ると午前七時を廻っている。清々しい緑のなか車の窓を開け渓流沿いの道を進んでみた。やがてダムの標識を目にした。
「そうか。ダム、出来たんだ」独り言のように呟いた。
「ダム?行ってみたい!」K子が言う。
「でもな、そのダム作ったせいで住民が減ったんだろうな。町から村に格下げされたからね」
「へ~。ここに来たの、もしかして黒部ダムの代わり?」K子は目を丸くして訊いた。
「父さんと死んだ母さんの故郷なんだ」僕は言った。
「故郷!?・・・あっ、ちょっと止まって!」
K子は珍しく大きな声を出した。そして車から降りていった。川で顔でも洗うのかと思ったが、近くの民家に入っていく。僕は慌てて車を降りるとその後を追った。
「どうした?」K子に追いついた僕は言った。
「このおうち見覚えある」と、K子はハッキリ言った。そして更に路地を辿って行った。そこにはお屋敷があった。
「誰も住んでいないようだな~」僕は不気味な気配を感じ引き返そうとした。振り返った先にはダムらしきものが木々の合間から見え隠れしている。
「ここ私が住んでいた家だよ!絶対そう!」
「え?」僕は驚いた。
「ただ似ているだけじゃないのか?」
「それにあそこ、工事していて危ないから入っちゃいけないって言われたもん」あそことはダムの事だろうか? K子がこの村と関係あるとするのならいったい僕達はどんな関係なんだ!?・・・
僕は携帯を取り出した。密かに叔母の電話番号を携帯に登録してきていた。叔母は家を捨てた父に代わり養子を貰い、祖父母と共に村周辺の土建業を糧にしているという。ここに来たのは父には内緒であるのだが。僕は叔母に会って訊きたいことが出来てしまった。
三十分後、たぶんここであろう郵便ポストのある公民館の前に車を止め待っていた。しばらくして空色の軽トラックがやって来て目の前でターンして止まった。叔母だった。僕等はその後を付いていった。すぐに本家に着いた。そこは思っていた家屋とは違い綺麗な一戸建てだった。道沿いには別棟で店舗券事務所の建て屋がある。僕は店舗横にある販売機で缶ジュースを一本買うと、それをK子に渡し言った。
「なるべく早く戻るから車に乗っててくれないか?」
「わかった。車で待ってる」
僕はエンジンを入れエアコンを付けたまま外に出た。しかしよそ者気分なのはK子だけではない。そんな僕は緊張しながら案内されたうちへと入っていった。田舎のうちとは思えない近代的な造りの家だった。居間に入った。そこには白髪頭のお爺さんと身体の小さなお婆さんがいた。父の両親であろう。お爺さんには壮健で頑固なイメージを抱いていたのだが、予想に反しそこに居た老人は紳士的で聡明な風貌であった。
「慎一郎の長男です」と、叔母は老夫婦に言った。
「よく来たね~車かい?」お婆さんの方がにこやかに言った。
「はい。あっ、孝治と言います」僕は頭を下げ自分の名前を言った。それまで無表情だったお爺さんは目を細め、
「そうか慎一の子か。大きいんだね」と、微笑みながら言った
「父がご迷惑掛け、すいませんでした」僕はそう言うと頭を深く下げた。
「まぁ仕方のないことだ。返ってあんたのお母さんには悪かったと思うよ。私は反対してはいないが、あちらさんが反対してたからなぁ。私は孫に会えて嬉しい」お爺さんは自分の言いたい事を言うと再び黙り込んだ。キッチンに行った叔母がメロンと麦茶を持ってきた。
「妹さんも」叔母は僕の顔を見て促す様にそう言った。
「K子も来てるのか?」お爺さんは言った。僕は馴れ馴れしくK子と呼ぶ事に驚いた。
「知ってるんですか?この村に居たような記憶あるとは言ってましたけど・・・」
「何も話してないのかね?」お爺さんは叔母に言った。
「教えてください」僕は言った。するとお婆さんが口を開け言った。
「あんたのお母さんの子供なんだよ」お婆さんはあくまでにこやかだ。しかし寝惚けた様な事を言っている。僕はその言葉を鵜呑みにせず言った。
「でも妹には母親がいますよ?」
すると叔母が口を挟んだ。
「お婆さん勘違いしてるんだから・・・孝治さんのお母さんの妹さんの子になるのかな」
「と、言うことは今の母さんは僕の母の妹にあたるという事ですか?それじゃ父とも?」
「そうよ。妹の方も昔から兄のこと思っていたみたいよ・・・あいつは若い頃モテたしね~まったく」父の妹である叔母はそうぼやいた。
僕には返す言葉がなかった。何となく事の全貌が見えてきたが、K子が自分より二年後に生まれている現実は母が死別する前の話しであり、確実に父が妻の妹と浮気をしたという話になるであろう。もしかしたら父を巡って姉妹で闘争していたのかも知れない。とすると、母の妹である今の母親から、僕に冷たい印象を抱かせた事情にも納得がつくのだ。死んだ母の顔ははっきりとは覚えていないが、写真を見比べるとこの二人は似ていたのだ。それに以前からK子のどんぐり目が父と似ている事に疑問を感じていた。無念にも父とも母とも血縁関係がありとなった。名ばかりで血の繋がらない妹だと信じていたのが過ちだとは・・・心境は複雑だった。
「兄貴、本当の事を話すと言っていたけど・・・」叔母は言った。
「孝治くん、K子呼んできなさい」お爺さんは言った。僕は考えてから言った。
「お爺ちゃん、彼女まだ何も知らないんで本当の事は言わないでください」
「わかったよ」お爺さんの返事は気さくだった。
僕は車からK子を連れてきて彼等に会わせると、K子は「おじちゃん?」と言った。何という記憶だ。事情の知らないその孫は、祖父母と楽しそうに話していた。
またひとつ疑問が涌いてきた。K子がこの村に居た時、母方の祖父母と一緒に居た記憶があるのだろうか?帰りの車でK子に訊いたのだが「亡くなった」という。何故だろう?あの誰も住んでいないお屋敷を見た限り、事故かなんかで亡くなったのでは?という解釈でしかないのだ。そして後日電話で叔母に尋ねたところその勘はほぼ的中していた。事の真相をすぐにK子に話す事が出来なかったのは、明かされた現実を認めたくない気持ち、即ち恋人に持つ愛情を解消する勇気がなかったからだ。しかし、この時点から少しずつ僕はK子を妹として見る様になっていく。
 (4節へ続く)

 追伸小説~哀しみのラブ・ソング

 新潟山間部にある村と呼ぶに等しい鉄道の通らない小さな町、その地で建設業を営む両親の長男として慎一郎は生まれた。小さな頃から都会に憧れ、やんちゃではなく穏やかなロマンシストであった。美男子だった慎一郎は、中学に入り美少女の紘子(ひろこ)に恋をする。クラスはひとつしかなく、二人は三年間一緒だった。休み時間もただひとり読書をしていた慎一郎に、紘子が本を借りた日から二人の気持ちは接近する。帰る様になった。周囲の冷やかしなどは紘子の器量で免れた。紘子は生徒会長を名乗り出て、僅か全生徒数50人ばかりではあるが学校をまとめていたからだ。面倒見のよい姉の紘子は妹も連れ、よく慎一郎と三人でハイキングに出掛けた。妹美佳子(みかこ)とは年子で、彼女も彼に想いを寄せ始めた。慎一郎は妹美佳子にも優しくした。坊ちゃん育ちの慎一郎は、貧乏な二人におやつを持ってきてあげた。そしてギターを弾き、二人に自分の曲を披露した。ただ、こうして逢う事は三人の秘密だった。理由は次の説で述べよう。その頃は綺麗な話である・・・
 年頃の鋭利な妹の胸中は、自分も慎一郎が好きと自覚すると姉に対し見方が変わってゆく。それは高校に進学した慎一郎と紘子は隣町の高校へと通うのだが、中学生の美佳子は彼らに深く嫉妬心を抱いた。姉妹はダム建設反対派の家に育つのだが、賛成派である家の慎一郎との交際を親に話す事で二人を別れさせる事を考えた。美佳子から交際の話を聞いた父親は紘子に激怒した。二人は別れた振りをし、学校帰り町の境にある秘密の場所で逢う。そんな日が三年ばかり続いた。優等生だった二人は進学を諦め、高校を卒業した暁二人で町を出ようと誓い合った。
 そして卒業の春、慎一郎の提案した駈け落ちに紘子は賛同した。町ではダムの着工が始まる。自由を手にした二人はすぐに結婚した。反し、都会での生活は厳しいものだった。二人は闇雲に働いた。特に紘子は二人のため定職のウェイトレスが終わると当時流行っていた内職をもこなした。小さな時分心臓が弱いと言われていた紘子は、時々痛む胸を押さえた。ここに来て自分の限界を知る事になる。その努力で生活は安定していた。そんな慎一郎は音楽家の夢を思い出した様に仕事も休みがちになる。ライブハウスに浸ってはそこで出来た友達と飲み歩いたりしていた。ライブに参加しては人気を取り、そんな生活に自惚れてしまったのだ。そのとき紘子のお腹には子供が宿っていた。やがて生まれくる男の子は孝治と名付けられた。母親となった紘子だが、夫に愛を感じなくなった紘子の愛情は孝治へと向けられた。紘子は思う。自分は欲しかった子供を手にした。だから愛する慎一郎にも夢を見させてあげたいという気持ちがあった。不幸な事はもっと大きなもので、両親への反省とたったひとりの妹の心だった。ある晩秋、打撃的な不幸が起きた。
 紘子は妹の美佳子から両親が心中したという事実を知ると慎一郎と葬式に飛んで行った。ダム反対派の参列こそ虚しく葬儀はひっそりと行われた。この間、慎一郎は無上にも小さな男に見えた。葬式の終わった晩、紘子は慎一郎に告げた。「私は孝治と生きます。あなたは美佳子の気持ち貰ってあげてください。・・・ただ、淋しくさせたら私は許しません」本心とは裏腹な事でもあり、それが円満だと紘子は姉として思ったのだった。母は幼い息子を抱くと「先に自宅へ帰ります」とメモ書きを残し両親の仏前に手を合わせ実家を去っていった。トイレで目が覚めた慎一郎はメモに気付き、飛び起きるとバス停まで走った。夜も明けぬ薄暗い中、町には粉雪が舞い始めた。既に初バスは去ったあとで妻と子の姿はなかった。仕方なく慎一郎は部屋に引き返す。そこに事の真相を知るはずのない妹美佳子が入ってきた。二十歳になったばかりの彼女は、いきなり慎一郎に抱き付いてきた。そして「姉から許可貰ったの」と言った。慎一郎には紘子の考えることが解かっていたのだが、浮気をするだけ妹の事は好きでもないし理不尽だと思い美佳子を突き返した。それでも美佳子はあの頃の美佳子とは違っていた。「姉さんと同じように私を抱いて・・・」美佳子は言った。美佳子は着ていたドレスを脱ぐと慎一郎の上に乗った。慎一郎にはもうそれを制する事は出来なかった。妻の妹である美佳子を抱いた。そのとき出来てしまった子供は、父親の居ないこの家で美佳子に育てられる。その子は慧子(けいこ)と名付けられた。妻の身体を知った慎一郎は紘子のために心を入れ替えて働いた。だが、紘子は親への責任が募り、素直な愛を受け入れなくなってしまった。故郷のない孤独な紘子は、ただただ息子の孝治に語りかけた。
「こうちゃんは女の子を泣かせちゃいけないよ」
小さいながら頭のいい孝治は、理解している顔をして肯づいていた。
新年の頃、紘子は遺書を書いていた。
私の寿命はこの先長くないと知りました・・・そしたら妹の事をお願いします。妹に籍を譲ります。それから、この私は両親を捨てたのですから死んだらどこか他の場所に埋めてください。それが私の希望です。 紘子
 母親の愛を沢山受けた孝治は純な心を持つ少年へと育っていった。母紘子は、息子の小学校入学を祝った。そんな矢先の出来事だった。慎一郎は紘子が倒れたという連絡を、搬送先の病院から受けた。仕事中の出来事だったらしい。享年二十六歳であった。慎一郎はショックから歌も歌えなくなっていた。ある日、ギターを持つとメロディーを奏でた。それは死んでいった妻の好きだったラブ・ソングだった。
 妻に想いをはべらせながら二年自粛し、貰った新妻は美佳子だった。その時始めて見た愛娘は、どことなく自分に似ていた。慎一郎は娘を育て強く生きてきた美佳子にお礼を言った。愛欲の強い美佳子は、慎一郎には思春期からの憧れを持ち続けただけあって幸せを感じていた。ただ、姉との子供である孝治を自分の子供として愛する事は出来なかった。

 4 (本章続き)

 旅から帰ってきてから、僕は敬遠せざるを得ないプラトニックな事実と愛情との葛藤に戸惑いながら、K子との恋人ごっこを続けた。そう、‘ごっこ’と言うしかないであろう。K子が親からこの真実を聞かされるまで、僕はそれをしようと思った。自分の力でこの愛を止める事は出来なかったからだ。

 街がクリスマス色に染まる休日、妹の希望で渋谷の公園通りをデートしていた。露天のネックレスを手にすると、僕の首に充て「これでいい?」と訊いた。僕もキラキラ星のネックレスを選ぶと今度はK子の首に充て「これ似合うよ」と言った。こうして買い求めたクリスマスプレゼントは二人の思い出として残される。ボーナスが出た僕は、K子にもうひとつプレゼントしようと街を練り歩いた。スペイン坂の靴店の前を通るとK子は予想通り足を止め、木製の棚に並ぶブーツを眺めていた。
「好きなの買っていいよ」僕はK子に言った。
「やったー」K子は無邪気に喜んだ。僕のお札と引き換え、紙袋を手にする妹は幸せそうだった。
「お礼にお好み焼き作ってくれるか?」
「た易い御用ね!」
「料理は朝飯前なんだろ?」僕は得意げなK子に言った。
「こうちゃん、今は夕飯前って言うんだよ!?」そう言ってK子は笑った。
鉄板の上で焼けたお好み焼きを、取り皿に移しながら僕は言った。
「なあK子、・・・こうちゃんて呼ばれるの嫌だなぁ」
「どうして?こうちゃんはこうちゃんでしょ!?」
「兄貴の方がしっくりくるかもな」
「兄貴かぁ~。だったらお兄ちゃんて言った方がいい」
「じゃあそれで」
「一人で納得してるんだね。・・・何故そう思うの?」
「やっぱり今は兄貴だと思うんだ。K子の事は好きだけどさ・・・」
「うん、だったらお兄ちゃんの言う通りにする」
「K子って素直過ぎてキモイよな」
「怒っちゃうぞ~」と、K子はお好み焼きを突っつく箸で僕の頬を突く振りをした。
「ここのお好み焼き旨いな」僕は素振りと裏腹に、心の中では悲しんでいた。
渋谷は何でも食べれちゃう便利な街だ。お隣の広尾、青山界隈には異国料理も多い。食後、K子はブーツに履き替えてみせた。
「プリクラ撮ろ?」・・・妹の言葉すべてが、熱愛中カップルのセリフであった。
帰りの電車でK子に訊かれた。
「私は静かな場所が好き。お兄ちゃんは?」
「そうだな。お兄ちゃんもかなっ」僕はそう答えながら、窓越しの暗闇にあの村で遊ぶ幼い妹K子の姿を映し出していた。最後に、K子はとどめを突く様な事を言った。
「卒業したらお兄ちゃんとこに行きたい!」そう言い残してK子は、実家のある駅で降りて行った。
 それから僕はK子と距離を置こうと決めたが、そのあと読んだ本に、『幸せを壊すような行為は不幸だ』という言葉に呑まれ考え直した。まだまだ若かったのだろうか?


 (終 章)

 就職のため戸籍抄本を目にしたK子は事の真相を知り塞ぎこんでいた。それを知らず、連絡の途切れた妹に逢うため、日曜日僕は実家へと出向いた。両親は出掛けていて居なかった。
「お兄ちゃん」K子は僕を見ると泣き出した。
「知ってしまったんだね」
「うん」
「お兄ちゃんも最近知ったんだ。これからは兄貴として見て欲しい・・・」
「・・・K子悲しいな」
「・・・」僕はK子を抱き寄せ思いっ切り抱きしめたあと玄関に向かった。しかし、このまま傷付いた妹をほっとける訳がない。部屋に戻るとK子は絵を描いていた。
「これ、僕かい?」
「うん」K子は楽しそうに描いていた。手を止めるとK子は言った。
「ね、最後にキスしよっ?」
「それで忘れられるなら」僕は答えた。
「わからない・・・」

 この夜、僕はラジカセの電源を入れた。K子が聞いて欲しいというチャンネルに早速合わせてみた。
丁度僕の好きな‘I for you’が流れていた。そして30秒コメントが流れた。
「大好きなお兄ちゃんへ。いまラジオ聞いてますか?私の初恋はお兄ちゃんでした。いろいろと我儘言ったけど、これからも妹として仲良くしてくださいね!早く恋人作ってね!匿名希望K子より・・・」
パーソナリティーの女性が不思議とK子の声に聞こえた。そこからは自分よりも大人のK子を感じた。感動した僕は、メールで妹に返答した。
[泣かせる事するな!なんて言えないよ・・・兄ちゃん死んだ母さんから女を泣かせちゃいけないよと言われたけど、K子を泣かせちゃったからな。でもK子は妹だからいくらだって泣かせるぞ!それから・・・二人のことは心の中のアルバムにしまおう]
[うん。そうしましょう。妹より☆]
  -完-
スポンサーサイト

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

| 恋愛小説 | 21:48 | トラックバック:0コメント:5
コメント
ご訪問ありがとうございます。切なくて、でも気持ちが優しくなれる小説ですね。気持ちが丁寧に書かれていて、見習いたいなと思いました。新作も楽しみにしています。
2006.10.17 Tue 20:16 | URL | 三文小説家
三文小説家さんへ

切なさはバラードのように、楽しさはリズミカルに。これからも書けたらと思ってます。←このロゴいいかも・・・笑
また読んでください!
2006.10.18 Wed 11:45 | URL | POPSTAR
禁断の愛、切なくまた悲しく叙情豊かに描かれています。読ませていただいてお兄さんとK子さんの愛がしかし許されない切なさが描かれていてPOPSTARさんの才能のすごさ感じます。ラジカセのコメントがお兄ちゃんと慕う気持ちのくだりは秀逸です。僕の「けだるい夏の日」を思い出しました。僕の家は3人兄弟の一番上の長男でした。20歳過ぎてもおとなしく父も母も血の繋がってるいとことかを結婚するにはいい子だよ」と薦めてくれたこともありましたがそれこそ禁断の愛はよくないと一回だけしか逢いませんでした。
そんなことを考えて「けだるい夏の日」という題名を思いつけました。でももし、僕に妹なり姉がいたら結婚したいと考える時期もあるかも知れないと思いました。
2006.11.28 Tue 19:21 | URL | ヒロクン
ヒロクンさんへ
これを書きながら、いろんな背景が浮かんできました。何かと言うと、妹K子は、まだまだ知らない世界が多い訳で、兄貴も社会人になり立てではありますが車も乗るし一人暮らしもしている。K子の兄(年上への)に対する好奇心、ある種の尊敬でしょうか!?たまたま好意を持ち続けていたということの話なんですが。
中盤から、ドライブ旅行で訪れた父親の故郷に於いて、血縁の真相を全て知ってしまうというもので、二人が離されていく切なさを最後に語りました。

いとこですか~。うちも可愛い いとこの女の子沢山いましたが皆さん結婚しましたです。笑

まっ、いい悪いはともかく、こういうサイト掲げてやってますのでこんなケースも描いてしまったということです。
2006.11.29 Wed 08:58 | URL | POPSTAR
禁断の愛きれいに描けてます
再びこの小説読ませていただきました。読むたびになにか新鮮な違った印象を受ける、POPSTARさんのこの辺がすごいと思います。日本海で、新潟でと場面の設定が物語りの雰囲気を高めています。僕の家は兄弟男だけ3人でしたが、僕の下に妹がいたとしたらやはり小さいときは単なる子供でも妹が初潮を迎え急に女性らしくなってきてずっと一緒にいたら兄妹関係なのに異性関係として禁断の愛に走るかも知れないと思います。
僕は長男でしたが自分はむしろ上に姉がいてほしいと思います。
それで「秋の追憶」という題で明日姉が結婚する前日、姉が可愛がってきた弟(実は僕)をつれて街にデートしてくれるのですが二人の思い出が回想シーンで、弟が最後に「僕のお姉ちゃん、大切なお姉ちゃんいつまでもいて、側に」というと、実は「私、あなたのお姉ちゃんでないの」と始めて知った異母姉弟なのと告白する話書こうとまだ眠っていますが。
2007.01.13 Sat 20:06 | URL | ヒロクン
コメントする














管理者にだけ表示を許可する

この記事のトラックバックURL
http://ainomonogatari.blog71.fc2.com/tb.php/20-f1175364
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
トラックバック
| ホーム |

プロフィール

POPSTAR

Author:POPSTAR
HN: POPSTAR
東京都出身、横浜市在住
趣味:写真撮影、音楽制作、作家活動、野球、ドライブ、飲み会(笑)ほか多数・・・
『愛ラブYOU』では短編小説を中心にアップしてます。感想などお待ちしてます!!
下のリンク欄にあるプロフもどうぞ。

*また、当ブログ及びリンクされてるサイトの文章・画像の無断転載・使用は厳禁とします。



最近の記事
コメントありがとうございます!
月別アーカイブ
カテゴリー
FC2ブックマーク検索
ブロとも申請フォーム
ブログ内検索

RSSフィード
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。