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君への想い~奇跡を信じて~ | main | 君を見ていた季節
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Every-day’s valentine ~想い焦がれて~
 夏の夕暮れ、横浜駅6番ホームで間もなく別れが訪れる。先ほど藤沢駅構内で起きた人身事故の影響で、18時21分発の‘寝台特急さくら号’の到着が遅くなるという案内が電光板には提示されている。リマにはその方が嬉しかった。三ヶ月ぶりに会いに来てくれた遠距離恋愛のヒロシと、また離れ離れになってしまうからだった。土日の連休だけじゃ物足りない。いっそこのまま彼と福岡まで行ってしまいたいくらい好きだった。今日は泣かないと決めていたのに自信がない。前がつかえ待機していた湘南電車が先に見切り発車をして行った。
 遠恋の別れの瞬間にはジーンとくるものがある。シンデレラエクスプレスの逆バージョン。「去られて行かれる方は辛いのよ」とリマは彼への手紙に、この気持ちを書いた事があったが、「僕が逢いに行くよ」と旅好きで列車マニアのヒロシは東京に来たがる。彼はいつも重いバッグと三脚を持ってくる。決してリマには預けず毎回持って帰るのは、彼にとっての宝物なのだろう。リマは興味のかけらもない彼の趣味に初め抵抗があった。デートの場所はいつも線路際。来るなと言われても付いていくのだった。夏の日中は強い日差しでレールの鉄の匂いがする。女性には場違いだと思う。それでも何度も一緒に歩いているうちに、彼の情熱が鉄道だけじゃない事に気付き、どんどん惹かれていった。そしてヒロシが、自信のない自分を好きになってくれ、そして愛してくれる事に感激していた。 150センチのリマは足の長い180センチのヒロシと歩いているだけでときめいていた。出会いの切掛けは後で述べよう。
 EF66機関車の引くブルーの長い14系客車が入線してきた。何しろ馬力のある電気機関車らしい。荷物を肩に掛け直し、リマを見下ろすようにヒロシは見た。
「リマ、来月の盆休み福岡に来ていいよ。切符送るからさぁ」
「えっ!? いいの?」リマは嬉しそうに言った。
「ああ」言葉少なくヒロシはそう言うと背中を見せ、列車のタラップに足を掛けた。『何か言わなくちゃ』と思ったが、目一杯の笑顔を作り「気を付けて」とありきたりのセリフを告げた。彼も笑顔で手を振ってくれた。列車は走り出し、そのテールが見えなくなるまでリマは見送った。前回同様、劇的でジーンと来るシーンだった。このホーム上、自分だけが浮いた状態に陥る。そして根岸線に乗り家路に向かう。
 まばらな車内の席に着く。リマは24歳にして恋愛は二度目だった。ヒロシと付き合い一年が経つというのにキスまでしかしていない。いま時こんな純な愛され方をされるのはどうだろうか?と思ったりもする。もしかして彼には地元に本命の彼女が居て、私はただの女友達に過ぎないのか?もしくは彼も恋愛べタなのだろうか?もっとも何も聞けない自分が嫌でしょうがなかった。やっぱり自分に魅力がないのかしら…。港南台に着き、出来たばかりのエスカレーターで改札口へ上る。外はまだ暑かった。淡々と続くアパートへの道を行く。何か考えるにはもってこいな静かな一本道。電車で考えていた事を引きずっていた。一人暮らしの部屋に着き、彼の吸った灰皿の始末をしながら、『今頃さくら号はどの辺を走っているのだろう』と、気になっていた。そして、『まっ、いいか。次の約束してくれたんだもん』そう開き直った。恋する事って相手と離れていても センチメンタル で魅力的だとリマは思う。ふとんに入り、「もっと綺麗になってみせる」と誓い、三日間の疲れから熟睡した。

 (回想①)
 リマとヒロシの出会いは文通からだった。旅好きのリマが一年前、友達と九州を旅する際に買った旅行誌に玄海島の記事を見つけた。そこをプランに加える事にした。それは福岡に住むヒロシの投稿記事だった。住所も載っていてペンフレンドも募集していた(個人保護法もない時代の話である)。玄海島を訪れ帰宅してから、その記事を思い出し、彼に向け九州に惚れた事を書き綴った。正直、返事など返って来ないもんだと思っていたのだが、便箋にびっしり三枚もの返事が来た。そして彼に好印象を持った。知らないうちに手紙のやり取りだけが続いていた。今時『文通だなんて』と思うかも知れないが(携帯のない時代である)…。初めは旅の話で持ちきりだった。不思議なもので、親近感から気心が知れてくると、プライベートな相談事までも書くようになっていった。彼氏のいなかったリマは、写真の交換をし、彼に印象通りの男性であった事から想いが募った。電話で初めて話した時も、年上のヒロシがリマに優しい印象を与えてくれたのだった。ヒロシは大学病院で事務をしているという。リマは普通のОLだ。
 初めて逢ったのは羽田空港の到着ロビー。ヒロシは土日休日を利用してやって来た。約束の時間が近付くとリマはドキドキした。そして無事に逢えた二人は、空港展望レストランで食事をした。ヒロシはリマの思った通りの男性だった。その時『予想を外してしまったわ』と、リマは思った。スーツズボンとスーツシャツ姿のヒロシに対し、自分はジーンズにブラウスとラフであったからだ。不思議とタイミング良く、彼は「かわいい格好似合うね」と言ってくれた。たいてい子供っぽく見られる小柄なリマは、とにかく自分らしく決めようとこの服を選んで来たのだ。食事のあと列車好きのヒロシは憧れの京急2100系に乗ってみたいと言い、リマも楽しみに出発していった。蒲田で丁度やって来たお目当ての車両を見たヒロシは、「新しくて屋根上のクーラーも足回りもピッカピカだねー」と言った。空いてるクロスシートに並んで座った。動き出す。‘ウイ~ンウイ~ン’と調音されたVVVFの主電動機の音に二人笑っていた。電車はぐんぐん加速して行く。三浦海岸で降り、浜辺へ出る。人影まばらなのはシーズンオフになった証拠か?しかしまだ、夏の暑さではあった。二人の影は波に洗われた砂に伸びていた。こんなデートが初めから出来た事に、リマは乙女チックな運命を感じた。そのあと横浜まで戻り、よそよそしい九州男児を中華街へと案内した。露店の姓名判断で二人の相性を占う。また、雑貨店に入っては、ヒロシからペンダントのプレゼントをしてもらった。遊び疲れたその日の晩、リマは彼を自分の部屋に泊めてもいいと思っていた。もしもと思い部屋の片付けはしてあった。控えめなリマでもいざとなると大胆なのだ。けど、思っていても言えないのだから、結局は奥手な自分になってしまう。とっても好きになったヒロシから、明日もよろしくと言われた。嫌われずに済んだ様だ。ハッピーになったリマは関内の改札で別れると、大船行き電車に乗った。一方ヒロシは、品川プリンスホテルを予約してあるんだと言い、向かいのホームへと消えて行ったのだった。
 翌朝九時を回った頃、リマは化粧をしていた。そこへヒロシから連絡が入った。いま横浜駅に着いたと言う。電話を切り、「予定より早いよ~」と呟きながら急いで身支度を済ませ最寄の駅へと向かった。電車がホームへ入って来たようだ。『彼を待たしちゃいけない』と、階段を駆け下り、閉まりかけるドアをすり抜け飛び乗った。『何年振りだろうか?取り乱すほど気持ちが揺れている』。また時計をちらりと見る。今日の勝負服はイメージをガラッと変え、昨日の彼と合いそうなオレンジ系のスーツを選んでみた。前方に大きなターミナルビルが見え、右手に大きくカーブして行くと横浜駅だ。待ち合わせのホームで待っていたヒロシに気付かなかったのは、昨日と相違って、彼がジーパンにTシャツ姿でいたからだ。また外した。そう思った。彼は若返って見えた。
 駅ビルの喫茶店に入りリマが服装の話題を切り出すと、ヒロシは初めてそれに気付いた様に笑ってみせた。ヒロシは出来れば東京で暮らしたいと言う。首都圏の鉄道が好きだと言う。理由はともあれ、彼の移住希望は大歓迎だ。ただそのあと、無理なんだと漏らした。それから‘みなとみらい’の映画館で「エスケイプ」という話題のアクション映画を観た。リマが一緒に観たかったのは隣ホールでやっていた「君への想い」というラブロマンスだった。今日もリマは控えめな女の子だと思った。
時間は果かないものだ。夕刻、横浜駅の‘みどりの窓口’に二人は居た。19:09発【のぞみ27号】博多行きの切符を買い求める彼の後姿をリマは見ながら、異常な刹那を覚えた。そして、「これが最終新幹線なんだ」と言う彼の言葉に、自分に対する優しさと別れの宿命を投げかけられた気がした。最後になってリマは「新横浜まで送りたいの」と甘えた声で言った。ヒロシは手を差し出し「行こう」と言ってくれた。甘ったれのリマは、前の恋に失敗した理由が解かっていた。甘え過ぎて相手に負担を掛けてしまったという事を…。年上で背の高いヒロシに対して、遂に甘えちゃう感覚に陥ってしまった。嫌な顔せず彼は手を握り締めてくれていた。彼に言って欲しかったひとつの言葉をリマは待っていた。「恋人になって欲しい」って言葉だった。混み合う車内で、リマは思わず彼の腕を掴んだ。そして新横浜までの短い時間、二人して窓の外に降り注ぐ夕立ちを見ていた。雨は直ぐに止み、日没前に虹が掛かった。
 新幹線ホームに上がる。そこはいつも特有の旅路を感じさせる。更に淋しさを感じたリマは思わず「また逢って下さい」と、敬語でヒロシに言った。すると彼は、「前から君と一緒にいるみたいだね」と言った。『それって彼も別れを惜しんでいるのだろうか?』リマは思った。そして、ゆっくりと新幹線が入って来た。その時、ヒロシが「遠恋しようか?」と言った。「はい」と釣られた魚の様に返事をした。
「楽しかったね!博多着いたら電話入れるよ」Tシャツ姿のヒロシは言った。
「待ってます」リマは答えた。ヒロシは、円形状の‘500系のぞみ’に乗り込んだ。発車べルがずっと鳴っている。ドアが閉まり、丸みを帯びた車体がゆっくりと動き出す。目の前から彼が去っていった。それが遠方へと消えて行くのを、リマは切なく思ったものだ。

(回想②)
 この夏が終わる頃、遠恋も一年経つ事となる。その間ヒロシは5度逢いに来てくれた。二度目からは寝台に乗ってだった。通称“ブルートレイン”と呼ばれ、鉄道マニアを始め旅行者にも親しまれている。しかし年々の輸送力はスピードの速い新幹線や飛行機が主流となった為、時間を掛け旅や移動をするといった事が好まれなくなり、今では廃止に追い込まれた列車も多い。(平成十七年では数える程度まで激減) リマはいつでも突然のヒロシの上京には対応していた。来る時には前もって切符を買ったという連絡がくる。常識では相手が逢える日を聞くのが先じゃない?と思えるが、リマはその突然さに嬉しくなり、彼を素直に受け入れるのである。他に逢う人がいて・・なんて疑う術もない。単純なリマは、そもそも聞きたい事も聞けない内気な子であった。毎回ヒロシは金曜の晩に福岡を出て、翌朝11時過ぎに横浜に着く‘はやぶさ号’でやって来る。帰りの寝台は日曜夕刻に出発するのだが、「それでも翌朝の仕事には間に合うんだ」と言っていた。今回復路に利用したのは、文頭にも書いた‘さくら号’であった。‘はやぶさ号’と違って客車の形式が違うんだと言う。24系客車(正式には24系25型)と14系客車寝台があるというが、‘はやぶさ号’は24系で‘さくら号’は14系らしい。リマも一度寝台というものに乗ってみたいと思う。もともと旅好きなだけ興味があった。今回の見送りのあと『次は、私が行きたい』そう思った。
 リマより年上のヒロシは気さくな兄ちゃんだった。寝台で来る朝は髪がボサボサであるし、フットワークも軽い。もともと島根出身という彼は、九州の大学に入りそのまま就職したと言う。仕事の時にかけるという眼鏡の彼はちとインテリでリマは好きだった。年頃の女心は絶えずそんな彼にあり、離れていてもいつも想い焦がれる。また、自分より鉄道の方が好きなのかと思うときもあるが、他の女と浮気をされるよりはましだとリマは思っていた。初めてしてくれたキスはあっさりしていて今でもそれは変わっていない。リマは時たま思う。遠恋を長続きさせる秘訣ってなんだろう?互いの「愛のバランス」だろうか?相手を信じている事が重要で、甘えていたら相手の負担にもなる。結果、心配掛けるからだ。仮に自分の愛の方が強いとするのなら釣り合わないと思う。マメだと思っていたヒロシは案外不精で、コールするのも自分の方であったからだ。気持ちが揺れれば想いも募る。一瞬また、相手を信じられなくなるという不安に駆られた。いやいや、いけない!彼は忙しい人なんだから…と打ち消してもみる。

 今回リマが勇気を出して彼を自分の部屋に泊める事に成功したのは、‘私たち恋人なんだよ’という腹立たしい気持ちからだった。土曜のデートのあと、彼の手をギュッと握ったままリマは「うちに泊まって欲しい」と言った。すると驚いた事に、いつも断っていたヒロシが「ありがとう」と言い喜んで付いてきたのだ。自然な形で二人きりの夜を迎えたいとリマは思った。駅からの道のり、暑い日中から一転して心地のよい風が吹いていた。マイペースなヒロシはアパートに着くと、先ほど撮った鉄道写真のデータをメモった小冊子を整理していた。そしてバッグからカメラを取り出し掃除をしていた。今日は千葉の田園地帯を走る電車を撮りに行ったのだった。ヒロシが‘はやぶさ号’で横浜着いたあと、リマと合流し一緒に行った。帽子をかぶり真夏の太陽を遮った。汗もいっぱいかいた。三脚を立てファインダーを覗くヒロシは、やってきた高速の列車を撮っていった。そんな待ち時間には写真やカメラの話を彼は語った。眩しい線路際はレールの鉄の匂いがしていた。帰宅してからも、ヒロシは少年の様にカメラをいじっていた。その間にリマは、買って帰った食材で夕食を作った。そして初めてリマの手料理を口にしたヒロシは、美味しいと言って沢山食べてくれた。九時からは二人で土曜ロードショーを観た。別に映画には詳しくないとヒロシは言いつつ、映画好きのリマより断然それを知っていた。始めて逢った時に「映画でも観ようか」と言ったのも彼の方だった。何もない小さな部屋で寝転がりながら観ていると、ヒロシがリマに腕枕をしてくれた。ヒロシとこんな風に過ごすのは始めてだったリマはやたらと緊張した。ハッピーエンドでなく味気なく終わるその映画にリマは嘆くと、ヒロシは「これがいいんだ」とストーリーを振り返って語ってもみた。ふとリマは思った。『私たちもそんな風に終わってしまうのかな?』と…。ついそれを漏らしそうになったが、大切な夜を台無しにしたくなかったから言わなかった。と言うより言えないと思う。
「ヒロシさん、先にシャワー入る?」リマは窓の風鈴を掛け直しながら言った。
「うん、そうさせて貰うね」ヒロシは立ち上がると替えの下着を持って浴室へと入って行った。ヒロシが出たあと今度はリマが浴びた。その間彼はTVでスポーツニュースを観ていた。さっぱりしたあと、冷やしておいた缶ビールで乾杯をした。ヒロシがTVを消した。静まった部屋は二人をぎこちなくさせた。
「あっ、音楽流すね」リマはそう言うと可愛らしいコンポの電源を入れ、CDプレーヤーを再生した。これはリマが予め仕掛けておいたCDだった。最近お気に入りのショパンの“ノクターン9-2”をはじめ、バラッドなテイストばかり集めたピアノ集だった。ヒロシは立てかけてあった鍵盤を見つけ言った。
「ねぇリマ?そこにあるキーボード弾いてみなよ」
「買ったんだけど全然弾けないの。ごめんなさい」リマはそう返事をした。するとヒロシはそれに興味を持ったのか床に寝かすと電源を差し、かかっているCDを止めた。次にそれを軽快に奏でてみた。まさにそれは“ノクターン9-2”であった。リマは驚きつつそのメロディーに浸っていた。逢う度に彼の事が分かっていくのもさながら、もともと自分にある才能などなかったリマはますます劣勢になる。そんなヒロシに褒められた事が一つあった。それは「君と居ると癒される」といった言葉であった。彼は弾き終えると鍵盤を片付けて言った。
「おいしいとこ取っちゃったね」
「うん」元気なくリマは答えた。
「一緒に寝るか」ヒロシはそう呟き先にベッドに入っていった。
「ねぇ、私って何の取り柄のない子でしょ?ヒロシさんにはつまらないと思うな」リマは真意を伝えた。ヒロシはリマの顔を見つめた。
「そんなリマでも好きだよ」暫く黙ってしまったヒロシはそう答えた。
「ありがとう」リマは素直に言った。
ベッドの上に並んで寝ると、ヒロシが手を握ってきた。それから彼は小柄なリマの上に乗りそっと口づけた。クーラーの音が意味深に静かな空間を埋める。リマは覚悟していた。そしてリマが彼の胸に甘えると、ヒロシはずっとリマの髪を撫でてくれた。彼の腕の中は心地よく、リマは今か今かとその先を待っていた。しかしそれから何もなかった。そんな二人はいつしか眠りに就く。そして朝を迎えた。リマは物足りなかったが、きっと大切にされているんだとその時は思った。ヒロシとはそういう経過だった。(以上回想)


 リマは横浜から地下鉄で、三駅程西にある三ツ沢でОLをしている。ひとり暮らしに憧れ、二年前同じ町にある実家の団地を出た。早くに結婚し嫁いだ姉が一人いて、そこには二人の子供がいた。八月に入った日曜日、リマは子供たちを実家に預けた姉と車でショッピングへと出掛けた。第三京浜を突っ走り、青山、表参道へと向かう。
 行動派の姉は旦那のスポーツカーを乗りこなし、カジュアルな服を着こなすリマの憧れの女性でもあった。しかし二人の性格は正反対だし、背の高さもかなり違う。姉は父親似でリマが母親似だった。男の話題になっても好みが違うため意見が食い違う。それにリマは今の彼であるヒロシの存在を姉には隠していた。遅い昼食をパスタの店で摂った。適齢期の妹を持つ姉のリカは、話題を恋バナへと持っていった。
「リマちゃんまだ恋人できないの?もしかして出会いとかないんじゃなぁい?」リカはストレートにそう言った。姉の言い方には慣れているもの、その時のリマには姉の言葉が妙にキツく聞こえた。腹のたったリマは、
「結婚前提で付き合ってる彼がいるわ」と言い切った。
「そんな大事な事、どうして早く言ってくれないの?」そんな風に言いながらも姉は妹の朗報を喜んでいた。彼の写真を見せると、姉は「いいわね」と絶賛した。
「押していかなきゃダメよ」とリカは言った。
姉と別れてから、『きっと特種になるわ』とリマは思い、姉に話した事を悔やんでいた。結婚前提だなんて言ってしまった口実がそうさせたのだ。

 八月の盆休みに「逢いたい」とリマはヒロシに伝えてあったのだが、彼の仕事の都合で逢えず仕舞いであった。彼と一晩を共にしてから、少しずつリマは自分の気持ちを彼に伝えたいと思う様になっていった。既にテレビでは秋の新番組が始まっていた。毎週決まって観るドラマのなかったリマが今回はまったのが、その名もズバリ、“遠恋の仕方”というタイトルのドラマだった。設定はともかく、自分たちをプレビューさせた様な物語であった。東京に住むバンドマンの勇吉が、京都から仕事で訪れた美人OL、藍と知り合い好きになる。藍には見合った彼氏がいた。リッチな商社マンだった。貧乏で冴えない身なりの勇吉が、普通列車で京都まで逢いに来てくれた事から、藍は東京のライブに来てくれる約束を彼にした。そして二流ステージのバックを勤める勇吉を観に上京した。一途にドラムを叩く彼に心打たれる。静かな東京駅に最終「ひかり」が発車を待っている。藍は勇吉の頬にキスをした。一週目がこんな内容であった。彼女の揺れていく気持ちが、リマに共感を覚えさせた。自分の恋愛とは立場が逆かも知れないのだが…。
 もっと彼の気を惹かせなくては?と思い付いたリマは、会社帰り大きな書店に立ち寄った。一角に趣味のコーナーがあり、そこには鉄道のカテゴリーもあった。そこから選んだのは、『鉄道物知り図鑑』というHowToものの本だった。レジに持っていくのに抵抗はあったが、カバーを掛けて貰うと早速電車を待つホームで本を広げてみた。形式や専門用語が並び、リマにはちんぷんかんぷんだ。それでもヒロシに教わた車両に馴染みを感じ、その特性など暗記してみた。この事は内緒で、絶対に驚かせてやろうと決めた。

 10月のウィークデー、リマはジーンズに旅行カバンを持ち出勤した。そして仕事を終えたリマは直ぐに横浜駅へと向かった。乗り換え通路の売店で、駅弁とお茶を買うと先を急いだ。電光掲示板には、次発「はやぶさ号」の案内が。ヒロシからの切符を片手に持ち階段を上る。列車は丁度やって来たところで、リマは近くのドアより車内へと乗り込んだ。チケットを見ると11号車9番下段のB寝台と明記されていた。ゆっくりと駅を離れ、コトコトと動き始めた。初めて乗る寝台車の通路は狭く感じたが、ずらりとベッドが並びわくわくしてきた。リマの席のあるボックスには誰も居なかった。荷物を置くと売店で買った“三彩おこわ”を広げた。暮れてしまった景色は少し寂しげだった。暇つぶしに持ってきた小説を読んでいた。富士から一人若い女性が乗ってきてリマの前の席に座った。彼女は持っていたビニール袋からお菓子を取り出すと、どうぞとリマに差し出した。何となく話が始まって、時間も経たないうちに仲良くなった。ふたり名前が似ていたのには頼もしかった。りこというその彼女は、ラウンジカーにいってみませんか?とリマを誘った。そうする事にし、貴重品を持って席を離れた。(別に、西○京太郎の殺人事件の導入部ではない) 訊くところに寄ると、彼女も恋人のいる終点熊本まで乗るのだと言う。遠距離恋愛である。何という偶然か?
ラウンジカーには丸いテーブルと椅子が幾つかあり、くつろげるスペースになっていた。リマたちは自動販売機で缶ジュースを買うと椅子に着いた。
「実はあたし、今回で彼と最後にしようと思って…」一つ年上のりこが言った。遠距離恋愛についてである。
「嫌いになったんですか?」リマはストレートに言った。
「好きだから辛いんだっ」
「結婚とかダメなんですか?」
「違うよ。彼には奥さんいるし。…リマちゃんは純愛?」
「そうです。たぶん…」
「たぶん?」
「あっ、純愛です。時々不安になる事あったけど、そんなの私の思い過ごしだと思うんで…」
「ふ~ん」りこはお姉さんぽく話を聞いてから、笑顔に戻って話題を変えた。
 この夜リマはぐっすり眠れた。目が覚めると朝になっていて、関門トンネルを抜け小倉に着く所であった。洗面所で顔を洗い化粧をする。そしてあと一時間程で博多着の案内が入った。車窓を流れる九州の朝が新鮮に思えた。きっと彼もブルートレインで過ごし、こんな朝を感じていたのだろう。席に戻ると上の段から年配のおじさんが降りてきた。大阪辺りから乗ってきたのだろうか?向かいのカーテンはまだ閉まっていた。博多に着くとリマはりこを起こさず降りようとした。メモに、『昨夜はありがとう。楽しかったです』と書き、そっと彼女のカーテンの下から差し込んだ。旅には出会いがあると言っていた彼を思い出していた。そんな彼に逢えるのも時間の問題となった。10時前に定刻通り博多駅に到着。リマは九州の地を踏む。近くのベンチにいるヒロシを発見したリマに、自然と笑顔がこぼれていた。
「ようこそ!」ヒロシはそう言って小柄なリマ肩を抱き寄せた。
「いつもより優しくない?」ヒロシの清々しい表情につられリマは恋人らしい口調で言った。それにいつもの遠慮はやめようと誓って来たのだ。
「寝台はどうだった?」
「ドラマティックだったよ。ちょっとした出会いあったし…女の子だよ!」
「そうか」ヒロシは笑っていた。
動き出す列車を二人は見送る。すると窓から手を振る女性がいた。りこだった。リマたちも手を振って返した。
「ドラマだったようだね」さりげなくヒロシは言った後、リマの手を引いてコンコースへと降りていった。駅を出て近くの地下駐車場にヒロシの車があるようだ。リマにはよく分からなかったが、それは真っ赤な911ポルシェだった。値の張る車だという事だけ判った。そして天神、中州といった繁華街を抜け、姪浜にあるという彼のマンションへと向かった。
 レンガ貼りの高級マンションに着くと、最上階にある部屋へ案内された。広い窓からは海が見える。大気の状態のいい事もあり、微かに韓国も望めた。いつも持ってくるカメラバッグと三脚が広いリビングに置かれていた。ヒロシに対し庶民的な暮らしを想像していたリマには、リッチな彼の生活ぶりを知ると何となく夢が遠ざかった気がした。普通の女性ならこんな生活に憧れ、彼氏からのVIP扱いにも鼻高々であろう。リマの見ていた夢は、好きな人とコツコツと力を併せ生活していくものだった。その方がきっと幸せになれると思っていた。
「どうしたの?なんか暗い表情してるよ」ソファーに腰を下ろしたヒロシが言った。
「何でもないよ。…凄くリッチで驚いたから」リマは答えた。するとヒロシは笑い出した。リマも近くのチェアに腰掛けた。
「この部屋も今月いっぱいで失うんだ」何だか楽しそうに彼は言う。買って帰ったちらし寿司と淹れたお茶をリマに差し出した。
「まっ、食えよ」ヒロシは朝ごはんを食べていないリマに言った。
「頂きます」リマは言いそれを広げた。お腹がとても空いていたのだ。彼はそれを横目に話し出した。
「君と出会って本当の愛を知ったんだ。実は最近までここで一緒に暮らしていた女性がいた。婚約もしていた。彼女は金持ちの娘で、僕は不自由しなかった。けど僕らには愛がなかったんだ。東京に行く理由なんか写真の撮影で充分だったし、確かにリマとよく行ったね。君と知り合い好きになり、僕は君と本当の恋人になりたかった。ある日、彼女に好きな人が出来たとカミングアウトしたさ。当面は聞いてくれなかったよ。婚約までしてたからね。」ヒロシは冷蔵庫から缶コーヒーを取り出し口にした。
「彼女、ヒロシさんの事愛してたんでしょ?」
「彼女は僕の気持ちより学歴や将来性を優先する人だった。もっぱらそんな家庭で育った人だから仕方ないけどね。僕は医大を出て大学病院で外科医してるんだ。君に普通のサラリーマンだなんて嘘を付いてたね。上手く休日も合わせてきた」
「それで突然…」
「突然行っても会ってくれたね。趣味も理解してくれた。そして僕に本当の愛をくれた。リマが好きになったヒロシはマテリアルなものじゃないって…あっ、車は僕の財産だけど、売って慰謝料にしたい」ここまで話したヒロシは缶コーヒーを飲み干しひと息付いた。リマも食べ終わりお茶を口にしていた。
「私に嘘付いてた事は許すわ。そういう人が居た事も…。でも、そこまで私を好きだなんて信じられないの」リマは言った。
「僕はリマと深い関係になって傷付けたくはなかった。彼女と別れるまではね。大切に思う程…」
「彼女とは?」
「別れたよ」
「私、あなたの事ずっとずっと想い焦がれてた」
「想い焦がれる?何だかいい表現だな」ヒロシはリマを見つめた。リマはバッグから一冊の本を取り出し、ソファーの横に並ぶとそれをヒロシに渡した。ヒロシはページを捲り、暫くそれを眺めていた。鉄道物知り図鑑であった。
「じゃあ問題です。日本で最初に女性乗務員が誕生した路線は?」ヒロシは言った。
「ええと…伊豆急行線。単線だよね?」
「凄いじゃん。今度乗りに行こう!」
「うん」笑顔でリマは応えた。
「私ヒロシさんの事がとっても好き」リマは始めて自分の気持ちを言葉で告白した。ヒロシは手にしてる本を向かいの椅子の投げると、小柄なリマの体を抱き寄せた。自然と重なり合う唇の向こうに空を感じながら愛し合う。欲情したリマは、ヒロシにブラウスのボタンを外されるのをドキドキしながら待っていた。そして二人は水を得た魚の様に抱き合った。
 真っ青な海に停泊していた船にいつしかライトが灯り、二人はベッドの上から素敵な夕暮れを迎えた。TVを点ける。KBC放送ではキリシタンで有名な平戸の中継をやっていた。
「西海までドライブしよう!」ヒロシはそう言うと、リマに軽く口付けベッドから降りた。
30分後には涼しげなスウェット姿のヒロシとドライブに出ていた。博多湾から玄界灘へとスケールアップした海を横目に、ポルシェは走り続ける。リマは、まるで‘二段うな重’を目の前にした時の様な感動をしていた。途中、休憩を兼ねディナーを摂る。二人で食べたロブスターは格別だった。そして更に西へと向かう。
「九州って好き」心解れ、ヒロシに愛されたリマはそう言ってハンドルを持つ彼の腕に寄り掛かった。
「くれた手紙に書いてあったね。西の海で恋してみたいとか…」
「照れちゃうからやめてっ!」リマはそうは言ったものの、彼がそれを覚えてくれていた事が嬉しかった。リマは眠ってしまった。ポルシェは平戸大橋を渡り、史跡の宝庫である平戸の島に到着した。リマは目を覚ました。普通夜来てもつまらないと思うだろう。でも、彼にNOは言わなかった。岩場で二人横になり、暖かい風をずっと感じていた。星が綺麗だった。
 会社に連絡を入れて休暇を延期したリマは、彼の出勤中掃除洗濯を楽しんだ。そして晩御飯を作って待っていた。すっかり新婚気分を味わっていたのだ。新幹線ホームでの別れ際、ヒロシはリマに言った。
「次福岡に来るときは、嫁として来ないか?」
「それってプロポーズ?」リマが目を丸くして訊いた。
「僕の妻になって欲しい」ヒロシは照れながら言った。『この人ホント純なんだから』とリマは思いながら、笑って返事を焦らした。そして「宜しくお願いします」と、リマは返事をした。

 結婚して10年経った今、リマは二人の子供と夫、ヒロシとで仲良く暮らしている。彼はもう直ぐ助教授になる。気さくでちょっぴり女心に鈍感な所は変わらない。小学生の息子の夢は電車の運転士。朝早く、夫は子供と一緒に写真を撮りに出掛けた。今頃、鉄の匂いのする線路際で、私の作ったお弁当を食べているかしら?リマはそんな昼下がり、鉄道物知り図鑑を眺めていた。

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趣味:写真撮影、音楽制作、作家活動、野球、ドライブ、飲み会(笑)ほか多数・・・
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