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小さな砂丘 | main | 愛の意味 ~サザンのバラードに包まれて~
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秋のS.L.S.⑤ 磐梯山の恋人☆彡
*文中の鉄道データは、公式の規定データとは違いアレンジしています。

 東京に住む上宮圭吾(うえみやけいご)は、JR東日本東北新幹線の運転士だ。今年で38歳になる。2年前まで常磐線を担当していた。スタイリッシュな‘スーパーひたち’や‘フレッシュひたち’も運転していた。平坦な関東平野の運転は山岳路線に比べ力むことはなかったが、130km/hの区間が多いことで、踏み切りや駅通過時の配慮はままならなかった。新幹線志望試験をパスした圭吾は、10ヶ月の研修と10科目の試験のあと教官と共に乗務訓練をした。

 ところでこの東北新幹線は、東京~八戸間、630キロを3時間ばかりで結ぶ。10月の紅葉時期が訪れ、平日に於いてもまばらな観光客がこの列車を利用していた。本日の圭吾の仕業は、先輩の田中との交代乗務で、『はやて・こまち7号』東京から盛岡までの往復と、18:20発やまびこ217号仙台行きで郡山までの単独常務であった。『はやて・こまち』では規定により、中間の白石蔵王(しろいしざおう)駅通過時にて運転席と助手席とで入れ替わる。最初の運転は圭吾からだった。線見、訓練以来、仙台以北はさほど運転していないのである。盛岡から先が出来てから仙台以北は主に東北支社の管轄だった。

 東京駅13番ホームに上る長いエスカレーターで、圭吾は本日の終了時刻を田中に確認した。月に1度だけ郡山で終わる日が巡ってくる。そして翌日の昼12時に出る東京行き『やまびこ』で戻ればこの仕業は終わる。ホームに上がると既に入線し清掃に移る、折り返し車両の運転室に入る。サイド方向幕の確認と頭の正常確認。高い位置にある運転台に座ると最初に列車番号の入力をした。ブレーキの緩解確認と計器の圧力、電圧確認など行う。出発1分前、発車ベルが鳴り続けていた。
「戸閉点灯ヨシ!信号70。出発進行!はやて・こまち。8時28分15秒、定時」
右手でブレーキを戻し、左手マスコンハンドルを1段、そして3段まで引いた。制限40を解除したあと5段で70km/hまで上げた。秋葉手前でダウンするため60で惰行。地下トンネルに潜る。上野停車のあと市街地を軽く流して大宮停車。その後本領発揮、275km/hまで一気に加速する。稲穂が黄金に色づき、遠くに見え接近してくる山は栃木の山々だった。

 その頃、猪苗代の見える表磐梯のペンションでは、絵里菜(えりな)が宿泊客を見送っていた。それからキッチンに戻ると、皿洗いをしている10歳離れた弟 崇之(たかゆき)に言った。
「今晩は絶対客取っちゃダメだよ!」
「は~い社長!」崇之はおどけてみせた。そして崇之は言った。
「なぁ、彼氏来るんだろ?俺は夕方郡山まで迎えに行けばいいのか?」
「彼氏だなんて・・・あ、乱暴な口の聞き方したらダメよ!圭さんエリートなんだから」
「は~い」
秋になっても裏庭のレタスやトマト、それにトウモロコシが良く育っていた。ペンション自製採りたて野菜をお客さんには出していた。独身の圭吾は、非番の日に友人とテニスをしに猪苗代にきて以来このペンションを気に入り、毎月一度の郡山泊まりに合わせ訪れていた。今回で5回目になる。一番の理由は、チャーミングな絵里菜のことが気に入ったからだ。絵里菜も同じく圭吾を想っていた。なのにどっかの刑事ドラマのように進行しないという展開である。崇之の車代含め、圭吾は他に使い道ないからといつも3万置いていく。絵里菜にとって何よりも嬉しいのは、ペンションに飾れる小物を毎回プレゼントしてくれることだった。

 出発から長い針が一回転した頃、見えてくる山がある。安達太良山だ。昔は在来線の特急で3時間ほど掛かった場所だが今ではひとっ飛びだ。郡山の市街地に入り、圭吾はちらりと左手を見た。僅かなスジ雲が伸びていてその先には磐梯山があるのだろうか?あと1000キロほど走ってから逢える人を想ってみる。いけない!信号240から160の指令が出ている。圭吾は減速操作を数秒遅れ、併せて喚呼した。
「本日この先徐行、信号160!」
「本日この先徐行、確認ヨシ!160」
田中運転士も復唱した。田中はそんな圭吾の心境に気付いていないようだ。白石蔵王が近付き運転士の入れ替わりをする。ハンドルを放して右サイドに廻った。
「蔵王10時ジャストゼロ5秒停通!」
流暢なベテラン運転士の喚呼が運転室に響く。揺れの少ないE2+E3型車両だが、減速時のショックは感じる車種だった。それなのに運転曲線を心得、スムーズなタイミングを計る田中に圭吾は脱帽した。長いトンネルを抜け数分もすると、仙台市内に入り車内には自動アナウンスが流れた。寄り道をしない新幹線は本当に速い上に早い。
「レディース&ジェントルメン、ウィ、ウィル、スーン、アブリーフ、アライヴ、アットゥ、センダイターミナル、イナ、フューミニュッツ・・・」
左に大きく傾きながら、減速していく先に長い駅が見える。その右手に見えるヨド○シカメラは、圭吾が仙台泊のときに良く寄る場所だった。
 
 盛岡には11時31分に到着。秋田新幹線乗務員にマスコンキーを渡し、圭吾は田中と共に駅下の控え室に向かった。
「上宮くんじゃない?」
圭吾は振り返ると、同僚で上野運転所の朝倉だった。
「長野新幹線に異動だって聞いてないかい?」
「知らんよそんなこと!」
「いや~上野戻るんだろ?運転部長に聞いてみたらいいよ。それか人事」
「聞いてみるよ」
「可愛そうに」
田中は言った。何しろ東北新幹線の運転自体覚えて間もないからだ。構内配線から、トンネル位置、ブレーキ地点まですべて覚えなくてはならない。長野新幹線で言えば高崎を出ると山登りに入るため常に力行だろう。山下りは抑速ブレーキを掛けながらの運転だ。長野新幹線は、かつてのオリンピックに向け突貫工事をした線区でもあった。

 昼食は駅の外に出て‘わんこそば’の店に入った。二時間の休憩のあと事務所で乗務チェックをし、再び列車を東京まで走らなせなくてはならない。とは言え、鉄道マンにとって新幹線運転士は花形の職である。

 上り乗務は、後ろに併結する秋田新幹線の接続が遅れ5分程遅延した。途中駅を抜かす優等列車はほぼマックスで走らせるダイヤであるが、5分なら大宮までに差を詰めることが出来ると言われている。
「よし、今度も君から先に運転してくれ」
田中はそう言うと、圭吾にブレーキハンドルを渡した。
「了解です」
「まず北上の先のストレートでかせげ。ノッチはその都度教える」
ノッチとは車で言うアクセルの強さであり、オンで電圧を加え加速させる回路だ。フルノッチと言えばエンジン全開を意味する。もっぱら電車に於いてはモーターの回転数に置き換えられる。

 出発して30分、圭吾は田中の指示通り上り『はやて・こまち』を順調に走らせていた。東京側、リニューアルされた200系で後方にE2が連結された形だ。鋼鉄の新幹線として最後に残った200系は、今時のインバーター制御ではなく界磁チョッパ方式だ。全車に電動機(モーター)が乗っている。花ノ巻~一ノ関間で指令所より連絡が入る。どうやら上越新幹線が停電のためストップしているらしい。当面、遅れを戻しつつ先で詰まった場合はATC信号の指示に従えというものだ。下手したら郡山に着ける時間もあやふやだ。運休したら仕業も変わり、郡山で終われないケースもあり得る。仙台で時間調整をし、小山からも徐行。23分遅れて圭吾の‘はやて・こまち’は、東京駅に到着した。

「姉ちゃん、今夜は冷え込みそうだな」
崇之は車のドアを開け、言った。
「そうだね~。くれぐれも事故起こさないようにネ!」
絵里菜は念を押し言った。
「わかってるよ。じゃあ行ってくるよ!」
崇之の軽自動車は、雑草の生える土道をススキの彼方へと消えていった。二つコブの会津磐梯山が夕陽で染まっていた。絵里菜は3年前この土地を買い、たった一人の姉弟である弟と共に東京から移住してきた。夢だったペンションをやるためだった。絵里菜は今年で35歳を迎えた。最近男に縁がなく、崇之の紹介する男には好意を持てても自分から踏み切ることが出来なかった。そんなとき現れたステキな男性が上宮だった。

 乗務日誌を提出したあと、圭吾は郡山駅の外へ出た。携帯電話の留守録に崇之からのメッセージが入っていた。西ロータリー出口付近の果物屋の前にいるという。崇之の車を発見すると、早速ペンションに向かった。
「上宮さん、姉貴待ってます」
崇之は愛想よく言った。姉弟で話すときと違って整然とした口調だ。
「そうか。崇之君いい弟さんだな」
暗がりの磐越道に入る。圭吾はスーツの内ポケットに隠してあるものを確認した。
「明日、例のテニスコート予約できない?」
「あそこならいつでもオーケーだと思いますよ!しかも平日だし」
「一時間でもいい、お姉さんとテニスしてみたいと思って」
「何時間でも連れ出して下さいよ。姉貴歓びます」
猪苗代・裏磐梯I・Cで下道に入った。

 ペンションでは、三箇所あるテーブルのうち一箇所だけ、豪華な盛り付けをしたテーブルがあった。

「姉貴、圭吾さんいらしたよ!」
玄関から崇之の声がした。絵里菜は慌てて玄関に向かった。
「いらっしゃい」
細い声をした絵里菜は、35歳らしからぬタイトな赤いドレスで圭吾を迎えた。
「ただいま」
VIP客の圭吾はウィンクしてみせた。
少し遅めのディナーは至福の時間となった。
「うん、これは美味しい!」
圭吾は絶賛した。
「ロールチーズチキン、自信作です」
と、絵里菜が答えた。すると、さっさと食べ終えた崇之が言った。
「あ、俺やることあったんだ」
わざとらしく二人に微笑んで席を外れた。残された二人は向かい合った形でしんみりと会食している。
「緊張します」
「緊張しないで下さいよ。俺まで緊張しちゃうじゃない」
「ええ。あっ、音楽・・・」
絵里菜はそう言い席を立つと、窓際にあるコンポを点けBGMを流した。和んだ空気のなか圭吾は言った。
「明日、早起きしてテニスしようか?」
「相手してくれるんですか?」
「ああ。ここは空気いいし・・・あのときエリちゃんが僕らに声掛けてくれたんだよね」
「やだ、あれは営業です」
二人は楽しく笑った。それから食後のデザートを口にした。圭吾はスーツのポケットからチケットを取り出し、絵里菜に渡した。
「東京行きの往復切符、5回分プレゼントするよ」
「いいの?高いでしょ!?」
「よかったら今度僕のうちにも来てみない?」
「はい」
仕掛けた圭吾にとってはここまでの展開は上手くいったと思う。しかも彼女からは素直な返事が返ってきた。しかし圭吾にはこの先が言い出せなかった。あまりにも照れてしまうからだ。そのとき外でスコーン!と物が落ちる音がした。絵里菜は立ち上がりサッシのカーテンを開けた。窓を開けると外を伺う。どうやらネコが椅子の上のボールを落としていったようだ。圭吾は外を見ている絵里菜の襟足に触れた。
「びっくりした」
苦笑いした絵里菜の顔が真剣なまなざしに変わってゆく。
「あっ・・・」
圭吾は絵里菜の肩を抱き寄せそっと口付けをした。背後ではバイオリンの音色と虫の音が調和していた。圭吾は言った。
「好きだった。出逢った日から・・・」
「わたしも・・・好きです」
圭吾はこの先どうしたらよいのか、また分からなかった。列車の運転を操るのは得意でも、女性の気持ちを探るのは苦手である。
「今度はわたしからキスしてもいい?」
このセリフには圭吾は参った。棒立ち状態の圭吾に抱き付いた絵里菜は、何度も何度も圭吾にキスをした。圭吾は絵里菜の前髪を分けながら言った。
「今晩、一緒に寝ようか」
「しよう」
「え?」
「そうしようって言ったの」
「ごめん、俺ワインに酔ったみたいだ。風呂入ってくるよ。部屋は?」
「201。朝になると磐梯山が見える部屋。あの部屋だけなのよ」
「了解!」

 そしてこの晩、圭吾と絵里菜は結ばれた。次の停車駅は軽井沢だった。そう、圭吾の長野新幹線異動により、絵里菜のペンションも移動した。そこは割りかし駅から近い新幹線の線路際、中軽井沢(なかかる)の地に建てられた。圭吾の貯めたお金すべてをプレゼントして。単純な男と言われても愛してしまったらしょうがないものだ。その代わり担保は絵里菜だよと契約を交わした。それからもう一つ。窓から見える山は磐梯山から浅間山に変わった。

  -完-
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| 恋愛小説 | 05:11 | トラックバック:0コメント:4
コメント
いやぁ
びっくりしましたよ~。なんでここまで細かくご存知??
どなたかに取材されましたか~??
興味深い内容だったので、ついつい引き込まれました。
いまちょっと、「ウィ、ウィル、スーン、…」が耳について離れません(笑)。
2006.10.08 Sun 23:55 | URL | はるか
はるかさんへ
でしょ!?運転士に憧れていたので昔、色々研究しましたよ。列車の運転て前の列車を把握してないといけないんですよね。ATSに於いてもただ閉塞信号に従ってたらダイヤは乱れます。
はるかさん主人公に書きましょうか?
「JR西日本女車掌」とか!?笑
2006.10.09 Mon 10:14 | URL | POPSTAR
こんにちは、読ませていただきました。新幹線の走行操作が真に迫り究極のっていうかことばの表現が見当たりません。運転士にあこがれて居られたのですか。読み始めて僕の山手線、終電車のあるくだりを思い出しました。僕も昔交通博物館に行って子供がいっぱいいるシュミレーションの前に立って自分の番が来ると界磁弁とかマスコンとか、またコントローラー引いて出発進行なんてやってました。
因みにPS1のコントローラー家にあるんですよ。あと運転シュミレーション(音楽館)出るたびにほとんど買いました。
実際に勉強されたとはすごいですね。
軽快なタッチで最後はペンションでの圭吾と絵里奈の出会いとペンションを背景に美しく結ばれていて秀作だと思いました。
2006.11.19 Sun 13:10 | URL | ヒロクン
ヒロクンさんへ
ぼくは実写の京急シュミレーターが好きです。でもCGでも田舎の風景(PS)はいいですよね!強引な曲線でも130キロって変だけど・・・笑
ペンションは今まで訪れた3箇所がまず頭に浮かびまして、その中で清里の造りがアットホームで近いのでその間取りを頭に抱きながら書きました。読み手も同じ情景で読めたら楽しいのになぁと思います(あり得ないけど)。これをよんでペンションに泊まったことない人は是非訪れてみて欲しいですね!
主人公の操る新幹線の‘速’とペンションを営む絵里菜の‘ゆとり’とを接点持たせユーモア性を出しました。
2006.11.21 Tue 14:10 | URL | POPSTAR
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