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秋のS.L.S.⑤ 磐梯山の恋人☆彡 | main | 秋のS.L.S.④ 満月の夜に
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愛の意味 ~サザンのバラードに包まれて~

 それは五年前の事でした。初めて本気で愛した年上の彼と出会った夏。25歳になった私はまだ子供で、何でも知っている5つ年上のYにのめり込んでいきました。会社の男に魅力を感じない毎日に愛想尽きていた頃です。そもそも私自身、自分に自信なんてなかったのですが... そんなある日、ひとり旅に出ました。旅と言っても電車で小一時間の場所です。臆病な私はいつも片想いばかりで、初めて男の人に抱かれた時も好きな人じゃなく、気を許したのも早く大人になりたかったのかも知れません。
 降り立った駅は横須賀線の鎌倉駅でした。シーズンオフなのに何か賑わっていて、一人きりで来た事に後悔を感じました。古い寺にも立ち寄ることなく、私は海岸の方へと歩いていきました。夏の香りも残る9月の浜辺は眩しくて、案外人影まばらで寂しい気もします。
昼下がりの道をひたすら西に向かっていきました。やがて辿り着いた稲村ヶ崎の海岸で、持ってきた本を広げ読書にふけっていました。それも夕陽が海の向こうへ落ちていく瞬間まで動くことなく・・・。何だか涙が出てきたのは読んでいた本のせいでしょうか。現実から抜け出すなんて・・・そんな風に今の暗い自分を振り返っていると、カメラのシャッターの音が風に流され聞こえてきたのです。振り向くと、同年代くらいの男が、私にカメラを向けていました。私は軽蔑の目で男を見ました。影で顔が良く分からないけど、何だか笑っているようでした。男の人は近付いて言いました。
「ずっとあなたのこと見てたんです。それで、日が暮れるまで居たら声掛けようと思って」
少し照れながら言うTシャツの彼に、何故か悪い気はしませんでした。つられて私もニコリと微笑んでいました。そんな彼に出会いを感じたのは無理もなく、望んでいたことだったのかも知れません。
「自分、こういうもんです」
と礼儀正しく言う彼は、私に名刺を差し出しました。‘デザイナー 柴崎 祐一’とありました。気兼ねなく私は、誘われたまま彼の車で食事に行きました。湘南ナンバーだったので地元の人かと聞くと、彼は肯き出身は北海道だと言って笑っていました。爽やかな印象の彼にときめきを感じ、苦手な男の手前なのに、自然で居られるくらい私は溶け込んでいました。その場はずっと彼の仕事の話題で持ちきりでした。誘ったのは僕だからと、結局ご馳走になりました。駅まで送って貰う車の中で、ずっとサザンの曲がかかってました。それもバラードばかりで、夜の湘南に凄くマッチしていて、私は彼の横顔をずっと見つめていました。当然私は次の約束を待っていたのですが、彼は私に彼氏が居るか?とも聞かず、黙って車を走らせていました。
「今夜は楽しかったね」
彼はそう言うと駅前で私をすんなり降ろしました。
「・・・あのぉ、今度お礼がしたいんですけど」
と、私は遠慮がちに言い、車の中でメモ書きした自分の名前と携帯ナンバー、アドレスを渡すと彼は、「それじゃ連絡して」と言い残し去って行きました。彼の車を見送る私はハッピーでした。


 翌日、会社の同僚に見透かされてしまうほど、私はときめいていたのです。昼休み、先輩の敦子さんが私に声を掛けてきました。
「今日の美穂、いつもと違わない?」
「そうですか??」
私は聞き返しました。
「彼氏でも出来たのかな?」
「彼氏というか・・・でも、付き合うか分かりませんけど・・(^^/)」
「よかったわね。頑張ってよ!」
帰宅時にサザンのCDを買い込みアパートに戻りました。それを聴きながらペンを執り、日記を付けました。アンチックな女でも格好イイ恋に憧れるのです。まだ一度しか逢ってないのに。ただ気掛かりなのが、彼ことYに出したメールの返信が来ないことでした。それでも日を増す毎にYは無くてはならない存在になっていました。部屋で聴くサザンのバラードが余計そうさせていたのかも知れないけど。呑気な私でも恋には一途なのです。気付いたらYの携帯ナンバーにコールしていました。けど、何度掛けても留守電でした。
『きっと忙しいんだわ』
仕方なく、メッセージだけ残して置きました。
 あれから三週間が経った休日、私はもう一度あの場所を訪れることにしました。台風が近付く強雨に関わらず、思いのまま電車に乗って鎌倉へと出掛けて行きました。江ノ電の古い車輌がキシキシと音を立て続けます。ちっぽけな稲村ヶ崎のホームを後にし、ゆっくりと海岸の方向へと歩いて行きます。直ぐに雨に霞んだ海が見えてきたのですが、ばかばかしくなり引き返すことにしました。雨宿りする様に途中のテレフォンボックスへと入りました。
『そうだ、ケイタイじゃなくこの電話からなら受け取ってくれるかも・・』
そう思い、緑の受話器を外します。Yに掛けようとするのですが、とてもためらってしまいます。何やってるんだろう私。結局、そのまま帰宅することにしました。止まない雨に打たれながら駅へと戻りました。電車がトンネルに入り自分の顔が映った時、涙を流しているのに気付きました。
『もう、忘れるから・・』
 彼をあきらめかけた頃、一通のメールがケイタイに届きました。

**メール読みました。美穂さんがそんなにも僕を気に入っただなんて嬉しいな。ずっと考えていたんです。
実は、僕には妻がいるんだ。上手くいってないんです。正直な話、現実から逃げたくてあの日美穂さんに声掛けてしまって。本を読んでる横顔がステキだったからつい。ごめんなさい。
こんな僕でいいのなら、次の日曜に江ノ島で会いませんか?お友達として。
                                 祐一**

 迷う術もなく、私は日曜に指定の江ノ島へと向かいました。ふたり墜ちあうと、再会の余韻もなくYは車を走らせました。先日は気付かなかったのですが、Yの車は右ハンドルのBMWでした。この日もサザンを聴きながら海岸線を行きます。カラリとした涼しげな秋風が窓から入ってくると、何故に改まってしまって上手く話せなくなります。車は由比ガ浜も過ぎ、逗子の方向へと向かっています。やがて一方的に話すYの会話も途切れました。それからYはひとり、運転を楽しんでいるかの様子でした。心地よい天気と滑らかなYの運転に浸り、私はいつしか自分の世界に入っていました。
『-こんな私と居て祐一さん楽しいのかなぁ?-もしかしてこのままホテル?? ヤダ、どーしよ~っ。-何考えてるの私!-でも、覚悟してるからいいですよ・・』
「美穂さん!美穂さん!あれっ、寝ちゃったのかなー?」
気付くとYの声が聞こえてきました。
「いいですよ・・」
と、おうむ返しに生返事をしてしまったのですが... 正気に戻った私は、「眠くなっちゃったみたい」と言い訳しました。するとYは言いました。
「じゃあ行きましょう!」
「えっ?」
私は思わずYの顔を見てしまいました。Yはニコリと微笑み返すと近代的な建物の敷地へとハンドルを切りました。


 二人の降りた場所は葉山にある近代名画館でありました。煌々と光の差し込む静かな館内で、私の気持ちは返って何か落ち着かないものでした。そして絵に興味あるフリをしながら、Yの一歩あとを付いて行きました。
「美穂さん、絵は好きかな?」
「は、はい。私なりにですが」
彼は私の表情かまわず楽しそうに話し出しました。洒落たスーツを着て大人を感じる今日のYには、先日と違った良さがあって、さらに私を魅了します。
「ここにあるのは版画の絵なんだ。絵と言っても画のほうだけどね」
「はぁ...」
笑ってるYは私を試してるようにも思えました。きっと彼は‘画’って言いたいのでしょう。勘の良さは譲れない私ですが、Yに対しては自分が子供のようでたまりませんでした。風呂敷に包まれた石のような今日の私・・・
「この建物面白い空間ですよね」
私は画の事より素敵だと思った関心をズバリ言ってしまいました。それから、Yは焦らすように笑っていました。私は少し膨れた表情で横を向きました。
「このデザイン、僕がやったんだ。はじめて任された仕事でね。褒めてくれてありがとう」
私は、ひとつの疑問が解けたかの様な心境になり、改めて彼を知りたいという興味に引かれていきました。
『祐一さんクールなんだから。初めからそう言えばいいのに・・でもステキ!。。言えないよそんな事、えっ!!』
横に居たYは、私の手を握ってきました。
「友達だけど手ぐらい繋いでいいよね」
私はこわばっていたのですが、無理に笑顔を作って肯きました。てか、久しぶりのドキドキ感。Yの振る舞いに優しさを感じました。順路を経てロビーまで戻って来ると、入り口の喫茶店でお茶をしました。
「美穂ちゃんの夢は?」
と、Yは聞いてきました。美穂ちゃんと来たか...と思いつつ一歩近付く彼に上手く返事は出来ませんでした。
「別に平和であれば・・」
「・・そう。僕はね、自分の可能性を追求していくこと。自分のデザインを残すというか、世界も視野に入れてる。あっ、今日は仕事の話はしないって決めてたんだった、ははは」
「別に仕事の話でも楽しいからいいですよ(笑)」
「そうそう、「別に」って美穂ちゃんの口癖だよね」
Yはそう言うとさりげなくコーヒーを口にしました。私は言われるまでそれに気付かなかったのですが、納得し、その場は笑ってごまかしました。要約、私の頼んだカプチーノもやってきたので飲み始めました。Yは私の口元を黙って見つめています。私はドキドキするのを隠すかの様に、彼の背後に視線を移しました。Yに対して奥さんの話は禁物だと思いつつ、成り行きの会話で飛び出すのではないかと、私は終始ハラハラしていました。出来ることなら奥さんのことは忘れ、今は私だけを見て欲しい...そう願うがゆえのことです。
 
 名画館をあとに、再びYとのドライブが続きました。昼下がり、海の見えるキャベツ畑に車を止め散歩しました。今度は私から手を繋ぎ、一緒に丘を歩きました。誰も居ない岩場の影で腰を下ろし、しばらく二人して海を眺めていました。この場の雰囲気がそうさせたのでしょう。次第に二人寄り添っていきました。それでも、しんみりするのを互いにけん制し合うかのようでした。Yは時々楽しいジョークを交え笑わせてくれますが、やはり二人きりを意識してる様子です。それでもYは腕を私の肩に廻してきたのです。私がすっかり甘えているのをYは察したのでしょう。私が少し震えてるにも関わらず、彼は澄んだ瞳で見つめます。私はそんなYに言いました。
「祐一さん、ひとつ聞いていい?」
「何?」
「私たち友達でしょ?だから恋人にはなれないんだよね?」
と、思わず出た言葉は意味深でした。そしてYは、私の質問を上書きするようなことを言いました。
「ホントに美穂ちゃんて彼氏いないの?」
「いない。私、奥手だし、暗いから駄目なんだ」
「それは違う。そこが君の魅力なんだよ!黙っていてもいい女。いや、黙っているほうが画になる人かなっ」
「ありがとう。・・・でも初めてだなっ。男の人からそんな言葉言われたの」
そのあとYの視線に気付き、私もYから視線を逸らさず頑張ってました。もしかして祐一さん、私が目を閉じるのを待ってるの?- それに気付いた時には遅かったのです。
「ごめん。僕たち友達だったよね」
「・・・」
やはり試されていました。それに私には返事が出来ない理由がありました。恋心だけならそうしたでしょう。恋の向こう側には彼への愛情があるのです。愛すことは彼を思い、家庭を壊す勇気すら否定されていくものでした。そんな葛藤に問われつつ、もう一度Yにしがみついてみました。座り込む二人のつま先に波が押し寄せても避けることなく、Yも抱きしめてくれました。たぶん動いたら私たちは引き離されちゃう気がしたのでしょう。奥さん許してくださいこんな罪な私を。
それでも時間は動いてました。
「行こうか・・」
「・・うん」
そう言わざるを得ない状況と判断しての返事でした。出来ることならこのまま彼に抱かれて眠りたいです。もう少しすれば先日と同じく駅前で降ろされる事となります。
ところがこんな別れ際の切なさが私に火を付けたのです。もう逢えなくなるのではないだろうか・・私の中でYに対する熱い思いがリフレインされました。

 私は泣いていました。それは漠然的に出る不明の涙なのでしょうか?大好きなYに泣かされた訳でもありません。悲しいとか嬉しいとかでもなく、自分が求めてしまった事に対しての情けなさなのでしょう。初めてYに抱かれた余韻もさることながら、ベッドの上は乱れたシーツ、脱がされた服や下着までも散乱したままの状態です。シティーホテルの無機的な空間に浴室の僅かな明かりがバウンスしています。その浴室にYはいました。私は裸体にバスタオルを捲くと、シーツを直し衣類を畳みました。そして再びベッドに潜りました。
『・・・どうしたらいいのだろう?奥さんを裏切ったんだよ!? ..ワタシ』
薄暗い天井を見つめながらそんな思いに駆られていました。やがてタオルを巻いたYが浴室から戻ってきました。Yは私の気持ちを見透かし、「別に考えることもないよ」と言ってくれたのですが、真面目で純な私は彼の愛人にはなれないという不安を隠しきれませんでした。その時点で私の中では、ひとつの結論を決めかけてました。Yが私の横に添い寝します。私は言いました。
「祐一さんがね、さっき愛人とか言ってたけど私には無理かもしれないの」
私はYを見ました。彼には彼の考えがあるのでしょう。Yはしばらく黙り込んだあと、その考えがまとまったかの様に重い口を開きました。
「僕は妻と別れる事も考えてたよ。ただ・・・」
「ただ?」
「うん。さっきも言ったけど妻には愛がないんだ。よく子供ができると愛情がそっちへ行っちゃうなんて言うけど、子供すらいないのに・・出合って以来そう。彼女の性格なのかなっ」
「もしかしてセックスレス?」
私は微かな声でYに聞きました。すると、彼は吐き捨てるように言いました。
「妻は育ちがいいお嬢さんなんだ。小さな頃から物も理想も何でも手に入ったんだろうね。残念なことに彼女は本当の愛を知らない。僕のことも懸命になって手に入れたものじゃないからね。そう、僕は売れっ子デザイナーという肩書きで買われたようなものさっ」
「その気持ち、わかる気がするわ」
「でもね、3年も一緒に居ると情が生まれてくるもんなんだ。好きも否定できない」
「それは私にはまだ解からないことだけど・・」
「美穂のこともっと知ってもっと愛し合えるのなら別れるよ。でも、ひとつ怖いことがあるんだ」
「怖いこと?」
「ううん、何でもない」
「教えてくれないの?」
「教えてあげる」
Yはそう言うと、悪戯っぽく私の上に乗ってきました。
「もう一度抱きたい・・」
Yとの未来があるのなら、その可能性を生きたい!そんな気持ちを踏まえ、私は目を閉じ言いました。
「愛が欲しい」
Yに髪を触られそして唇が合わさります。こんなに感じたっけ?異常に反応するのも気持ちの問題が解消したからでしょうか。既に私は気持ちだけで感じてしまいました。タオルが取られ、私の小さな身体があらわになりました。暗がりとはいえ見られることに照れて小さくなってしまいます。やがて優しい手が胸の膨らみを包み込みました。私はその最中も彼の配慮を感じてました。やはり相手の性格が出るのでしょう。それにYも私もこんなにHが好きだったなんてちょっぴり恥ずかしい発見をしました。この夜、Yが泊まれないと言うのでホテルを出るYを見送りました。
*今日は素敵な一日をありがとう。祐一さんがとても好きだよ!私のことも思っていてね。おやすみなさい*
これは私が寝る前にYに送ったメールです。もう敬語ではない関係です。ありきたりな言葉を素直な気持ちで送りました。こうして訳ありではありますが、Yとは恋人になりました。 


 次のデートはアフターファイブの横浜駅でした。Yがデートプランは私に任せるというので、憧れのデートコースを幾つか考えての事でした。スーツ姿のYと東海道線ホームで落ち合い、Yを駅傍にあるパスタの旨い店へと連れて行きました。私のシーフードと彼のボンゴレを交換しちゃったり、傍(はた)から見てもまるで恋人同士です。いけない関係なのに・・。Yもこの店には満足して、旨いと言ってくれました。それからYが寄ろうと言ったのが、通りがかりのショットバーでした。アルコールの苦手な私は、唯一飲むことの出来るカクテルやカルアミルクを嗜(たしな)みます。彼も私も煙草を吸わないので、流れてくる煙を気にしてました。お人よしな私はさほど気にはしなかったのですが、Yは神経質そうに、「これ飲んだら出よう」と言いました。私はYに尋ねました。
「祐ちゃんてA型でしょ~?」
「残念。僕はO型だよ」
と、Yは淡々と言います。
「私何型だと思う?」
「君こそAっぽいなぁー」
「残念!ABでした~」
私は楽しく答えました。
「そんな感じかもなっ、はははっ」
「バカにしてる?」
「美穂ってちょっぴり天然っ子だよね」
そう言ってYは私をからかいました。彼の言うことは気になる反面許せちゃいます。その時、Yのケイタイにコールが入りました。どうやら仕事の電話の様子です。
「美穂ごめん!これから打ち合わせになっちゃった。今度また逢おう」
「・・そう、仕方ないね。頑張ってね」
私はそうとしか言い返せずその後へこんでしまいました。至福の時間がぶっ飛んでしまった感じです。Yはお金を置いて急いで私の前から消えました。
帰り道、私は一人暮らしをしてるアパートの前でバイクをいじっている痩せた青年を見つけました。最近私の隣の部屋に越してきた学生で、先日挨拶に来ました。私は青年に軽く会釈をして部屋に入りました。この日の日記には、楽しかったデートを綴りました。ラストに、[彼の仕事への情熱が好き]と添えました。こう書く事で嫌な自分を消し去りたかったのです。
 それからYと何度かデートを重ね、お互いを知り尽くした頃のことです。前回のデートからは半月が経っていました。木々がオレンジに色付いた山下公園を、二人腕を組み歩いていました。
「祐一さんとやっと逢えた」
私は、久々に逢うことの出来たYに照れながら言いました。
「いつも美穂には悪いと思ってるよ」
「そんな。全然平気だよ。私だってそれなりに忙しいから・・」
私は本心を抑え嘘まで付きました。
「なら、いいかっ」
Yは笑ってそう言いました。彼の正直な言動に対し私の偽りは、後々寂しさを覚えます。ただただ今は、逢えた喜びに浸っています。
「駅前に車止めてあるんだ。これからドライブ行かない?」
「うん、行きたい!」
今日のサザンもスローなナンバーです。三浦を走った後、海沿いのホテルに入り久々に抱き合いました。窓から薄暮の空が見えてます。モダンな部屋にカントリーの音楽を流しながら、Yは私を抱きました。ちょっぴり大人のテイストです。終わった後、私はYの手を握りながら気になってたことを切り出しました。
「祐ちゃん」
「何だい?」
「奥さんとはどう?」
「相変わらずだよ。・・実は、妻の親父さんから大きな仕事受けてるんだ。今、彼女と別れたら会社にとっても気まずいことになる」
「そうなんだ・・」
「美穂の事は好きだし、」
「それから?」
「出来れば一緒になりたい」
「私も一緒になりたい」
今回もYは外泊は無理だと言うので、私は時間一杯まで甘えてました。そして近くの駅前で彼の車のテールを見送りました。乗客まばらな赤い電車に揺られ、窓の外の暗闇を眺めながらこう思います。
『神様、私は先の見えない闇の中にいるのでしょうか?真面目に生きてれば願いは叶うものですか?』
いつしか寝付いてしまい、気付くと次は降りる駅でした。新潟市出身の私が最初に就職したのが川崎だったんです。初めて来た時から、程よく賑わう駅前が良く似ていて違和感ありませんでした。住むのは繁華街を抜け民家の並ぶ場所です。小腹が空いたので、パーラー横のコンビニに寄ることにしました。閉店間際のパチンコ屋から、酒に酔った男が飛び出して来ました。勝負に負けたのか、バカヤローを連発していました。(たぶん大当たりの連発なんかしてません) 私はその男に目を付けられると腕を掴まれました。私はとっさに声を出しました。
「きゃっ!」
もう遅い時間なので辺りには誰もいませんでした。
「姉ちゃん、俺に付き合え!おごるからよぉ」
「ちょっとやめて下さい!」
その時、コンビニから一人の男が出て来ると、この事態に気付いたのか走って来ました。
「ちょっと何してるんですかー?俺の彼女に!」
そう言われひいたのか、酔っ払いは私の手を放し去って行きました。
「大丈夫ですか?」
と、ひょろっとした男は言いました。街頭の影で見えづらかったのですが、男は隣に住む青年でした。
「日景(ひかげ)さんでしたよね!? ありがとうございました」
私は丁寧にお礼を言いました。すると青年は言いました。
「女一人の夜道は危ないですよ!俺も帰るんで一緒に行きましょう」
「怖くなったんでそうしてくれるとありがたいです」
「満月の夜って、人も興奮するって聞いたことがありますね。あの酔っ払いみたく」
私は日景という青年に親近感を覚えました。するととんでもない事を彼は口にしました。
「助けたお礼に俺とデートしてください!」
意表衝かれた私は言いました。
「私が?でも彼氏居るんで・・日景さんは居ないんですか?」
「居ます」
「じゃぁどうして?」
「田舎に残してるんです、彼女。でも友達の話だと彼女、浮気してるみたいで・・」
「私と浮気だなんて・・お断りします!」
そして玄関前まで来たとき、日景青年は言いました。
「じゃあ、明日の夜都合のいい時間、俺を呼び出してください!」
「も~っ?・・ほんとに話だけよ !? 」
私はちょっぴり姉貴ぶって言いました。
「もちろんです」
日景青年が心なしか気真面目に思えました。
[ リアルタイムで恋をしている女は強いと思う。-
                -Yと付き合う前は臆病だったのにね。]
ペンを置くと布団に入り、そしてランプを消しました。


 翌日私は仕事からまっすぐ帰宅し、日景青年を訪ねました。彼は私を待っていたかのごとく、直ぐに玄関の扉を開け言いました。
「夜ご飯まだですよね?」
二人で近所の居酒屋に入りました。お酒の弱い私は、酔うと危ないと思いウーロン茶を頼みました。私は、日景青年と向かい合うとちょっぴり緊張してきました。すると彼は気さくに言いました。
「こんなとこに居酒屋ってあったんですね」
「うん、私も入ったのは初めて」
小さな店内を見渡しながら私はそう答えました。
「俺は梁(りょう)と言います。梁って呼んで構わないです」
「あっ、私は美穂です。リョウくんかぁ?どういう字書くの?」
私がそう言うと、彼は学生証を見せてくれました。20歳でした。
「美穂さんて幾つ何ですか?」
「25歳になりました。私、お姉さんですよ!? そー言えば日景って苗字、珍しいよねー?」
私は言うと、彼は肯き答えました。
「親父は田舎で橋の設計をしてます。だから橋梁の‘リョウ’。そんな自分は文系ですが。作家になりたいんで」
「凄いね!でも、バイク好きってイメージだけど」
「バイクは好きだよ(笑)」
「ところで梁くんの田舎って?」
「名古屋ですよ。市内なんで地元って言った方が良かったかな!?」
「私は新潟なの」
「だから美穂さんて色が白いんだね」
地方都市同士の仲間意識が生まれ、会話は和み始めます。梁くんは自分の事を語り始めました。
「実は最近まで姉貴のとこに居候(いそうろう)してました。俺、二十歳を迎えたんで一人暮らししようかと。仕送り貰ってるけどバイトもしてます。それに義理の兄さんにも悪かったし」
「お姉さん結婚されてるのね」
「はい。旦那とラブラブだからなおさら・・」
「そういえば梁くん、彼女さんとは?」
「実は、先日別れました・・相手は結婚してた人で・・」
「・・・」
「不倫はいけませんよね?美穂さん、誰か紹介してください。美穂さんのような人が好きです」
私は梁くんの言葉に胸を打ちました。不倫という言葉にです。私の彼にも妻が居ますなどと口が裂けても言えません。
「どうかしたんですか?」
と、言われ私は首を横に振りました。そして聞きました。
「彼女さん、旦那と別れる気なかったの?」
「最初は別れるって言ってたんだけど」
彼は言葉に詰まり黙り込んだあと、話を続けました。
「所詮無理な話なんですよ!彼女には子供が居るし。終いには「遊びだったかも」なんて言われ俺も傷ついたんで」
梁くんはそう吹っ切るように言ったあと、店員を呼んでサワーを追加注文しました。そして飲んだこともないと言うジンも飲み干し、店を出る頃にはひどく酔っぱらっていました。どうやら私は梁くんのやけ酒に付き合ったようです。でも、彼は私の思っていた通り、懐っこく好感の持てる青年でした。私は弟のような梁くんの腕を支えアパートまで戻りました。
「気持ち悪いっ」
玄関まで来たとき梁くんがそう言うので、私は彼の部屋に上がり布団に寝かせて帰ることにしました。決してヤボな男ではないと確信していたからです。
「美穂さんありがとう」
彼は布団の中から私に礼を言いました。
「お大事に」
私は言うと靴を履きます。ふと、あるものに気付いたので思わず梁くんに尋ねてみました。
「これ、サザンのCDだね!好きなの?」
「好きになりました。義兄さんからの借り物です」
「そっ。私も最近好きになっちゃったんだぁ」
「あの~、日曜に姉貴夫婦が来るんで紹介します」
「それは遠慮します」
そしてドア越しに梁くんに言いました。
「私、梁くんの彼女ではないから。・・ごめんなさい」
丸くうずくまる青年に、優しく出来ない自分が腹立たしくもありました。
『ごめんね、梁くん。ほんとうにごめんね・・』
心の中でずっと呟きます。彼の下心を感じていたからです。
 自分の部屋に戻り一人になると、私は反省しました。私には大好きなYが居るのに、これ以上梁くんと仲良くなってはいけないんだという事です。例え友達だとしても、距離にしたらあまりにも近すぎます。ひと段落ついてからバッグからケイタイを取り出してみると、Yからのメールが届いていました。やはりYからのメールにはわくわくします。しかしそれは、次のデートが出張になりキャンセルというものでした。私は、**お仕事、頑張ってね!次のデートまで我慢します。 I love you1 おやすみなさい**と返信。それから寝ることにしました。こういうメールが来ると淋しさが募ります。淋しくなるとあれこれ考えてしまう私。無性に彼の声が聞きたくもなります。奥さんの手前、彼のケイタイにすら自分からは電話できないし・・。私にとっての恋愛って切なくて辛いのです。寝付く頃、ふと、勘のいい私は大変な事に気付きました。飛び起きると寝巻きのまま靴を履き、そして日景梁のインターホンを鳴らし続けました。やがてインターホンに出てきた梁くんは、相手が私と知ると直ぐ行きますと返事をくれました。
「ごめんなさい!」
私が慌てて言うと、彼も驚いたように私に聞きました。
「どうしたの突然!?」
「梁くん、この人知ってる?」
私はそう言って彼にケイタイの画像を見せました。

「いやー、知らないです。この人、誰ですか?」
梁くんは言うと私はホッとしたと同時に弁解してました。
「やっぱそうだよね。あり得ないもん。うん、この人は知り合いで、さっき梁くんの義兄さんサザンの曲が好きだって言ってたから」
「俺の友達にだってファンはいますよ(笑) 義兄さんだと思ったって・・??」
「それは・・・」
咄嗟な私には妥当な言い訳が浮かばなかったのです。
「わかった!この人彼氏でしょ~?いいんです隠さなくても」
「まぁ、そんなとこかも。でも独身だからね!私どうかしてるね」
「本当?まぁいいや。ちなみにうちの義兄もっと怖い顔してますよ。ボクサー目指してましたからね」
「へ~そうなんだ」
「美穂さんの彼氏さんてたまに来るんですか?どんな人かなー?」
「彼のおうち遠いいから中間で逢ってるの。それに紹介だなんて・・」
「すいません。これじゃストーカーだよな」
梁くんは苦笑いして言いました。
「梁くんカワイイから直ぐに彼女さん出来るよ!あ、こんな格好でごめんなさい。帰るね、おやすみなさい」
部屋に戻り頭の中を整理してみました。梁くんの義兄がYと思ったのは私の早とちりでした。そんな偶然ってあり得ないですよね?


 実はその後、私とYとの距離が遠くなっていったのです。多忙なYでもいいと思っていたのに、好きになるほど淋しさは拭(ぬぐ)え切れません。
 X'masのイブイブに私はYと逢いました。彼の都合で今年最後のデートになると言われてました。その日は平日だったのですが、午後休を取りお洒落して待ち合わせの鎌倉駅へと向かいました。私は冗談半分で、Yに婚約指輪が欲しいと言ってたのですが、プレゼントの中身はブランドもののバッグでした。それを知ったとき、心の中ではYの愛が他に行ってしまった様でなりませんでした。私に飽きたの?だろうとか、他に恋人が出来たの?とか・・もしくは奥さんと上手くいくようになったのでしょうか?
問う事もなく私は彼と葉山のホテルに入りました。私がシャワーを浴びている間、Yは仕事の資料に目を通していました。その時、自分なりの答えが出ました。Yは女にではなく仕事に恋しているのです。もしや?と思い、Yがシャワーを浴びてる間プレゼントを開封し、バッグの中に指輪が入ってないかを確認したのですがやはりありませんでした。求め過ぎなのは解かっていますが、その気があるのなら自分の気持ちに応えて欲しかったのです。Yはシャワーから出て来ると、ベッドの私と添い寝しました。いつもなら私が先に彼に触れるのに、私がじっとしてたので彼が私の手を握ってきました。Yは何となくいつもと違う私に気付いている様子でしたが、やがて私の体を愛撫し始めました。その右手が下に行った時でした。
「ねぇ、私たちって本当に愛し合ってるの?」
私は我慢できずその最中に言ってしまいました。Yは手を止めしばらく黙り込んでしまいました。
「好きだけど愛しているかは判らない」
Yから出た言葉です。そして私の横に寝てからYはこう言いました。
「美穂は女の子だから、僕ではない他の男(ひと)がいいって思うんだ」
「女の子?」
「淋しがりやだろ?君の場合、愛したいよりも愛されたいんだなぁって・・」
Yに言われ、私は自分の求める愛に気付きました。
「うん、女なら愛されたいかも知れないね」
と、私は答えました。そして彼は言いました。
「僕は妻の事そっけない人だって言ったよね?所詮自分も仕事に夢中で似たもの同士だったんだよね。夫婦としては上手くいってるんだと気付いた。愛の形って言うのか・・。けれど欲張りな僕は、君と居る時のような愛の形も求めてしまった。」
「もしかしたら奥さんも、そんな愛の形を求めているかも知れないわよね」
私は言いました。Yは肯いていました。彼はどうしたらいいのか?という目で私を見ました。
「祐一さん、最後に私を抱いて?」
私はYの目を見て言いました。しばらく彼は黙ったあと、私に優しくて甘いキスをしてくれました。初めてした時のキスを思い出させます。私の要望も満たされ、そして恋も終わりました。最後のドライブで聴くサザンのバラードは切ないのですが、私からある曲をリクエストしました。陽もすっかり沈んだあとですが、始めてドライブした時をもリワインドするかの様に海沿いの道を戻って行きます。‘真夏の果実’を聴きながら左手に広がる湘南の海に、三ヶ月前の出会った頃のTシャツのYを思い出しています。隣にいる今のYとは違う気がします。
 そしてYとは駅前でさよならしました。別れ際、「大人のあなたと恋できて幸せでした」とYに伝えました。クールに見えるYだってきっと辛いんだと思います。彼の前では不思議と涙が出なかったのですが、部屋に戻った途端Yへの想いに涙が止まりませんでした。Yはもっと前から二人の‘愛の形’に気付いていたのでしょうね。本当に好きでした。
翌X'masイブに、私は梁くんをデートに誘いました。さりげなく持つバッグはYからの贈り物ですが。
車の多い川崎の沿道を歩きながら私は梁くんに言いました。
「ねぇ梁くん?私が働くから絶対いい小説書いてね!」
「え?聞こえなかったからもう一度言ってください !!」
「貧乏でも愛があればいいよね!って言ったの!」
それを聞いた梁くんはマジに答えました。
「俺が有名になって美穂さんを幸せにしますよ!」
それから梁くんと私は恋に落ち今でも愛し合ってます。Yが言ってた「愛の形」を大切にしながら。それは私には「愛の意味」と捉えています。そんなYとの出来事は心の中にしまってあります。そうそう、最近梁くんから‘陽気なエリー’と呼ばれていますよ☆  *終わり*
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プロフィール

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Author:POPSTAR
HN: POPSTAR
東京都出身、横浜市在住
趣味:写真撮影、音楽制作、作家活動、野球、ドライブ、飲み会(笑)ほか多数・・・
『愛ラブYOU』では短編小説を中心にアップしてます。感想などお待ちしてます!!
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