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秋のS.L.S.③ シルビアの恋 | main | 秋のS.L.S.① 「逢いたいよ」
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秋のS.L.S.② 紙ひこうき
♪音楽の演出としまして、右バー下より「きらきら星変奏曲」を選択願います。
  
「ほら~早くしないと始まっちゃうぜ!こっちこっち」
映画館に着いたもの広い場内、十番の扉まで辿り着くのも容易ではない。上映時間を五分ばかり過ぎ、予告も終わるかの瀬戸際だった。女子大生の志麻(しま)は、こんな篤志(あつし)に付いていくのがきつかった。先日の旅行では、一日に7箇所も名所巡り。彼が貧乏性なのか意欲的なのか付き合って3ヶ月経つが判らない。志麻にとって生まれて十九年目にしての恋人。こんな事なら、心から欲していた彼氏が出来たのも善し悪しだと思うこともある。それに淋しがりやの上、ほっとかれると無性にも辛くなる。映画が終わり外へ出ると、辺りはすっかり暗闇に覆われていた。
「こんなんじゃ~少し運動しないといけないなぁ」と、篤志が言った。
「どうせ太ってるもん」志麻はいじけて言った。
「そうじゃなくて、前向きにさぁ」篤志はため息をつき、志麻の手を握ると黙って歩き出した。
『ごめんなさい・・』志麻は心の中で謝った。

 十月の乾いた空気の中、志麻は篤志と二人バスに乗り、とある埠頭の公園で海を見た。遠くに空港が見える場所だ。
「俺、飛行機が好きなんだ」
志麻はそう言う篤志のきらきらした子供のような目を、脳裏に焼き付けていた。
「私、来月で二十歳になるの。記念に旅行いきたいな」と、志麻は言った。
「いいね~でも夏休み行ったばかりじん!」
「旅行には違いないけど、鎌倉でしょ?」
そう答えると二人は笑い合った。
「島に行ってみたい・・」志麻は言った。
それからしばらく考えていた篤志が言った。
「三宅島に行こうか?」
「あの、いつだったか噴火した三宅?」
「今はもう観光客も入れるらしいし」
「うん」

 十一月最初の土日を利用して二人は記念旅行に出掛けた。羽田から小さなジェット機に搭乗した。志麻はいつになく機嫌のよい篤志にわがままを言い甘えていた。その訳は、彼が大好きな飛行機に乗れることだった。篤志は窓際の席で滑走路を眺めていた。やがて離陸した。志麻にとって、初体験の飛行機がこんなにも角度を上げ浮いていくのに感動をするのだが、上下に揺れた時には思わず彼の手を掴んでいたものだった。1時間ばかりすると、目の下に円形の島が見えて来る。島の先でターンするとジェット機は高度を下げていった。二人は島の地を踏んだ。バスに乗り北上していくと、海岸線の開けたビーチに出た。
「さっき飛行機から見えたから着てみた」と、篤志は言った。
「うん、いい場所だね!」志麻は答えた。
「これ聴けよ!」と、彼から渡されたヘッドフォンの片方を耳にした。それはピアノの美しいメロディーだった。
「篤志ってこういうの聴くんだ!」
「あれはダイバーかな?」篤志は照れたようにそう言った。
三宅島はダイバーの多い観光島として有名だった。昼下がり、近くの喫茶店でランチを摂った。店の中では少年が、紙ひこうきを飛ばして遊んでいた。
「東京からですか?」店のおばさんが志麻に話しかけた。
「はい、世田谷から」志麻は笑顔で答えた。
「私たちも噴火のとき東京は三鷹でお世話になりました」
「あ、近いですね!それにしても、この島はのんびりしていていいです」
その間、篤志は少年に紙ひこうきの飛ばし方を教えていた。

 翌年、飛行機好きの篤志は意を決し、航空自衛隊に入隊した。そんなに逞しい性格だったなんて、志麻には思いも寄らなかった。しかし彼は訓練に耐えられず、志麻に泣き言を漏らすこともあった。そんな篤志が訓練中事故死したのを知ったのは、TVニュースからであった。何日も何日も志麻は号泣した。

 三十歳を過ぎていた志麻は、ステージでソロピアノを弾いていた。それは美しいメロディーだった。定番『エリーゼのために』のあと、初めて志麻はマイクを取った。
「最初に付き合った恋人が私を変えてくれました。その彼の意欲って、とっても凄いものでした。私はその彼の影響でピアノの曲が好きになり、自分には弾けないと思っていたピアノを習い始めました。そして今、こうしてライブをしています。最後に、彼に聴いて貰いたい曲を弾きたいと思います。乙女の祈りです」
志麻は紙袋から何かを取り出すと、それをグランドピアノの上に置いた。紙ひこうきだった。決して涙なんか流さなかった。そこにはいつか見た篤志のきらきらした子供のような目があった。

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

| 恋愛小説 | 21:57 | トラックバック:0コメント:2
コメント
いろいろ読ませていただいていますが、こんな短編で美しい情景、純粋で切なくとても女性に優しい篤志、篤志をひそかに想う志麻、三宅島での二人の思い出、飛行機が好きなばかりに航空自衛隊に入隊、そして突然の訓練中の事故死を知ってしばらくして志麻がピアノを弾く前に話した恋人のことを話す挨拶、決して泣かずに、しかしピアノの上に紙飛行機がという場面がかえって悲しみを深めていてPOPSTARさんにもう絶句です。
短編で読み手の心を揺り動かすというこれだけの情感を持って書かれるなんてすごいです。
僕も努力してますがあんな長編でないと人を感動させられないなんてああ、情けなと思います。
2006.11.29 Wed 22:36 | URL | ヒロクン
ヒロクンさんへ
いやいや、何をおっしゃるんですか!

確かに今の自分は不思議と話が書けてしまうのです。何を書こうかテーマもなく、最初の一言で書いてます。アドリブ小説と自分で言ってたり...笑

逆に私の場合、長編を書くのは苦手なのかも知れません。これは短編というかショートストーリーでしょうね。

優しい男が多いですね^^;...でないのもあるかも知れないですが。
どれでも一つ読んだ人が私の作風がそれで分かるとは思います。

実はこの辺のコメントどなたからもないので、どうなのかと思っていました。読んでくれてありがとうございます!
2006.11.29 Wed 23:04 | URL | POPSTAR
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