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麦わら帽子 ~第二話 祐美の思春期~
麦わら帽子 第二話

        作/POPSTAR イラスト/黒咲さん

 岡谷祐美(おかやひろみ)は、幼くして母を亡くした父子家庭に育ち兄弟もいない。「1歳になる頃まで祐美はお母さんに抱かれていたんだよ」と、父から幼稚園の頃聞かされた覚えがある。祐美が「一緒に写っている写真が見たい」と言うと、「お母さんの実家にあるんだ」と父は渋々答えた。母の両親は父を嫌っているようだが、私には母の子だということで良く接してくれた。父と母は隣県ながら、お互い行き来しながら逢っていた。そして母親のお父さんの反対を押し切り十代で同棲を初めたことで、結婚を認めないと言ってきたらしい。式を挙げずに母が二十歳を迎え籍を入れたという。

 祐美は反抗期になっても父親に背を向けることはなかった。その背景には、自分の気持ちを誰よりも理解してくれる父のことがとても好きだったから、と祐美は思う。ただ、長かった髪をばっさり切ってボーイッシュな雰囲気を漂わせるようになってから、自分でも自立していく様相を感じていた。
 三年生に入ってから、石和(いさわ)という男子が自分のクラスに転校してきた。二年生から組み替えもなく穏やかな日々に異変が起きたのは彼の存在からだった。祐美は育ちの良さそうな風貌の石和君に想いを寄せ始めた。成績も良く、スポーツも万能だ。矛先にはいつも彼のことが頭にあった。しかし彼を思う女子は何人もいて、到底叶わないとも思っていた。
 石和君が他の子と仲良く喋っているのを見たときには、その嫉妬から逃れられなかった。それでも彼が机に着き自習を始めるのを見ると、萎縮していた胸のときめきが膨らんでいった。親友・広瀬沙耶(ひろせさやか)も彼を絶賛していた。清楚な彼女であるなら彼を射止めることができるだろうと思ってもみた。沙耶は女子からも憧れの存在で、聡明かつ美貌であった。反面、その事実に反するかのようにシャイなのである。そう祐美は理解していた。

 ある時期から石和君は祐美に目配せしてくれる様になった。祐美は誰からも話しやすいと言われるくらい垢抜けていたのだが、石和君に対しては上手く話せずもどかしかった。その彼が一緒に帰ろうと言って来た時、祐美は掃除当番の沙耶を置いて帰ることにした。
「石和君!マック寄っていかない?」
 と、祐美は勇気を出して言ったのだが、石和君からは予期せぬ返事が帰ってきた。
「いいけど。広瀬さん待たないでいいの?」
「うん、沙耶掃除当番なの・・・」
 と、祐美は落胆しつつ石和君に、「待った方がいい?」と聞き直した。
「いやっ、いない方がいいかも知れない」
 と、石和君は曖昧に言った。祐美は、その言葉に期待した。
 ファーストフード店に入った二人は、幾つかのテーブルで戯れる高校生に圧倒されながら隅の席を見つけると、そこに腰を下ろした。祐美はまずコーラーに手を付けた。喉が渇いていたからだ。石和君が話し掛けてきた。
「今日、三輪智史(みわさとし)が田村に虐められているのを知って田村にやめろと言ったんだよね。あいつ、女々しいとこあるけどいい奴なんだ。ただ、父親が他に女作って出て行ったらしくて・・・」
「あっ、その噂本当だったのね」
「その噂ってやつ、田村が言いふらしてたんだ。俺と三輪、共通の趣味で仲良くしてるんだけどね」
「趣味??」
「パソコン。ホームページの作り方とか教えてあげてる。逆にあいつからはピアノを教わってるんだ」
 三輪智史は男子なのにピアノが弾ける。「男子なのに」と言うのは偏屈ではあるが、大抵習い事でピアノと言うと女子のイメージを持つものだ。三輪の母親はピアノ教室を開いていると祐美も知っていた。
「へぇ~」
「その三輪なんだけど・・・どうやら岡谷さんのことが好きみたいだよ」
「私は・・・」
「何?」
「何でもないよ!」
「そっか。実はその、俺、広瀬沙耶に告白しようか迷ってて。でも言いづらくてさぁ」
 祐美はその彼の言動に落胆すると共に失望した。
「そうだったんだ。・・・それじゃ私から聞いといてあげようか?」
「そうして貰えると嬉しいかも」
「うん。それから三輪君のことなんだけど・・・唐突過ぎて考えられないの。ごめん。じゃわたし帰るね!」
 そう言い残すと祐美は席を立った。苦い思いを噛みしめながらその場を脱した。憶測だが、彼は哀れな私に気付いていない。それもそのはず、自分は素直な気持ちを彼にぶつけていないのだ。そして彼は沙耶との仲介を期待しているであろう。祐美は思う。

 自宅に帰る途中涙がこぼれてきた。失恋の痛みはやはりあったのだ。自宅のアパートに着くと何故かほっとした。ふとぼりから醒めると、父がいつもご飯をあげている小さな仏壇の前に立っていた。その引き出しには、痩身で美男子な青年と、少しふっくらした顔で柔らかい目をした母の、仲良く寄り添う写真が入っていた。その青年というのは若き頃の父であるのだが・・・祐美は淋しくなるといつもその写真を眺めた。
 (私はこの二人に愛された結果この世に生まれてきたんだ)と、安堵してみては時折、今の父の寂しげな後姿に同情することさえあった。この日、初めて母の位牌を手に取った。
 (あれっ?) そこに刻まれた命日は祐美の生まれた誕生日であったからだ。驚愕と同時に唖然とし、もしこの日が一日でもずれていたのなら私は母の子ではないのだろう?とさえ悟ってもみた。祐美は戸惑いながらも冷静に考えてみた。柔らかい目をした女性は、本当に肺炎を起こして死んでいったのか?難産の末自分の命と引き換えに命を落としたのではあるまいか?まだ中学生の祐美であるが、そう推測し察することが出来た。
 夜の帳がおりる。もうすぐ父が仕事から帰って来る。祐美はご飯を炊き、サラダと味噌汁を準備する。これは中学生になってから自発的に始めた家事だった。父は祐美が飽きないよう魚や肉、惣菜など選んで買ってきてくれる。祐美はその夜、母の本当の死因を確かめたいと思うと、心の揺らぎを抑えながら父の帰りを待ち望んだ。

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| 恋愛小説 | 04:33 | トラックバック:0コメント:9
麦わら帽子 ~第一話 恋の双曲線~
麦わら帽子

        作/POPSTAR イラスト/黒咲さん


 古本屋で買った文庫を開きながら、私は妻・麻子(あさこ)とよく見た沿線の風景に目をやった。数え切れないほどこの沿線を二人で行き来したことを思う。

 二十代後半、私は当時高校生の麻子と出会い恋をした。それまでに恋愛は幾つかあった。その中でも度々ぐれていた彼女には世話がやけたが、それくらい愛を求めている麻子にはまっていった。
 初めはどう接したらいいのか分からなかった。彼女も年上の私に遠慮しているかのように思えたからだ。歳の離れた兄妹のように接していたのも束の間、麻子が成長するに連れ台頭な関係になっていった。麻子は西の漁港町に住んでいて、そこは特急でも一時間は掛かる場所だ。私はよく彼女を鈍行で、途中駅まで送って行ったもんだった。

 鉄道車両も新型になり、モーターの唸る音は今ではしないくらい静かな車内である。クーラーが効き冷気が身体を包み込んでいた。
「お父さん、大丈夫?」
 そう訊かれ、私は裕美(ひろみ)といる現実という時間に引き戻された。裕美は十六歳になる私の愛娘だ。咄嗟に私は、
「何でもない」
 と否定したもの、物思いに耽って見えるのだろう。
 二人でお母さんの故郷に行こうと行っていたのに、私は途中駅で裕美の手を引くと、北西へ伸びる路線へと乗り換えた。向かい合って座る座席で有無を言わず、裕美は澄んだ目で私を見つめ続けた。そんな娘に私は言った。
「お前、あの頃のお母さんにそっくりだ」
「私のお母さんに?逢ってみたかった・・・」
 裕美の口からこぼれたセリフがずっと頭に残ったまま、私は高原のある駅で降りた。
 ホームに降りた時、子供の様な麻子が一瞬目の前に見えた。
「ここで写真撮って!」
 と言う麻子を思い出した。それは彼女がまだ十代の頃であった。
 私には過去を忘れられずにいる苛立ちを消したいが為、娘と思い出を共有しようなんていう甘い考えがあった。それは現実逃避に過ぎないのかも知れない。
 裕美は見覚えのある麦藁帽子をバッグから取り出すと被ってみせた。それは麻子にプレゼントしたもので、箪笥の奥にしまってあった。思わず私は裕美に言った。
「なぁ裕美。この看板の横に立ってくれないか?」
 私はショルダーバッグのポケットからコンパクトカメラを取り出すと電源を入れた。
「写真撮るの?・・・わかった」
 裕美は笑顔を作ると、駅名の入った看板の横に立った。写真を撮り終え裕美が言った。
「綺麗に撮れた?!」
「可愛く撮れてる」
 そう言ってデジカメのモニターを見せた。そしてベンチに腰を下ろし、バッグから一枚の写真を取り出した。そこには少し色褪せた麻子が写っていた。決して自分とは似つかない母の写真を見て裕美はいつも首を傾げるのだが、この写真を見たときには違っていた。それにこの麦藁帽子を被っている。
「そっくりだ」
 私は言った。裕美も肯いた。言葉に詰まる程その笑顔は似ていたのだった。
 私は暫く、裕美が母親の麻子から生まれると同時に亡くなった事実を自分の口から話せなかった。母親の命日が誕生日であること、一度も母乳を吸わずに育てられたこと・・・

 嘘を付くのにも限界が来ていた二年前のことだった。私は居間にある小さな仏壇で花を換えていた。
「お母さん私のこと産んですぐ死んじゃったんだね」
「えっ?すぐ死なないさぁー」
 私は娘の言葉に驚き、オウム返しに言ってしまった。
「位牌・・・」
 私は息を呑んで裕美の手を握り締め言った。
「気付いたんだね・・・」
「何で今まで隠してたのよ!」
 そう言って娘は私を振りきり、自分の部屋に篭ってしまった。
 一晩が経ち、娘が私の前に現れ、
「ごめんなさい」
 と一言告げると学校へ行く準備を始めた。その行動パターンも母親とそっくりだった。優しさや配慮が分かっていても、嘘を付かれることがまず嫌いなのだ。

 私は自分の再婚や恋愛さえ忘れ、仕事の傍ら、麻子の分身である裕美を大事に育てることに専念した。男手ひとつ、役不足を察し実家に戻ったものの、思い返して一人暮らしをして短かりし結婚生活もした町へ戻ると、娘と二人きりで暮らした。裕美が小学生に上がる年だった。それから十年が経っている。

 真夏の昼下がり、トンボの飛び交う高原に着いた。やはり住んでる町よりも空気が乾いているようだ。時折風が吹くと涼しい。集落を見渡すベンチに座ると裕美は私に言った。
「お父さんに話があるの。聞いてくれる?」
「何だよ急に?!」
「言いにくいな。・・・わたし彼氏出来たの」
 父親の私には衝撃的なことだった。けれどこうやって変わらずに、娘は父に付き合ってくれている。半面、大人になろうとしている。脅威にも寂しさを感じる私には、ひとり娘に委ねる部分があるのだろう。
「そうか・・・」
 その言葉は虚しく、私は娘に裏切られたような思いで一杯だった。その時の気持ちは、たぶん麻子の父親から激怒された過去を伺わせるものに等しかったのだが、自分がしてきたことを照合させると怒る余地もなかった。ただ十六歳が故、安易な扱いを受けては困ると思った。
 裕美は言った。
「彼、高校行かずに働いてるんだ。貧しいから・・・」
「・・・」
「彼と私は似たもの同士、ってことだけ言っとくね」
 何が似てるんだ?とも聞き返さず、私は自分の殻に篭ってしまった。そんな人間が親なのに子は育つもんだと思う。

 高原から下る途中、私は気になり出したことを娘に尋ねた。少し間を置いて裕美はしっかりとした口調で言った。
「彼と逢って下さい。・・・あと、彼のお母さんにも逢って下さい。もし気に入ったら・・・あっ、きっとお父さんのタイプだから・・・」
「お前何が言いたいんだ?」
「朝子って言って、でも字が違うけど、お母さんにしたい人。私、お母さん欲しいもん!」
 それは裕美が今まで一度も口にしなかった言葉であった。
 (逢ってみようか・・・)私が心で思った時、裕美の被っていたリボンの付いた麦わら帽子が、風に吹き飛ばされ空高く舞い上がった。そして近くの川に落ちていった。
 ゆっくり下流へと流されていくその麦わら帽子を、追うこともせず、二人で見送っていた。

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| 恋愛小説 | 11:45 | トラックバック:1コメント:6
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東京都出身、横浜市在住
趣味:写真撮影、音楽制作、作家活動、野球、ドライブ、飲み会(笑)ほか多数・・・
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