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悠なる希望 ~雪が溶けるように~
悠なる希望

*この物語のBGM(右下)「愛の夢」推奨です。また、好きな音楽で演出してみてくださいね。

(回想と説明)
 福島は浜通り。山からの冷たい風が吹き降りている。浜通りというのは、気象上の特性から分類されてのこと、太平洋に面する県の東部を指す。福島市や白河といった内陸部が中通り。そして磐越から新潟までの範囲が会津地方となる。その太平洋側、原ノ町の駅から小さな商店街を歩いて行くと古いアパートがある。そこに姉妹二人が暮らしていた。美菜(みな)は美人で性格もよく、ОL時代は東京に出て一人暮らしをしていた。男性からだけでなく女性からも好かれる姉さん肌だった。しかし、いい男と思い付き合ってきた男たちがダメンズで、失望するばかりであった。一方、三つ違いの妹 里美(さとみ)は十年前に彼氏に振られ自殺未遂をする。姉は妹の惨事を知って東京から急遽田舎へと戻る。そしてその十年の間に相次いで老いていた両親が亡くなり、残されたのが二人の姉妹であった。10代から心の病を患い働けない里美に、美菜はスーパーとスナックの掛け持ちで家計を守った。その絆は太く微笑ましいものだ。しかし、この町で一生を終えるのは美菜には耐えられなかった。そして新年を迎えたばかりの清々しい空の元、姉妹が東京への生活へと出発する場面からのスタートとなる。美菜、39歳独身だ。美菜は実家の家財を殆ど処分した。残した荷物も二t車一杯分、料金も安い業者を選んだ。その荷物も里美が捨てられないものばかりだった。母が最期に残した財産は100万足らず、親戚も少なくひっそりと行われた葬儀も遠くはない過去だ。

(本 編)
 悪酔いするかの様に揺れる引越しトラックの中で、地元を離れたことのない里美は言葉少なくしんみりとしていた。膝元に大事そうに持っているのは、死んだ両親との思い出のアルバムである。一方、シャネルのバッグを抱える姉。さすがの美菜も、無職からスタートする生活には不安を持っていたが、決して顔には出さなかった。二人の乗ったトラックが両親の眠る寺の横を過ぎ去る。妹の目から涙が流れ出した。美菜はそんな妹に言った。
「里美?また来月お母さんの三周忌にくるからさっ」
「わかってる。・・・お姉ちゃん、いつもありがとう」
美菜の身長が170センチに対し、里美は150センチ。里美は地味な顔立ちの田舎娘。とても同じ親から生まれたとは思えない。性格だって涙脆く傷つきやすいのが里美であった。凛とした美菜が抱く理念は、そんな妹に素敵な結婚相手を見つけ幸せになって貰いたいということだった。東京に出れば何とかなる。そんな希望を抱いていた。それに美菜自身、妹のため十年間自分の幸せをも犠牲にしてきたのだ。もうすぐ40歳を迎えてしまう・・・それでも人生に後悔などしていないし焦ってもいない。ケータイの着信ランプが光った。
『彼からだわ』新しい彼氏が出来たことは妹には話せなかった。妹 里美は、22歳で初めて出来た彼を四年間愛した末に振られた傷、そして綺麗な思い出まで、十年経つ今でも背負っているのだ。美菜はケータイをバッグにしまうと、ちらりと妹の顔を見た。ほのかな化粧ではあるが、不器用にもアイシャドーだけが濃すぎる。
『まっ、仕方ない。前よりはマシか…』
トラックの前シートには、引越し業者の男が運転手含め二人いた。助手席のおじさんが二人に振り向き言った。美菜にしてみれば‘おじさん’と言える立場でもないのだが・・・
「お姉さんたち彼氏いないの?」
その言い方に、美菜はいやらしさを覚えた。咄嗟に里美の手を握るのは母性的な反応だろうか。
「います。二人とも旦那が」
出た言葉は、経験多く頭のいい美菜だったからかも知れない。もし里美一人だったら、男に何されるかだってわからないのだ。そんな世の中である。
「残念だな~」
それ以上続けなかったのは美菜の冷たい視線を感じたからだろう。

 新居はキッチンとベッドルームの敷金礼金の要らない賃貸アパートだった。それも運よく新築である。引越し業者が去ると、少し西向きの窓から夕陽が差し込んできた。
「ここから私たちスタートしようね!」
美菜は妹に元気を振り撒いた。
「お腹空いた」
里美は子供の様に姉に言う。
「体調どう?よかったらこの辺の美味しいお店探してみようか?片付ける前に腹ごしらえしなきゃね!」
美菜は里美に言った。
「うん、行きたい!」
里美はニコリとして元気な言葉を返した。

 美菜が里美と東京へ出ようと決めた理由の一つに、彼氏の存在もあった。その彼とはまだ数回しかデートしていなかったのだが、彼を信じてみようと思った。彼 敦彦(あつひこ)とは同じ歳だった。ОL時代、取引先の商社マンだった敦彦に美菜は告白されていた。商社とは言え小さな会社で、当時彼は平(ひら)だった。その時美菜には付き合っていた彼の手前、敦彦の告白を断る過去があった。敦彦は美菜が出会う男同様、ルックスの良さがある。

 越した翌日、二人は早速デートした。スーツの似合う彼は、やはりスーツで決めて来た。そもそも会社帰りなのだ。背の高い美菜は180センチある彼とお似合いだ。美菜は、自分に必死な彼の視線を感じていた。最寄駅近くの阿佐ヶ谷のレストラン。二人はテラス越しのカップル席に着いた。美菜はバニラ色のコートを脱ぐ。表れたのはダークな身なりで、雰囲気も一見して様変わりだ。
「美菜って呼ばせて貰うよ。いいかな?」
そう敦彦が言うと、美菜は微笑み返し言った。
「課長になるなんてね!オメデトウ、敦彦」
自分も呼び捨てされ、関係が深まったことを確信したかの様に敦彦は言う。
「ま、小さな会社だからね。それはそうと、いきなりなんだけど。俺のとこで暮らさないか?」
「ありがとう。でも・・・」
「でも?」
「ごめんなさい。妹がいるし、」
「妹さんだって一人の方がいいんじゃないの?彼氏だって呼べるだろうし。そうだ、今度三人で食事でもしよう!いいね?」
敦彦は楽しそうに言う。美菜は黙って微笑み返すだけだった。
「この間、新車買ったんだ。駅前に止めてある」
「あっ、今日は帰らないといけないから、」
「そりゃぁ残念だな~」
「その代わり、今度ドライブ連れていってくださいね!」
美菜は愛想を振る舞う様に言った。
「あ、あぁ・・絶対にだぞ!」

 美菜は新宿の駅ビルにあるブティックで働くことに決まった。稼げるクラブやスナックなどの水商売も考えていたが、敦彦の反対で取りやめた。好きな敦彦に対しても実はまだ、半信半疑であった。ただ美貌だけで惚れているのではないのか?本当に私の内面を見てくれているのだろうか?ということ。美菜の男性不信は、中身の無い男たちに呆れた結果なのだ。

 里美は今度こそ前進したいと希望を持ち直した。いつもそう思っては、身体の不調同様、気持ちさえ沈んでしまうのだ。晴れた近所を散策してみた。目に付くのが人、人、人・・・。洒落た服に身を包み、足早に歩く人ばかりだ。都心に出ればもっと凄い光景である。塞ぎこんだ時にはとてもではないが外になんて出られないだろう。そんな中、公園で老人が長閑に日向ぼっこしているのが目に付いた。私はこの老人と同じなんだ。そう思う。
「あっ!」
悲観していると目の前を凄いスピードで車が通り過ぎた。驚いた里美はその場に座り込んでしまった。その時、里美と同じ年くらいの男性が声を掛けてきた。
「平気?あんたもボーッとしてたらいけないよ!気を付けないと!」
何てぶっきらぼうな言い方なのだろう。その男性は里美に手を差し出した。里美は首を振った。それでも男はその手を引っ込めることなかった。仕方なく里美は手を伸ばし、彼に手を引かれ立ち上がった。男の顔が笑顔になった時、自分の中にある素直でない気持ちが溶けていった。
「ありがとうございました」
「うん、気を付けないとな」
「最近田舎から出てきたもんで・・・」
「ま、東京はこんなとこだ。君、お腹空いてない?」
男性は持っていた包みを差し出し、笑顔で言った。
「たい焼き、あげるよ!」
「いいんですか?」
「いいよ。ね、家は近いの?」
「近くないです」
天邪鬼な言葉が出てしまった。それには、いきなり家に来られても困るからだ。男性は、そんな里美の心境を察したのか、何も言わず歩いて行ってしまった。クールな人だなぁ。里美はそう思いながらも貰った包みを開け、中身を確認した。やはりたい焼きだった。

 夜になれば寂しい気持ちが込み上げる。新しいクリニックの先生と話をした昨日は、とても気持ちが落ち着いたのだが・・・。
夜の10時を廻り姉が帰って来た。美菜は買ってきた弁当を二つ並べ、冷蔵庫から冷えたウーロン茶を出した。
「やかん買って来ないとね!里美も温かいお茶の方がいいでしょ?」
「私はどっちでも」
姉に何もしてあげられない里美でも、今日は褒めて貰える事がある。鋭い美菜は、直ぐにそれに気付いた。
「食器棚が片付いてる~ありがと~!」
「あと、寝室のお布団も干したよ」
「良かったね、里美」
「うん」

消灯して里美が言った。
「寝室は畳の方が良かったね!」
「フローディングなんて私たちには似合わないってこと?」
「だね。でも、同じ布団で寝てるなんて凄くない?」
「こんなんじゃ私たち男が出来ないね」
「ねぇお姉ちゃん?」
「何?」
「私今日、道で出会った人からたい焼き貰ったの」
「どういうこと?」
里美は美菜に昼間の出来事を話して聞かせた。
「いい人だと思うなっ、その男の人。でも事故には気を付けてね!」
美菜は、その妹の顔からみて幸せな一日だったんだなぁと感じた。
「でも結婚してると思う。私は・・・裕樹(ゆうき)だけで充分なの」
里美をギュッと抱き締めた。
「何お姉ちゃん!やめてよ~」
「まだ忘れられないんだね、彼のこと」
「出来ることなら忘れたいよ・・・」

 翌日の昼下がり、里美は昨日の公園に行ってみた。そこは細長く、案外奥の方まで続いていた。テクテク歩いていくと噴水がある。冬なのかさすがに水は出ていない。陽だまりのベンチは暖かく、風もない。その真向かいにある新聞屋さんが夕刊配達の準備で忙しそうだ。
「あっ、昨日の!」
思わず言葉を発してしまった。そこにいたのは紛れも無く昨日たい焼きをくれた彼だった。こう見れば体育会系っぽいのが肯づける。里美はお礼を言わなきゃと思い不意に近付いたが、声を掛けるタイミングが取れない。すると、隣にいた眼鏡を掛けた男が里美に気付いてきた。
「あの、何か?」
真面目そうな彼が言った。
「はい、昨日のお礼を言おうかと思って・・・」
里美は背の高い男を見ながら言った。
「あっ、兄貴に!?」
どうやら若い男は弟で、昨日の男が兄貴らしい。
「啓介(けいすけ)~、何してん・・!」
兄貴は里美に気付いたらしく近付いてきた。
「昨日はありがとうございました」
「礼を言いに?」
「たまたま見掛けたもんで」
「そうか。おい啓介、良かったら友達になって貰えよ。な?」
兄貴はそう言い白い歯を見せると、新聞を山積みに載せたバイクに跨り去ってしまった。どうしていいのか分からない啓介を見て里美は思い付いた。そしてジェスチャーをして言った。
「何か書くものある?」
「広告のウラ面とかでいいですか?」
兄貴と違い丁寧な口調で啓介は言うと、いらなくなった紙面とペンを持ってきた。里美は自宅の電話番号を書いた。
「良かったら連絡してっ」
「はい」
「お仕事頑張ってね!」
啓介は里美に一礼すると、自転車に積んだ新聞を配りに出ていった。里美は胸の高まりを覚えていた。自分がしたことがまるで嘘の様に思えてならない。たぶんここまで出来たのは、好青年に見えた啓介をちょっぴり好きになったせいかも知れない。
その夜、啓介から電話が掛かって来た。姉の美菜はまだ帰って来ない時間だった。しんみりとした会話が妙にぎこちない。何か話さないと・・・そう思って年齢を聞いた。この電話で分かったことは、彼が30歳で兄である駿(しゅん)が36歳であることだった。兄弟で長野は南アルプスから上京し、新聞販売所の寮に住んでいるという。趣味は特にないが、歴史とか旅が好きと言う。そんな啓介と翌日逢うことになった。

 啓介は、仕事がひと段落すると里美に電話を掛けてみた。里美は、直ぐに受話器を取ると、明るい声で「待ってたよ」と言った。駅前のコーヒーショップで二人は待ち合わせた。
「姉がケータイ買ってくれるって」
「珍しいね持ってないなんて」
啓介は笑って言ったあと、里美の顔色を見て謝った。
「いいの、私いま働いてないし」
「ぼくも最近手術して、少しだけ働ける様になったんです」
「どこか悪いの?」
「今度再発したら目が見えなくなるかも知れないんです」
「里美さんは健康ですか?」
「私は・・・心が病んでるの」
「よく分からないけど・・」
「ごめん、私はたぶん元気よ」
「よかった」
「啓介くんて優しいのね」
「里美さん、彼氏いないんですか?」
「いないよ」
「ぼくみたいのじゃ駄目ですか?」
「えっ?・・・うん」
「乗り気じゃないね。あっ、今日片付けの当番なんで帰らないと」
啓介はそう言うと、ショルダーバッグの中から写真集らしきものを取り出し、里美に渡した。
「プレゼントしますよ。ぼくが撮った故郷の写真集です」
「嬉しい!ありがとう」

 美菜はテーブルの上に置いてある写真集を手に取った。ページを捲ってみると、どこかの田舎の風景が魅力的に撮られていた。布団で寝ていた里美が目を覚ました。
「お姉ちゃん、お帰りなさい」
「いい写真だね!買ったの?」
「啓介くんから貰ったの。彼が撮ったんだよ!」
「あっ、昨日話してた彼?・・・フ~ン」
「あっ、私彼氏できたから。あなたも付き合ってみたら?」
「お姉ちゃん、幸せになってね」
「それ言うのまだ早いって!」
「私、彼に何が出来るかしら?」
「そうねー。それ、彼に聞くといいわよ」
里美の中で、啓介というボーイフレンドの存在は大きくなっていった。

 日曜日の朝、シフトが非番である美菜は、敦彦とのデートの準備で忙しくしていた。その時インターホンが鳴った。傍にいた里美は、姉の顔色を伺いながらそっとドア越しのミラーを覗いてみた。
「あっ!」
思わず声が出てしまう。そこに居るのは啓介の兄貴である駿であった。
「お姉ちゃん!啓介くんのお兄さん!」
「もしや勧誘!?いいわ、話してみたいし・・・里美は来ちゃ駄目よ!」
そう言うと姉は玄関のドアを開けた。里美の姉だと知らない駿は、不器用な口調で新聞の勧誘を促した。それでも彼に対し、美菜はひたむきな印象を受けた。そして美菜は言った。
「ごめんなさい。新聞、必要ないの」
美菜はそう言ったあとも、じっと彼を見つめていた。駿は頭を下げ続けた。
「わかった。ね、新聞取るから洗剤たくさん頂戴?」
図々しい客と思うだろう。けど駿は美菜を制すると急いでそれを取りに行った。それから、印鑑を押し契約を済ませると、駿は深々と頭を下げお礼を言った。
「ありがとうございました!」
美菜は、部屋に戻ると里美に言った。
「生活きついけど新聞取ったよ。駿さんて人、何か必死だったし」
美菜の本音は、里美と啓介が仲良くいて欲しいという願望で一杯だった。
「ありがとう」
「そうだ。ちゃんと啓介くんにお兄さんから新聞取ったって話しておいてね!」
「話しとく!」
「私、今日遅くなるかも。何かあったらちゃんと連絡してね。その為にケータイ買ったんだし」
「はい。お姉ちゃん、デート楽しんで来てね!」

 部屋に残った里美は啓介の写真集を開いてみた。アルプスって聞くと『ハイジ』を連想させるが、日本にもそんな場所が存在するのか?ページを捲っていると中程のページが抜けた。そんな安っぽい本だけど、福島の故郷とはまた違った風景の宝庫であった。

 美菜は敦彦の車でお台場に来ていた。地平レベルのレストランの窓からは、冬晴れの空の下、運河をゆく遊覧船やレインボーブリッジなどが見える。この人と居れば何不自由もなく人生を楽しめそうだ。美菜は東京に出てきて良かったと思う。自分が描いた理想に近付いているからだ。
「美菜?」
「何、敦彦?」
「結婚したら子供欲しいよな?」
「結婚?」
「ヤダぁ。まだプロポーズされてないし・・・」
美菜の言葉に敦彦は笑って言った。
「直接言うのはまだ早いとか思ってたけど。俺との結婚、考えといて欲しい」
「妹が独立できた時には・・・」
「早くそうなるといいなぁ」
敦彦には妹の病気について先日話していた。その時彼は三人で暮らしてもいいと言ってくれた。しかし姉としての願望は、里美を貰ってくれる人が現れることであった。男女の縁なんてあるようでないものだ。次に出遭う人が自分と同じ方向を向いた時、巡り合う確率が生まれると美菜は思う。だから焦る必要はない。それなのに焦るのは何故?それは、自分が早く彼と結ばれたいと思う他ないのだ。そんなとき里美にもボーイフレンドが出来たのは、神様が美菜に与えたチャンスだとも思った。
日が暮れる頃、美菜は敦彦のマンションに居た。落ち着いたシックな部屋には昔やっていたというエレキギターが立てかけてある。シャカシャカとそれを鳴らしながら彼は言った。
「今晩、ここに泊ってけよ」
「ごめんなさい」
許されるなら・・・あなたに甘えたいよ。心の中で美菜はそう呟いていた。断られた敦彦は、悲しそうな眼差しで美菜を見つめていた。彼は背中から美菜に抱き付くと「どうしようもなく好きだ」と言った。そして唇を奪われる。美菜は嬉しかった。それから言った。
「シャワー浴びてきます」
美菜の言葉はその続きを意味していた。

「今日から緑ハイムの小高(こだか)さんにも配達して欲しいんだ。今月分はサービスになってる」
駿は啓介に新規客用の地図を渡した。
「兄貴、ここ里美さんのとこだよ!」
「え?じゃあ昨日契約したのはお姉さんだったのか?」
「たぶん」
「啓介、上手くやれよ!」
駿はそう言うと白い歯を見せ、啓介の小さな背中を叩いた。

 啓介は夕刊を配達しながら、里美の住む部屋を見つけるとインターホンを鳴らしてみた。何度か押すが出てくる様子がない。仕方なく新聞受けに夕刊を差していった。伝えたいこともあり、夜になってからメールを入れてみた。暫くして返事が帰ってきた。
里美《メール打つの遅くてごめんなさい。具合悪くて出られなかったの》
啓介《大丈夫??何かあったら力になるから言ってくださいね》
里美《ありがとう。啓介くんのメール見たら少しゲンキになったよ》
啓介《話変わるけど。お母さんの三周忌行くんでしょ?もし良ければ兄貴が車借りて四人で行こうって話なんだけど。僕、野馬追い(のまおい)会場見てみたいんだ》
里美《野間追い知ってるの?》
啓介《知ってるよ。戦国時代からの祭事なんだよね!》
里美《じゃあ姉に聞いておくね》
啓介《ではお大事に》

 美菜は帰宅後、里美から啓介からの提案を聞くことになる。美菜は遊びじゃないんだからと渋ったが、この機会に二人の様子を見てみたいと思い直した。そして言った。
「わかった。ただ、早朝にここを出ないと十時の法事には間に合わないってこと伝えといて貰える?」
「伝えるね」
そう言うと里美は、啓介にメールを打った。

 夜も明けぬ二月の下旬、美菜と里美は喪服を着て、駿の運転するレンタカーで福島へと向かう。この日の駿は、美菜が先日会った新聞屋の彼とはイメージが違って見えた。クールで、逞しくて。それに照れ屋さんなんだと美菜は見抜いた。そして言った。
「福島の路面は雪かも知れないですね」
「そうかと思ってラジアルタイヤ着けて貰いましたよ」
駿はそう言うと、右にウインカーを出して車を走らせた。
「へ~そんなに寒いのかぁ」
助手席の啓介が呟いた。駿が言う。
「おい、俺たちの故郷と変わんねぇよ」
「ねえ、雪かどうか賭けてみない?」
里美が楽しそうに言うと、美菜は即答した。
「私は積もってると思うな」
「私はまだ雪が降っていない気がする」
「じゃあ僕は里美さんと一緒で!」
「駿さんは?」
「えっ?俺は・・・なら美菜さんと同じで」
八時を廻った頃、建設途中の常磐道は行き止まりになり、美菜のナビで山線を走ることになった。路面は雪でなく雨が降った様子で濡れていた。朝霧の中、このまま山の中へと消えてしまいそうな恐怖さえ感じた。啓介は興味深く外を眺めているが、姉妹は眠ってしまったようだ。
「お前眠くないのか?」
「だって車から見る景色楽しいから眠れないよ」
「啓介・・・俺はお前の目が見えなくなるなんて思っていないさ。絶対に優秀な医者を見つけてやる!」
「兄ちゃん・・・」
美菜はうっすら目を開け、再び目を閉じた。その目から涙が流れていた。里美から聞いていた話は本当だったんだ。兄貴の優しさをしみじみ実感した。

 お寺さんに着いた頃にはすっかり晴れ間が覗いていた。美菜は町中にある市立博物館を駿に勧めた。里美は啓介に目で挨拶を交わすと、美菜と寺の門を潜り、親戚の集まる控え室へと向かった。

 一方、兄弟は博物館までの道に迷ってしまった。狭い町なのにぐるぐると同じ道に出てしまう。
「兄ちゃん、無理しないでいいよ!あとで野間追い開場見れればいいんだ」
「そうだな。そういや食事しとけって言ってたなぁ。磯料理なんていいねー。さては海辺に出てみようじゃないか」
「いい案だね!」
二人の乗った車は、先月まで姉妹が暮らしていた古いアパートの横を走っていった。

 昼下がり、里美は啓介にコールした。法事もその後の食事も無事済んだからだ。そして父やご先祖の入る墓にも手を合わせた。親戚と別れた姉妹は、境内を歩きながら話した。
「ねぇ里美?駿くんには彼女さんいないの?」
「いないみたい。あっ、お姉ちゃんもしかして!?」
「私には彼氏いるから・・・」
「そうだったね。・・・もし私が啓介くんと恋人になったらお姉ちゃん、お嫁さんに行って!」
「ありがとう」
まだ踏み切れないんだよね。美菜は心の中でそう言った。
「来たよ!」
里美の言葉で美菜は振り向くと、車から手を振る啓介が見えた。
「お疲れ様でした」
二人にそう言ったのは駿だった。車で5分とせず、毎年七月に野間追いの行われる雲雀ヶ原祭場地に着いた。晴れていた空が、グレーの空に変わっていた。一面芝に包まれた緑に、土の滑走路が楕円を作っていた。いわば、競馬場の縮小版のような感じにも見受けられる。
啓介は里美に案内され、ずっと先を歩いていった。美菜は駿の後をゆっくりと歩いていた。そして今は緑薄き祭場を見下ろす丘に上り、ベンチに腰掛ける。そこからは山と海に広がる町全体が見渡せた。
「あの二人、上手くいけばいいな。あいつ、いい奴だから・・・」
「私の妹だって負けていないわよ!」
美菜がそう言うと、駿が無邪気に笑った。
「弟が幸せになるのが俺のちっぽけな夢。お姉さん、啓介のこと反対しないでくれますか?」
「反対だなんて。里美だって病気持ってるんだよ!? ねぇ、駿くんには好きな人いないの?」
「俺は。・・・俺はどうでもいいよ」
「私じゃ駄目ですか?」
「美菜さんが俺の?」
「ねぇ、今日しかチャンス与えないわよ!」
「凄い自信なんだね」
「勇気だよ!」
「勇気?」
「あなたなら私の弱さ見せられる気がするの。私たち似てるもん」
「このチャンス、逃せないな!!」
駿は力強くそう言った。見下ろせば、誰も居ない戦場でキスを交わす二人がいた。驚いた美菜も次の瞬間、駿に唇を奪われた。緑の地に粉雪が舞い散る。

古い恋は、新しい恋によって塗り替えられる。里美の心も長い冬から春へと向かうであろう。それは雪が溶けるように・・・

 -完-
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

| 恋愛小説 | 19:35 | コメント:8
年末年始特別企画 ~IN HAKODATE CITY~
HAKODATE

昨日は日帰りで函館より自宅に帰宅し、撮影したデーターを整理してたのですが、深夜とても冷え込んでました。体調には注意ですね。
残念ながら当地は曇りがちでしたが、路面の雪も少なく無難に散策できました。

今年も恋愛小説書いていけたらと思いますので、ぞうぞよろしくお願いします!!  '07.1.2 POPSTAR

テーマ:ある日の風景や景色 - ジャンル:写真

| 写真 | 16:00 | トラックバック:0コメント:10
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プロフィール

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Author:POPSTAR
HN: POPSTAR
東京都出身、横浜市在住
趣味:写真撮影、音楽制作、作家活動、野球、ドライブ、飲み会(笑)ほか多数・・・
『愛ラブYOU』では短編小説を中心にアップしてます。感想などお待ちしてます!!
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